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いよいよ動き出したパチンコ換金の法制化論

木曽崇国際カジノ研究所・所長

「あ゛~ぁ、だからやめろと言ったのに…」としか私としては思えない案件がいよいよ動き出した模様です。以下、ロイターによる報道から。

自民、風営法改正へ議連設立

http://jp.reuters.com/article/jp_Abenomics/idJP2014021401002513

自民党の有志議員は14日、風営法改正を検討する議員連盟を設立した。風営法は「設備を設けて客にダンスをさせ、飲食させる営業」を許可が必要な風俗営業と規定し、警察当局がダンスや音楽を楽しむ「クラブ」などの取り締まりを強化している。これに対し法改正を求める署名運動が広がっている現状などを踏まえ、規制の妥当性を幅広く検証して法改正につなげる。[...]

「自民党内に風営法の改正を目的とする議連が設立され、ナイトクラブの規制緩和について論議を始めた」とする報道ですが、こちらの分野に関しても長年コミットをして来た私が認知している流れと、あまりにも乖離しすぎていて違和感を持ったのがキッカケです。そもそも、ナイトクラブに関連する風営法改正に関しては、すでに超党派で構成される議員連盟が存在しており、今更のようにわざわざ自民党内で議連を建てる必要がない。「こりゃ何かがオカシイぞ」と研究者の嗅覚が働きまして、諸々の関係者から情報を集めた結果が以下のようなものです。

上記ロイターにて報じられたナイトクラブ等の規制緩和を目的として設立された風営法議連の報道は大間違いで、その実体はパチンコ換金の法制化を論議の中心として設立された議員連盟です。

すでに14日に行われた議連の発足準備会合では、かねてから換金法制化を主張してきたパチンコホールの某業界団体の理事、およびここ数年、新型パチンコ機の法制化で暗躍している機器メーカーの某業界団体の代表者等々が参加しており、それぞれが主張してきた風営法の改正および、新・パチンコ業法に関するプレゼンを行っています。この先続く議連勉強会のスケジュールなどもすでに内々で配布されているのですが、ナイトクラブや雀荘などその他の風営法関連業種にも申し訳程度に触れられているものの、その内容の大半はパチンコに関連するテーマとなっているとのことです。

ここにきて、なぜこんな突貫工事で議連が作られ、むりくりな形でパチンコ業法の提出が進められているかというと、一方に存在するカジノ合法化の流れがあるからにほかなりません。我が国のカジノ合法化を推進するIR推進法は、昨年12月の臨時国会の終了間際に提出され、今国会で予算審議が終わった後、すなわち4月の後半以降に法案審議が始まろうとしています。上記、風営法議連の関係者からは「今期国会中に議員立法として改正風営法の提出を行うべき」とする発言もすでにみられており、風営法議連としてはIR推進法と新たなパチンコ法制の論議を同期化して、国論喚起をする目論みなのでしょう。

このようにパチンコ業界側の動きが明確化してきた中で、今後のカジノ法制化に向けた論議は紛糾必至です。なぜなら現在すでに国会提出されているIR推進法案は、これまで我が国の賭博事業の原理原則とされてきた「賭博は公による独占業務」とするルールを根底から覆し、民間賭博としてのカジノ事業を前提として作られた法案だからです。これが認められた場合、同じく民間事業として営業されているパチンコ換金の法制化を制度的に否定する根拠は非常に少なくなる。実は、私は国内カジノ専門家の中でそのような形式での法制化に対して明確に反対してきた唯一の研究者であり、そのリスクに関してずっと訴えてきました。

カジノ合法化論と共に、何やらパチンコ新法の話が蠢きだした

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/7996814.html

[...]一方で、現在実しやかに語られている「民営カジノの法制化」、もしくは「パチンコの軽度なギャンブルとしての法制化」に代表される我が国に民営賭博を誕生させようとする試みは、これまで積み重ねられてきた刑法185条および35条の刑法学上の整理を根底から書き換えることが必要となるほか、上記のように多数の判決が存在する司法による決裁をも覆してしまう可能性のある非常にリスクの大きいもの。このような、刑法185条が賭博を禁じていることの本旨が没却されてしまうようなカジノ合法化に向けたアプローチは、私の立場からすれば全く現実味がないワケで、またその先に「パチンコの独自法制化だ」なぞという構想が語られれば、それこそ延々と論議が空転するばかりで、結局カジノ合法化が先延ばしになるだけと考えています。

…で案の定、国政においてパチンコ業法を提出をする動きが完全に始まってしまっている訳で、私としては冒頭の「あ゛~ぁ、だからやめろと言ったのに…」としか言いようのない展開となっています。

いつもの繰り返しになりますが、パチンコとの法的区分け、既存の公営賭博との制度的整合性を前提とすれば、我が国のカジノ合法化は「公営を前提としながら、そこにどのように民間企業の資金力とノウハウを活用するのか?」を検討するのが最短の道筋です。そのための制度的枠組みは、実はすでに既存の公営賭博制度の中に存在しているわけで、そちらを発展させながら民間活力を100%喚起できる制度を整備すればよいだけのこと。どう考えても無理筋かつ、既存のパチンコおよび公営賭博制度と齟齬が出てくる民営カジノ案などをごり押しする必要は全くないのです。

一方で、これら民営カジノを推してきた論者グループはこの既存法制との齟齬を認知しつつ、「カジノとパチンコは論拠法が違う」だとか「パチンコはあくまでカジノの後の論議である」だとか、私からすれば完全に不見識な発言を繰り返してきました。その様相は、以下のインタビューなどにも現れています。

【遊技産業特集】(2-1)□大阪商業大学アミューズメント産業研究所 所長・美原融氏

http://hermit-bet.xsrv.jp/wordpress.org/2013/08/01/554/

[...]パチンコホールとカジノでは、訪れる客の志向が異なることから、客や市場の奪い合いなど直接的なマイナス効果はほぼ考えられない。しかしながら、制度的に比較されるという間接的問題が生じてくる。つまり、3店方式などに関しては、司法上の判断ではなく、行政解釈に依拠する曖昧な部分に対し、これをクリアに説明できる理論や新たな制度の構築がこれまで以上に求められる状況も予測される。現在、パチンコホールの営業は風営法にもとづいて実現しているが、この点を考えれば、将来的にゲーミングの1つとして別の法律の枠組みに組み入れることも検討すべきだと思われる。それにより、国民の認識もシンプルになるし、ビジネスとして閉塞感が漂う現状の打破に向けても、別の展開が見えてくる可能性はある。

すなわち彼らは、民営カジノ法案と現行のパチンコ統制制度の間に、重大な不整合が存在していることを認知しているのは勿論の事、その影響がパチンコ法制の改定論議に繋がることも予見していたといえます。彼等の唯一の「読み違い」は、パチンコの論議はカジノ法制論議の後に処理できるものと考えた点。しかし、その実はこれから合法化の検討が始まるカジノも、風営法によって統制されるパチンコも、どちらも同じ刑法第185条の解釈に基づいて存在するものですから、互いが影響するのは当り前。そして、その必ず発生する相互的な影響に関する論議を、「論拠法が違うから同じ俎上で論議はしない」などという逃げ口上では避けられないということです。

加えて、ご紹介のようにすでにパチンコ業界側からパチンコ業法の国論提起がなされた以上、もはや「ソレとコレは別論議だ」などとは言っていられませんよ。これらすべては、民営カジノ論を推してきた論者達の身から出た錆であり、そのあたりはキッチリと責任を持って対処して頂く必要があります。

そして最後に、そもそも14日に開催されれた風営法議連の会合は、殆どがパチンコに関する内容に特化されていたにも関わらず、なぜ「ナイトクラブに関連する制度改定等をめざした議連である」などとする報道がなされたのか?ここにはもう一つややこしい裏事情が見えてくるのですが、そのあたりはまた別の機会に言及することにしましょう。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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