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関西経済同友会が大阪カジノ提言

木曽崇国際カジノ研究所・所長

関西経済同友会から大阪統合型リゾート構想に関して、最新の提言が出ています。以下、関西経済同友会発表資料へのリンク。

【提言】「大阪・関西らしい世界初のスマートIRシティ」の実現に向けて-コンセプトの提言-(PDF)

http://www.kansaidoyukai.or.jp/LinkClick.aspx?fileticket=fcvRQkturvU%3d&tabid=57&mid=528

本提言は、6項目で構成される提言ということになっており、以下のようにまとめられております。

1. 壮大なスケールと関西の強みを活かした世界最高水準の観光集客機能を集積

2. 水の要素を取り入れ、浪華八百八橋の原風景をモチーフにした水都大阪のシンボル都市

3. 関西が世界に誇る環境技術・ICTを結集した世界最高水準のスマートシティ

4. 世界と関西をつなぐゲートウェイとして空港や周辺都市との直結動線を強化

5. IR事業を核として、関西ひいては日本を元気にする様々な仕組みを構築

6. 東京オリンピック開催の2020年を目標に官民が連携して事業を推進

私のカジノ専門家としてのスタンスは「地域のIR構想は地域が考えるもの」というものであり、ここで述べられている「大阪IRはかくあるべし」論に関しては言及するスタンスにありません。こういうものは、地域に住んでいない外野が「アレが良い」だの、「コレは悪い」だのヤイヤイ言って、良かった例がない。上記資料も含めて、キレイに作らていますし、宜しいのではないでしょうかね。

一方で、実務的な部分で申し上げるのならば、幾つか気になるところが見えておって、特に一番「んー」と思わざるを得ないのが「提言6」に関連する開業までに想定されるタイムラインの部分でしょうか。

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(出所:「大阪・関西らしい世界初のスマートIRシティ」の実現に向けて, 関西経済同友会)

これは昨年末に刊行した拙著「日本版カジノのすべて」でも記述した通り、2015年に至って未だ推進法すら成立していない我が国の統合型リゾート構想は、少なくとも本格的な統合型リゾートを一から建て、その開業を2020年のオリンピック開催に間に合わせるのは現実的に無理です。何とかそれに間に合わせるには、1)すでに一定のインフラがある施設に追加投資という形でIRを実現する、2)開発フェーズを幾つかに分けて2020年に間に合う部分だけを部分開業する、のどちらかしかありません。

私がこれだけ明確に主張しているのにも関わらず、業界内では未だに「オリンピックまでに…」論を振り回す人間が沢山おりまして、昨年末まではその声も非常に大きかったワケですが、いよいよ関西経済同友会も観念したのか「段階的開業」という方針を明確に示すに至りました。ま、そんなこと昨年の初旬の段階から既に無理が判明していて、判り切っていた事なんですけどね。ただ、関経同が改めて示している上記スケジュールは、それでもまだ現実を見ていないというか、「ゴマカシがあるなぁ」というのが正直なところです。

上記、関西経済同友会の示すタイムラインは、「事業者公募/区域選定」と「設計/建設工事」が一つの行程として纏められていますが、本当はこれは全く別物の行程なんです。法案の実施検討スケジュールが関西経済同友会が示すもの通りに進むという前提でタイムラインを修正すると、本当は以下のようなものになります。

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(出所:「大阪・関西らしい世界初のスマートIRシティ」の実現に向けて, 関西経済同友会に筆者加筆)

ポイント1:

現在想定されている入札プロセスに基づけば、区域選定と事業者公募は全く別の入札プロセスです。まず国が開発区域を担当する立地自治体を選び、そこで選ばれた立地自治体が開発を担当する事業者を公募する。すなわち、この部分を正しく記載するのならば、少なくとも2016年末、もしくは2017年初旬まで開発区域自体が決定しません。

ポイント2:

「少なくとも2016年末まで開発区域自体が決定しない」という事は、その時期まで大阪に統合型リゾートが開発されること自体が確定しないワケですから、当然そのためのインフラ整備はその後にしかスタートできない。すなわち関経同は、インフラ整備の開始期を「2016年6月」としていましたが、本当のスタートは2017年の末となります。当然、ここから設計が始まって、実際の工事に至るわけですが、その間含めて最大で3年半しかありません。

ポイント3:

関経同が示すスケジュールに則り、事業者選定が2017年12月ごろに終わったとして、設計と建設工事のプロセスが始まります。当然のことなのですが、事業者公募の入札が行われる段階において、提出される開発案というのはあくまで建設の基本設計を示したものにすぎません。それこそこの段階の開発案というのは、今ちょうど東京オリンピックのメインスタジアムとなる国立競技場の建て替え問題においてゴタゴタと揉めているのと同じステージであり、その基本設計から各種法令の示す基準に乗っ取りながらそれを実際の工事行程を示す実施設計にまで落とし込むプロセスが必要となります。

ちなみに、現在の国立競技場の建て替え計画においては、基本設計から実施設計を起こすまでに必要とする期間を、2014年8月~2015年9月までの1年としています(昨年8月発表時点)。但し、国立競技場の建設の場合は基本設計までの行程と、その後の実施設計以降の行程を異なる事業者が担当し、それぞれが公募型プロポーザルで選ばれるという特殊な形式をとっています。

よって、これらが同一事業者によってなされるのであれば、この期間は短縮できるものと想定して半年で完了できると考えたとしても…2020年夏のオリンピック開催まで2年を切ってしまうワケです。

ポイント4:

ところが、このオリンピック開催までの2年をフルに建築期間に充てられるかと言えば、全くそんな事はありません。我が国の建築物は、工事が完了したのちに、それらが建築基準法に基づいた適切な建築物となっているかどうかの完了検査があるわけですが、実はそれが「カジノ施設」として機能する為には、それとは別にカジノを規制する法令に基づく「運営許可」の申請が必要となります。

この運営許可の申請から取得までにどの位の期間がかかるかは、正直、その国の規制当局がどこまで厳密に法令の適正運用確認を求めるかによるので一概に言えることでもなく、また未だカジノのない我が国において比較対象できるものは少ないのですが、例えば風俗営業法で規制されるパチンコ店の営業許可に関しては申請から許可が出されるまで最大55日、すなわち2か月弱とされています。勿論、カジノは規模的にも、そして検査項目的にもパチンコ店の比ではなく、少なくともパチンコ店以上、すなわち運営許可を取得するまでに少なくとも3か月から半年は必要となるであろうと想像しています。

即ち、ここまで想定して開業をオリンピック開催に合わせようとすると、実質的な建設工事の期間は最大で1年半前後ということになるでしょうか。

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という事で、現実問題として1年半の建築期間で何が建ちうるのか?という論議になってくるわけですが、一般的な基準で言うならば中小クラスのマンションを一棟建てるのでも、通常は1年半くらいの工期は要するものです。ちなみに、例として先にもあげた東京オリンピックのメインスタジアムとなる国立競技場は、実際の建設工事期間に2015年10月~2019年3月までの3年半を充てています。

国立競技場は、開発敷地面積自体が113,366平米、それに対して関経同の示す大阪IR構想の敷地面積は2,200,000平米(220ヘクタール)ですから、国立競技場の約20倍(!!)の敷地面積があり、また実質国立競技場の半分以下の工期しか確保できないわけですから、2020年までに完成が可能な施設を非常にザックリと示すと、たとえば以下のようなイメージとなります。

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(出所:「大阪・関西らしい世界初のスマートIRシティ」の実現に向けて, 関西経済同友会に筆者加筆)

…考えても見てください。今は何もないただの広大なる空地たる夢洲の中に、ポツンと上記で色を付けた範囲の施設だけが建ってる姿を。。正直、かなりお寒い光景が想像に難くないワケですが、それで2020年東京オリンピックに来訪する観光客に、どんな統合型リゾートの魅力を見せるつもりなんでしょうかね。そもそも、関経同の示す第一期開業では「統合型」と呼べるほどの商業集積もなく、かといって周辺は何の観光機能もないただの空き地ですから、そもそもこの施設はIRとして成立し得ません。

ということで、私としては2020年までの開業などという無理な計画を前提に中途半端かつ稚拙なものを作るくらいなら、オリンピックまでの開業は諦めて「アフターオリンピック」の観光振興、経済振興策として、どっしりと腰を据えて統合型リゾートを考えましょ、という主張を引き続き改めてここに表明しておきたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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