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飲酒、喫煙、賭博が18歳から可能に。果たしてその背景は…

木曽崇国際カジノ研究所・所長

自民党の成年年齢に関する特命委員会が、民法改正によって成人年齢が18歳からに引き上げられる事に伴って、飲酒、喫煙、賭博なども合わせて18歳以上に引き下げるべきだとする提言案を纏めたのこと。以下、NHKからの転載。

飲酒・喫煙も18歳以上が妥当 自民特命委

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150902/k10010213021000.html

民法の成人年齢は、できるだけ速やかに引き下げて18歳以上にするとともに、少年法による保護の対象も18歳未満に引き下げることが適当だとしています。また、成人年齢の引き下げを前提に、飲酒や喫煙をできる年齢も「大人としての責任だけではなく、権利や自由も付与することで自覚を呼びかけ、責任感を醸成することができる」として、同様に18歳以上とするのが妥当だとしています。

さらに、未成年者の馬券の購入を禁止している「競馬法」などギャンブル関係の法律も、禁止する年齢を18歳未満に引き下げることが妥当だとしています。

現在の我が国の公営競技の論拠法(競馬法、競艇法等)は、投票券の購入可能年齢に関して「未成年者は、勝馬投票券を購入し、又は譲り受けてはならない(競馬法第28条)」と定めています。ここで使用されている「未成年者」という表現は、民法第4条の「年齢二十歳をもって、成年とする」に紐付いたもの。即ち、公営競技の購入可能年齢に関しては、既に既定路線となっている民法改正による成人年齢の引き下げが単独で行われてしまえば、自動的に連動して引き下げとなる構図になっていました。

一方で、賭博、飲酒、喫煙等の開始年齢を引き下げる事に対する社会的な反発は大きく、これまでの論議の中では民法改正に合わせてそれぞれの論拠法の定める利用可能年齢を「成年者→満20歳」に変更し、現在の規制を据え置きにすべきという論が優勢だった…ハズ。

少なくとも私はその様に聞き及んでいたのですが、急転直下、どこで論議が転換したのでしょうか。他の報道では、未成年者による討論会などを企画して若者の声を取り入れたなどという「大義名分」が報じられていますが、実態としてはおそらくどこかがロビーをかけたのでしょう。「賭博/飲酒/喫煙」だと、その産業規模や政治的影響力、事業者の性質等から考えると、恐らく酒類の関連産業が最初に動き、それに連動して賭博/喫煙が動いた…というイメージではありますが、これはあくまで私の想像の限りです。

ちなみに、これは大分前のエントリにも書いたのですが、もし民法上の成人年齢が十八歳に引き下げられ、それと連動して公営競技の購入可能年齢が引き下げられた場合、以下のようなアベコベな状況が生まれてきます。

【現在】

競馬: 成年者(20歳以上)

競輪: 成年者(20歳以上)

競艇: 成年者(20歳以上)

オートレース: 成年者(20歳以上)

宝くじ: 年齢制限なし

サッカーくじ: 19歳以上

パチンコ: 18歳以上

【民法改正後】

競馬: 成年者(18歳以上)

競輪: 成年者(18歳以上)

競艇: 成年者(18歳以上)

オートレース: 成年者(18歳以上)

宝くじ: 年齢制限なし

サッカーくじ: 19歳以上

パチンコ: 18歳以上

実は、サッカーくじは1998年の創設時に、「スポーツを賭けの対象にすると学校教育に悪影響を及ぼす」と主張するPTAを中心とする反対者の声に配慮する形で、一般的な高校生が既に学校を卒業した年齢、すなわち19歳以上に購入可能年齢が定められました(スポーツ振興投票法第9条)。

ところが、民法改正による成人人口の引き下げに伴って公営競技の購入開始年齢が18歳以上となった場合、競馬、競輪などは18歳から遊べるのに、なぜかサッカーくじだけは19歳まで遊べないという何だか理屈の判らないガチャガチャな状況が生まれる事となります。もし、自民党の特命委員会の提言通りに制度改定が為されるのであれば、合わせてサッカーくじの利用開始年齢に関しても改正をした方がよろしかろうと思われます。

…が、本音を言えば、何でそんな社会的反発が容易に予想されるような制度改正案を出すかね、と言ったところ。正直、賭博業界にとっては開始年齢が18歳だろうが20歳だろうがあまり関係なく、これによって最も利得を得るのは酒類の関連業界。彼らの場合は、大学生の「コンパ」需要を期待できますし、それこそ新歓コンパを「入り口」にして若者の飲酒習慣を促進できるようになりますからね。。

なんともはや…と言ったところですが、お酒は健康に配慮しながら、あくまで「楽しく」呑みましょうね。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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