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スポーツ選手の賭博問題の陰で「スポーツ賭博」利権が拡大

木曽崇国際カジノ研究所・所長

さて、バドミントン日本代表選手の違法カジノ店通いに関して、以下のような方針が決定した模様です。以下、NHKより。

賭博処分の桃田選手らに助成金の返還命じる方針固める

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160513/k10010519251000.html

JSCは、運営するスポーツ振興くじを財源とする助成金を、桃田選手には昨年度までの3年間で合わせて180万円、田児選手には平成26年度までの5年間で720万円を交付していました。しかし、この助成金は、「選手が競技活動に専念して競技水準の向上を図る」などの目的で交付されていて、JSCは、2人が助成金を受けながら賭博をしていたため、助成金の返還請求を検討してきました。

勿論、違法カジノ店の利用は犯罪であり、その点そのものはカジノ専門家としてけっして容認はしませんが、一方で桃田選手らに対する様々な事後処分に関しては、私は同情的です。昨年のプロ野球選手による野球賭博事件と違って、バドミントン選手が違法カジノ賭博に興ずることは刑法上の犯罪行為ではあれど、職業倫理上の問題があるワケではない。

皆さんには、よく思い出して頂きたい。昨年のプロ野球選手の賭博問題において、野球賭博に直接かかわった4名の選手はそれぞれ処分を受けていますが、一方で付随する調査の中で違法な麻雀賭博、ゴルフ賭博、闇スロ店の利用が判明した選手たちには一切の処分が行われてない。それどころか、高校野球の試合結果に賭けを行っていた人間ですら、処分されていないのですよ。それらと比べると今回のバドミントン選手に対する一連の処分は、傍から見ていてどうも不均衡感が否めないのです。

閑話休題

このようにバドミントン選手達へにtotoくじ助成の返還を求める方針を固めたJSCでありますが、実はその影で彼らがもう一方で抱えるスポーツ賭博利権の拡大が決定しました。以下、日経新聞からの転載。

新国立整備の財源法成立 サッカーくじ売り上げ、最大10%充当

http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG02H0E_S6A500C1CR0000/

2020年東京五輪・パラリンピックのメーンスタジアムとなる新国立競技場の整備財源を確保するための関連改正法が2日、参院本会議で与党などの賛成多数により可決、成立した。スポーツ振興くじ(サッカーくじ)の売り上げを充当する割合の上限を、5%から10%に引き上げるのが柱。5月中旬に施行する予定だ。

改正法は16年度から8年間、くじの売り上げの最大10%を新国立競技場の整備費に充てると規定。東京都が国立施設に整備費を支出できる根拠も盛り込んだ。

最初にここで謝罪をしておきますと、私自身も実はここ一か月ほどの間、バドミントン日本代表選手の賭博問題を受けてバタバタと様々なメディアに借り出されていた状況でありまして、本法案の提出が行われた事は確認していたものの、その審議が進行しているのを認知したのは法案成立直前のこと。それ故、皆様へのご紹介が遅れてしまいました事を、お詫び申し上げます。

しかし、それにつけても性質が悪いのは文部科学省とJSCであります。今回、衆参の同意を得て成立した独立行政法人日本スポーツ振興センター法(通称:JSC法)の改正でありますが、本法律は一連の国立競技場建て替えを巡るゴダゴダの「原因」ともなった、文教族の賭博利権の中核を構成する法律であります。

我が国唯一の合法的なスポーツ賭博であるtotoくじでありますが、その収益金の用途は法律によって明確に決められています。以下、totoくじの論拠法であるスポーツ振興投票法からの転載。

(収益の使途)

第二十一条  センターは、スポーツ振興投票に係る収益をもって、文部科学省令で定めるところにより、地方公共団体又はスポーツ団体(スポーツの振興のための事業を行うことを主たる目的とする団体をいう。以下この条及び第三十条第三項において同じ。)が行う次の各号に掲げる事業に要する資金の支給に充てることができる。

一  地域におけるスポーツの振興を目的とする事業を行うための拠点として設置する施設(設備を含む。以下この項において同じ。)の整備

二  スポーツに関する競技水準の向上その他のスポーツの振興を目的とする国際的又は全国的な規模の事業を行うための拠点として設置する施設の整備

三  前二号の施設におけるスポーツ教室、競技会等のスポーツ行事その他のこれらの施設において行うスポーツの振興を目的とする事業(その一環として行われる活動が独立行政法人日本スポーツ振興センター法 (平成十四年法律第百六十二号。以下「センター法」という。)第十五条第一項第二号 及び第四号 に該当する事業を除く。次号において同じ。)

JSCはtotoくじの発売主体でありながら、同時にその収益金の差配までもを決定することも出来る絶大なる権限を保有した組織でありますから、当然ながらその事業を第三者的に監視する組織があります。それが、スポーツ振興投票の実施等に関する法律施行規則第十一条の二が定める審査委員会です。これら審査委員会は、JSCがtotoくじ収益を支給する際にはそれらを「あらかじめ」チェックすることで、その資金の適切かつ公正な利用を担保しているワケです。

(審査委員会)

第十一条の二  法第二十一条第一項 及び第二項 に規定する資金の支給が適切かつ公正に行われるようにするため、センターに、当該支給の審査を行うための委員会(次項において「審査委員会」という。)を置く。

2  センターは、法第二十一条第一項 及び第二項 の規定により資金の支給を行おうとするときは、あらかじめ、当該支給について審査委員会の議を経なければならない。

このように、totoくじ収益を巡ってはその利用にあたってモラルハザードが発生しないようにするための「仕組み」が存在するワケですが、それが機能しなくなる事態が起こります。それが、2013年の独立行政法人スポーツ振興センター法の改正でありました。

本改正は文部科学大臣が指定する国際的なスポーツ大会の開催を特定業務として定め、totoくじの売上の最大5%を「天引き」する形でその業務予算にあてることを認めるものでした。この天引きされる5%は、totoくじ収益として収益認知が行われる「前」にその売上の中から拠出されるものであり、上記、スポーツ振興投票の実施等に関する法律施行規則第十一条の二の定める審査委員会は、その内容に対して審査を行う権限がありません。

即ち、文科大臣が国際的なスポーツ大会として指定さえすれば、totoくじ売上のうちの5%、金額にして年間55億円が毎年フリーハンドで流れてくるわけで、そこに最初に群がったのがラグビー議連を中心に活動していた文教議員の面々、またの名を「森喜朗と愉快な仲間達」と呼ばれる面々であります。

というよりは、実はこのtotoくじ売上から5%を天引きする特定事業勘定は、もともと森喜朗氏が会長(当時)を務める日本ラグビー協会が誘致した2019年のラグビーW杯の為に作られたもの。2009年に日本、南アフリカ、イタリアの3加国で争われたラグビーW杯の誘致レースは、ラグビー先進国である南アフリカ、イタリアを振り切って日本が勝利したわけですが、その時に唯一ワールドラグビー側が懸念したのが会場の問題でありました。

南アやイタリアと比べてラグビーがそれほど人気なわけではない日本においては、ラグビーW杯を開催するのに適した規模を持つラグビー施設がほとんどありません。特に大会の目玉となる決勝戦は何としても首都、東京で開催すべきだとの主張が為された結果、当時、耐震補強か建替えかで論議が紛糾していた旧・国立競技場が一気に「規模を拡大して建て替え」の方向に向かって動き出しました。実は、2013年4月に成立した独立行政法人日本スポーツ振興センター法は、ラグビーW杯の決勝戦会場として目されていた国立競技場の建て替え予算を拠出する為に整備されたものであったわけです。(その後、2013年9月に東京オリンピックの誘致が決定した)

また先述の通り、この法改正によって認められた特定業務勘定は、本来、法令によって審査委員会による事前チェックが定められているtoto収益の利用を完全にフリーハンドにしてしまうものでもあります。そこで発生したのが「国際的スポーツ競技大会の誘致」を名目にしたダボハゼ的なtoto収益金の流用であり、文教利権者達が大集合してありとあらゆる機能を詰め込んだ果てに、当初予算を大幅に上回ることになって破綻した旧・国立競技場の建て替え計画でありました。その辺りに関しては、以前、関連する記事を書いています。

【参照】毎年55億円の流用で「焼け太る」国立競技場計画

http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/8908869.html

そして今回決定した法改正は2013年の法改正で認められた5%のtoto収益金流用枠を最大10%にまで引き上げるもの。繰り返しになりますが、この特定業務勘定は文部科学大臣の指定と「国際的スポーツ大会の誘致」という名目さえ立てば凡そ自由に利用が可能なものでありますから、時々の文部科学大臣に対して影響力を行使できる立場にいる方々(即ち文教族の中核に居る方々)にとっては、非常に使い勝手のよい「打ち出の小槌」となります。

すなわち第二、第三の国立競技場問題は必ず起こる。しかも、次にやる人達はより周到に水面下でコッソリ準備を行い、それを実行に移すことでしょう。私は立場上、日本の合法ギャンブル業界を応援する立場でありますが、今後、二度とtotoくじは応援しないことをここに誓いたいと思います。

国際カジノ研究所・所長

日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部卒(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者グループでの内部監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長へ就任。9月26日に新刊「日本版カジノのすべて」を発売。

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