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第12エンド「カーリング日本選手権6日目、ファイナリストはSC軽井沢と札幌4REALに」

竹田聡一郎スポーツライター
第7エンド、フリーズ合戦中の両軍バックエンド。満足と不安が交差する好エンドに。

「第34回 全農日本カーリング選手権大会」もいよいよクライマックスだ。午前中には男女共にプレーオフ第一試合が行われた。プレーオフのシステムはこちら

4試合すべてが最終10エンドまで進み、五輪選考も兼ねていることもあり、会場は独特な緊張感に包まれた。

やはり注目されたのは予選1位の4REAL(札幌)と2位のSC軽井沢クラブとのゲームだ。両軍アイスリーディングに若干の時間を要す重い立ち上がりながら、1エンドからハウス内でストーンの出し入れをする緻密な展開を見せる。

後攻を持った4REALのスキップの阿部晋也は1投目、SC軽井沢のNo.1にフリーズを試み、おおむね予定どおりの位置にストーンを運ぶも、若干、相手の石を押してしまい、ストーン約1個のスキマを作ると、すかさずSC軽井沢のスキップ両角友佑はピールを決め、複数得点を阻んだ。ストーン1個単位でもズレると相手につけこまれるような、高い技術と駆け引きが求められるゲームの幕開けである。

決勝進出のかかったゲームだけに、予選の同カードほど派手なクロスゲームにはならなかったが、玄人好みの息詰まる投手戦といった具合で、全8選手が1投目で決まらなくても2投目で取り返すショットを投げ続けた。1投でふたつぶんの仕事はマストで、3手ぶんの役割を果たすようなショットも散見した。

キーエンドとなった7エンドには後攻の4RERLサード・松村雄太が赤黄合わせて3つのキャッチャーを背にフリーズを沈め複数得点の足がかりを作るが、直後に両角がフリーズを決め返し、No.1を奪回する。しかし、そこに阿部がまたフリーズを積み、複数得点がいよいよ現実味を帯びる。が、さらにさらに両角がそのルートを完璧に絶つドローを置き、結局、阿部は「悔しいけれど投げるところがなかった」とスルーで1点を取るという選択を余儀なくされた。数字としては地味だが、見応えのあるデリケートなショットの応酬で目の肥えた軽井沢のオーディエンスからも拍手が湧いた。

最終的には9エンド、セカンド山口剛史のカムアラウンドをくさびに、清水徹郎のダブル、両角のオープンドローなど、「単純だけどそれをしっかり効果的なところに決めるのが大切」と両角が振り返ったように、シンプルショットをピンポイントで置き、4REALは難しいショットを強いられた。結果、ビッグエンドに化け、SC軽井沢に軍配が上がる。我慢比べのようなゲームだったが、1点ビハインドの終盤でも大きなミスはせず、冷静にリスクを軽減してチャンスを待って活かす老獪さは、豊富な経験によるものだろう。予選でのリベンジを果たし、一足先に決勝に進んだ。

敗れた4REALは3位と4位(アイスマン)の対戦を制したチーム荻原との準決勝に回るが、SC軽井沢との敗戦を引きずらずに高い集中力でそれぞれの仕事をしっかり遂行した。予選で不覚をとった相手だったが危なげなく勝ち切った。「これで全チームに勝てた。すっきりとてっぺんを狙える」とは阿部の弁だ。決勝は今大会3度目の王者SC軽井沢との対戦だ。

今日の「勝手にホットハンド」はSC軽井沢のサード・清水だ。ショット率はそこまで高くはなかったが、プレーオフの大舞台でトリプルテイクアウトを2回、3点を獲った9エンドではチームを楽にする効果的なダブルをそれぞれ決め、ニヒルに笑う。前人未到の5連覇まであとひとつまでチームを導いた。

ちなみに、女子の中部電力のサード・清水絵美は実妹であり、彼女も準決勝の北海道銀行フォルティウス戦の第9エンドでダブルを連発し、チームを3年ぶりの決勝に導いた。

明日の男子決勝は14:30から開始され、NHK-BSで生中継の予定だ。ソチ五輪以降、もっとも大きな意味を持つゲームであり、おそらく現在、国内でもっともハイレベルな攻防を演じてくれるであろうカードとなった。

“氷上のチェス”と喩えられるカーリングは、無限のショットセレクションがあり、1手1手に牽制と伏線が存在する。シンキングタイムがあるので観戦していても選手と共に考えることができるし、刻一刻と変化するアイスに対応しながら直径30cmのストーンを操り、ハウス中央に4人で運ぶ究極のチームスポーツだ。

なんて僕が垂れる能書きよりも、明日、現地から解説する敦賀レジェンド信人のちょっと北海道訛りの柔らかボイスでレクチャーされたほうが百倍、分かりやすいので、ぜひご覧になってください。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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