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福島で「燃やしまくって」いいのか

関口威人ジャーナリスト
福島県南部の鮫川村に建設された仮設焼却炉(7月24日、関口威人撮影)

第一原発から直線距離で60キロ超、第二原発から約50キロ。鮫川(さめがわ)村は福島県南部に位置する人口4,000人弱の小さな村だ。

緑濃い山あいの一角に、銀色の配管むき出しの施設が完成した。環境省が設置した仮設焼却炉だ。3年間に7億円以上の予算を投入し、8月からの本格運転で1キロ当たり8,000ベクレル「以上」の放射性物質に汚染された牛ふんたい肥や落ち葉を含む農林業系の廃棄物が持ち込まれ、燃やされる。

実証実験として効果を確かめ、滞っている除染廃棄物の減容化を福島県内で進めていく狙いだ。しかし、これがモデルケースだと言うのなら今後、各地で混乱と対立が生じることは目に見えていよう。

「何から何までずさん」

鮫川の計画は水面下で進められ、村民への説明会が開かれたのは着工後。複数の地権者の同意は得たというが、焼却場ではなく「仮置き場」と聞かされ、同意書に判を押したこともないという地権者の証言さえ飛び出している。

焼却灰はセメント固化後に一時保管し、中間貯蔵施設や管理型処分場ができれば速やかに移動させるという。しかし現時点でいずれも立地先のめどは立っていない。処理すべき廃棄物量600トンという見込みも、除染対象世帯の減少などを考慮すれば大幅に減るはずだと住民は試算する。「何から何までずさん」と批判の声が上がるのも当然だ。

とりわけ反発しているのは隣接する塙(はなわ)町や、いわき市など周辺市町の住民。鮫川を豊かな水源地として農業や暮らしを営んできた人たちだ。施設は村の南端にあって1、2キロ回り込むと塙町の民家に行き当たる。しかし「村の説明会には地区住民でないと閉め出され、情報公開を求めても十分な資料が出てこない」と塙の住民。町も村も境なく放射能が拡散した原発事故の教訓はないのかと憤る。

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その塙町では「木質バイオマス発電所」も波紋を呼んでいる。鮫川の問題が深刻化する最中の今年2月に明らかになった構想で、住民の衝撃と反発は大きい。予定地は鮫川の焼却炉から10キロほどの距離。それでいて鮫川とはケタ違いの4万平方メートルの山中を切り開き、木材チップを燃料とする出力1万2,000キロワットの発電施設を建設する計画だ。

持ち込まれるのは森林の間伐材や製材工場の端材、建築廃材などをチップ化した木材、年間11万2,000トン。当初、町は除染目的を否定していたが、事業費を補助する県の計画では森林の放射性物質の低減や木質系震災がれきの有効利用などが狙いとされている。

焼却灰中の放射性セシウムは最大でも1キロ当たり3,000ベクレルの濃度に抑え、排ガス中のセシウムも99%以上をバグフィルターで集めると「安全」が強調される。しかし、どこからどんな燃料が持ち込まれるのか、焼却灰は最終的にどこで処理されるのか。住民の不信感はぬぐえない。すでに1万人弱の人口の半分を超える5,276人分(うち町外1,510人分)の反対署名が提出されるなど、地域が二分されていく気配だ。

ならば「東京」に

仮設焼却炉やバイオマス発電所の計画は、南相馬市や飯舘村、川内村など県内各地で続々と動き出している。飯舘ではすでにある処理能力1日5トンの仮設焼却炉に加え、同240トン程度の新たな焼却炉の整備を検討中だ。

その「最大の問題点は、焼却灰の保管だ」と、京都精華大学の山田國廣教授は指摘する。

焼却灰は1キロ当たり10万ベクレルを超えれば国の中間貯蔵施設に、それ以下なら自治体の既存の管理型処分場へ運ばれる。

しかし「実際に出てくる焼却灰の大部分は10万ベクレル以下だろう。これらを保管する既存の管理地などほとんどない。飯舘にしろ塙にしろ、行政区域を越えて大量の汚染物が持ち込まれ、焼却灰が施設の倉庫や周辺の空き地に堆積する」と山田教授。

震災直後から飯舘や南相馬に通い続けている山田教授は、地域ぐるみでの除染や廃棄物処理のあり方を試行錯誤してきた。減容化やバイオマス発電自体は否定しないが、それは住民の同意や納得があってこそ。国や自治体の手法はこうした地道な努力や信頼関係を、まさにブルドーザーのようになぎ倒していくかに見える。

「怒りの国会スピーチ」で知られる東大の児玉龍彦教授も、近著でバイオマス発電には期待を寄せる。ただし山田教授同様、地元での議論が尽くされ、住民の納得が得られることを前提とし、そうでなければ廃棄物の保管場所を「東京にも」と問題提起する。

「保管場については、それなりのコストをかけ、きちんとした管理体制をつくれば、十分な安全性を担保するのは可能である。そういう意味では、放射性廃棄物を生み出した電力を使った東京に、その立地を担う責任はないのであろうか。東京に保管することで、安全性の確保についての問題が、より広く国民に認識されることはないだろうか」(『放射能は取り除ける-本当に役立つ除染の科学』幻冬舎新書)

極論ではあろうが、言わざるを得ない。このまま福島で「燃やしまくって」いいはずはない。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。2022年まで環境専門紙の編集長を10年間務めた。現在は一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」代表理事、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」編集委員、NPO法人「震災リゲイン」理事など。

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