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福島・鮫川村で進むあまりにも強引な焼却炉「再稼働」計画

関口威人ジャーナリスト
再稼働が目論まれる鮫川村の仮設焼却施設(9月27日、関口威人撮影)

福島県鮫川村に造られた仮設焼却炉の爆発事故について、環境省が25日、あらためて再発防止策を発表した。起こりうる事故のリスクを洗い出し、86項目にわたって追加的な対策を施すのだという。

しかし、地元の人たちは到底、納得できないだろう。本当にこの炉で高濃度の放射性物質を含んだ廃棄物を燃やしていいのか、事業の根本的な疑問にこたえていないからだ。

これで再稼働に突き進むのは、あまりにも強引ではないか。

愛知で頓挫した産廃処理施設と同型の炉

「これは非常にまずい。また事故になりますよ」

こう断言するのは愛知県内の産廃処理業関係者だ。

鮫川村で採用された「傾斜回転床炉」は、愛知県春日井市で2000年ごろに計画が持ち上がった産廃処理施設の焼却炉と同じタイプ。

春日井では汚泥や廃油、廃プラスチックなどを日量43トン、傾斜回転床炉で燃やす計画だった。ほとんど実績のなかった焼却炉を住宅地周辺で運用することに住民が猛反対したのはもちろん、試運転自体もトラブル続き。騒音や排ガスの規制値をクリアできず、2010年に愛知県の設置許可が取り消され、業者は操業断念に追い込まれた。

「何でも燃やせる炉という触れ込みだったが、そんなにうまくいくはずはない。当時から無理のある構造だと分かっていた」とこの関係者は言う。

「それがなぜ今、福島で使われているのか、まったく理解できない」

愛知・春日井で計画された傾斜回転床炉の模式図(当時のメーカーのパンフレットから)
愛知・春日井で計画された傾斜回転床炉の模式図(当時のメーカーのパンフレットから)

マニュアル違反を3日続けた現場の焦り

一般的に、廃棄物を効率よく焼却するには炉を回転させた方がよい。ドラムを横に倒した「ロータリーキルン」と呼ばれる回転炉が主流だ。しかし、横型だと設置面積が大きくなる。そこで縦型のドラムの下部を30-40度ほど傾け、「おわん」状の底を回しながら焼却するのが傾斜回転床炉だ。

鮫川村でこの炉を導入した日立造船は「構造がシンプルで設置面積が小さい。回転数、灰の抜き出しを制御することにより燃え残りが少ない」のが特長だとする。

しかし、8月の事故はまさに「制御」ができず、大量の「燃え残り」が引き起こした小爆発だった。

環境省が示した再発防止策。「ゲートの二重化」などを挙げるが…
環境省が示した再発防止策。「ゲートの二重化」などを挙げるが…

環境省は事故発生から4日後に示した第一次報告で、主な事故原因を焼却炉からつながるゲートと呼ばれる弁の「閉め忘れ」だとしていた。

ところが、その1カ月後に公表した二次報告で、ゲートの開放は事故の3日前から始まっていた事実を明らかにした。単なる「閉め忘れ」ではなく、意図的な「開け放し」状態だったというわけだ。

なぜそうせざるを得なかったのか。報告書から読み取れるのは、現場の焦りだ。

本格稼働から1週間余り、「燃え残りの少ない」はずの炉には投入した稲わらや牧草がなかなか燃え切らずに残っていた。この状態を解消するため、運転員は本来なら毎日出し切らなければならない灰を一定量残したまま、翌日に新たな投入物と混焼しながら運転し続けていた。

すると灰があふれ始める。次第に、回転する炉と軸のわずかなすき間から灰がこぼれ落ち、すぐ下のゲートにたまるようになった。マニュアルによれば、ゲートは焼却中に閉めていなければならない。だがそれではゲートにたまった灰が固まり、炉が詰まってしまう。運転員は所長らに報告しないまま、現場の判断でゲートを開け放しにした。

マニュアル違反の状態は3日間続けられたが、炉内の不完全燃焼は解消されず、ゲートから連続的に排出される灰とともに一酸化炭素などの可燃性ガスもコンベヤーに流入。その濃度が限界を超えたとき、くすぶった灰自体が火種となって-。

爆発した。

ちなみに、環境省はいまだに「爆発」という言葉を使っていない。可燃性ガスが「一気に異常燃焼」し、コンベヤー内の「圧力上昇を招き、破損、変形に至った」という回りくどい言い方に固執している。また、異常音は二度あったというが、二度目の爆発の場所や原因も特定されていない。

「小手先の対策」ではコントロールできない

再発防止策は「灰がこぼれ落ちた」ことをことさら問題視している。その部分的な構造の問題と、ゲートを開く判断をとった現場に責任を押しつけた格好だ。そして、ゲートを二重化したり、炉と回転軸の間にあるプラグと呼ぶ部品の形状を変えたりすることを優先対策に挙げる。

これに対し「小手先の対策に過ぎない」と冷ややかに見る先の愛知県の人物。

鮫川の回転床炉裏の構造
鮫川の回転床炉裏の構造

「問題は燃やすものとその炉の組み合わせだ。今回は除染でかき集めたものに何が交じっているか分からない。金属類を含んでいれば、焼却炉には『クリンカー』と呼ぶ溶岩のような固まりがこびりつく。この炉はそれが出口にたまりやすくなる構造だ」

あらためて愛知の炉と鮫川の炉を見比べると、愛知の炉では灰の排出ゲートが回転床と分離されている。鮫川ではこれらが一体となっていて、効率的かもしれないが明らかに管理の難しい構造になっている。しかも、愛知で「クリンカー対策」とうたっていた回転床裏側の水冷システムすら、鮫川にはない。

「クリンカーが固まれば、炉の中に入って削り取らなくてはならない。それはものすごい高濃度の放射能になるでしょう。作業員の被ばくも心配だ」

そのイメージは今、第一原発で汚染水と格闘している作業員の姿と重なる。どちらも「完全にコントロールしている」とは言いがたい姿だ。

ジャーナリスト

1973年横浜市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学)修了。中日新聞記者を経て2008年からフリー。名古屋を拠点に地方の目線で社会問題をはじめ環境や防災、科学技術などの諸問題を追い掛ける。2022年まで環境専門紙の編集長を10年間務めた。現在は一般社団法人「なごやメディア研究会(nameken)」代表理事、サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」編集委員、NPO法人「震災リゲイン」理事など。

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