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小学生の暴力行為1万件超 ~子どもの問題、保護者の問題、学校の問題~

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部准教授
(写真:アフロ)

小学生の暴力行為1万件超え、過去最高

9月16日、文部科学省は問題行動調査結果を公表した。その中で目を引いたのが小学生の暴力行為が1万件を超え、過去最高を記録したことだ。いろいろな意味でこれまでの指導が限界が来ているということだろう。以下、その背景について若干の論考を試みた。今後、時間をかけて考えたいテーマだが、とりあえず、第一稿ということで寄稿する。

今回は、背景要因として「子どもの問題」「保護者の問題」「学校の問題」の3つに絞って記載してみる。

子どもの問題

まず考えられるのが子どもの変化。友だちとの遊びの中でコミュニケーションを学ぶ機会が減った。昔は異年齢での遊びの中で社会規範を身につけていた部分も多かった。路地裏や空き地で、ガキ大将中心に、仲良く遊んだり、けんかしたり、仲直りする中で、人間関係のルールを学んでいた。しかし、昨今、子どもの遊びがゲーム機やスマホを使ったものに変わり、仲間とのコミュニケーションの機会が激減した。

さらに、スマホ等でのトラブルも急増している。LINE等でのちょっとした誤解から始まる場合が多い。チャットは元々、大学生や社会人のしてきたもので、小学生にそういう文化はもちろんない。新しい文化に遭遇して、右往左往している小学生たちが多数いるのであれば、教科書等でチャットについて教えたり、道徳の課題にしたりしていくのも、考えていかなければならないだろう。

保護者の問題

家庭で人間関係を学ぶ機会も減った。核家族が増え、きょうだいの数も減少。さらに共働きが増え、シングルマザー等も増加。貧困家庭の問題も最近ではクローズアップされている。大人の側に子どもと十分に接するための時間が減少している。

そういう中で、子どもたちは人間関係を家庭で学ぶ機会が減り、他者との適度な距離を取れなくなってきているのかもしれない。

教師の問題

学校教員の研修講師をする機会か多いが、小学校教員が頭を抱えている場合が多い。若年教職員、ベテラン教職員、それぞれに課題を抱えている。

まず、若年教職員の増加。いわゆる団塊の世代の大量退職に伴い、一部地域では、若年教職員が大量に増えている。私が関わっている小学校では、20代の教員が全体の過半数を占めている。こういう学校は今後、増えていくだろう。以前は、若手とベテランでペアーを組んで補い合っていたのだが、最近では若手同士での場合も増えている。学校ではさまざまな問題が起こり、以前より問題が複雑化している。保護者の要望、要求も高い。経験の浅い先生だけでは荷が重すぎる場合が多く、若年教職員の悩みは深い。

ベテラン教職員も悩んでいる。私としては、ベテランの方が深刻だと感じている。最近の子どもたちのトラブルの多くがスマホに代表される新しい問題であることが多く、これまでの彼らの経験だけでは太刀打ちできなくなってきている。特に最近は、LINE等でのグループチャットでのトラブルが多いのだが、ベテラン教員はLINEをしたことすらなく、当然、指導に躊躇してしまう。

これからのために

私はこの傾向はまだまだ続き、さらに加速するとみている。社会として小学生への指導を考え直す時期だろう。現在、日本では、小学生の間は、一人の担任が一日中指導する「学級担任制」を取っているが、この制度自体、時代にあわなくなってきているのかもしれない。各地で、小中連携教育、小中一貫教育が導入されていることからもわかる。実際、思春期を迎える年齢がずいぶんと早くなり、小学校高学年の女子が起こすドラブルは、昔の中学校でのそれと全く遜色ない。

最後に、この結果は、別の見方をすれば、小学校が暴力行為等について、正直に報告するようになった証でもある。これは評価すべきだろう。昔は、小学生の暴力行為など、恥ずかしくて報告できないという風潮が若干あったが、今は、そうもいっていられないほど深刻な問題になった、といえるかもしれないが。

続く。

兵庫県立大学環境人間学部准教授

公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より現職。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。教育学博士。

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