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誰がバイオマス発電を推進しているのか

田中淳夫森林ジャーナリスト

バイオマスエネルギー、なかでもバイオマス発電が注目されるようになったようだ。

私の所にも、バイオマス関連の業者から相談を持ちこまれたり、講演依頼が増えてきた。別のテーマでも、その中に「バイオマス発電の話も混ぜてください」という要望が主催者側から伝えられる。

おそらく、FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)の中でも、設備関連が大がかりで関係者も多いため出遅れていたバイオマス発電が、いよいよ建設・稼働に近づいてきたからだろう。事実、各地にバイオマス発電所の建設が決まりだした。

それはいい。何にしろ新たな技術を検討することは歓迎だし、再生可能エネルギーの幅が広がるのもいい。

だが、何やらきな臭さも漂う。私に依頼のあった講演会の一つは、経産省や電力関係者もプレゼンターとして入っていた。別に気にしなくてもよかったのだが、老婆心ながら「私は、バイオマス発電に関して厳しいことを言いますよ」と主催者側に伝えておいた。

私の意見は、以前の本欄にも記した通りだ。バイオマスエネルギーは熱利用が主であって、発電だけでは効率が悪すぎる。また燃料(木質チップ)の集荷に困難が見込まれており、そもそも本家?のドイツのバイオマス発電所でも赤字が続出している。

石炭との混焼や、外国から輸入する木質燃料(ヤシ殻など)を主体とするならわかるが、国産バイオマスだけで発電するのは非常に危険である。むしろ森林の破壊を助長するだろう。ましてや林業の救世主にはなり得ない。

どうやら私のブログに書いているそうした意見を確認したらしい。そして断ってきたのである。「今回のセミナーは、バイオマス発電に光を当てるものなので……」とのことである。

是非を論じる前に、推進したい気持ちが透けて見える。一体誰が推進したいのだろうか。

実は、肝心のバイオマス発電事業を始めようとしている地域を訪れても、同じことを感じた。是非を考える前に、すでに建設は決定しているのだ。

ところが地元の林業関係者は懐疑的だ。バイオマス燃料としてのチップ需要が増すわけだから、少なくても素材生産業者やチップ業者などは期待しているのかと思いきや、みんな一様に厳しく捉えている。要求されるだけの量を集めることに危惧を抱いているのだ。無理すると、禿山を増やしてしまいかねない。

何しろバイオマス発電所は、一度動かせば24時間稼働だ。そこに投入すべき木質燃料の量は莫大で、下手すると数年で地元の資源が枯渇してしまう。発電所を止めるわけにはいかない(契約した量を納められないと、違約金が発生するだろう)から、そうなると製紙用チップや合板、建材にもできる丸太も燃料に回さないといけなくなることも起こり得る。

しかも未利用材(FITでもっとも高額の価格設定をされた山に放置された残材)だけで発電する計画ともなれば、大変な困難が予想できる。未利用材は、搬出が困難・高コストだから未利用なのであって、それを山から下ろせば建材や製紙用チップにすることも可能な材が少なくないのである。それをFITの上乗せ価格で搬出し、「未利用だから」と一律に燃やしてしまうのは、矛盾しているだろう。

どうやら推進しているのは、お役所や議員、そして発電所を建設するコンサルタント辺りらしい。とにかく建設すれば、数年は潤うという算段だ。その後のことは考えていない様子が伺える。

私も、つい口走ってしまう。「どうしてもバイオマス発電したかったら建てたらいいんですよ。どうせ赤字が続いて、FITの期限が切れた途端に廃墟になるから」。

もちろん、なかには流行りの大規模バイオマス発電施設ではなく、小型で熱利用を取り入れつつ発電するタイプを計画している業者もいた。小型ゆえ、燃料の集荷に余裕が生まれるから地域密着のエネルギーにできる。そのため熱利用が可能な施設(製材所などの乾燥施設、農業用の温室、温泉や福祉施設など)とタイアップできるような場所の選定をしているという。

私の悪態を覆すバイオマス発電所を建てて健全な経営をしてもらいたいものである。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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