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どんな木目が美しい?業界と世間のズレを考える

田中淳夫森林ジャーナリスト
1立方メートル50万円で取引されたヒノキ。これこそ銘木?

高級牛肉と聞けば、誰もが思い浮かべるのは黒毛和牛の霜降り肉だろう。赤身の間に脂が入った、いわゆるサシ(霜降り)の入った肉だ。価格も格段に高い。たしかに霜降り肉のステーキを口に含むと、甘みがある脂が広がりとろけるようで柔らかい。美味い! と感じる。

だが、最近の消費動向は、霜降り肉の人気に陰りが見られるようになったそうだ。霜降り肉はあまりに脂が多くて、しつこく感じる。むしろ赤身の旨みを求める消費者が増えてきたのだ。しかし今も生産現場では、霜降り信仰が根強い。肉の価格もサシの入り方で等級をつけて決められる。

……そんな話を聞いて、私も思い当たることがあった。

仕事がら、製材所や建築現場を覗くことがある。ホームセンターでもつい木製品売り場に足が向く。そこで角材や板材を目にして、詰まった木目がまっすぐ走っていたり節が一つもないと、「いい木だなあ」と思ってしまう。

が、瞬間「いやいやいや」と頭を振る。「この木目がいいと思った自分の感覚は世間と一緒なのか」と自問するのだ。

木材業界や林業界では、そうした木が「いい木」であり、値段も高い。年輪幅が狭くて均一に並んでいるかどうか、節の数は少ないか……が重要なのだ。ときに素人には区別がつかないほどの差で、価格が大きく変わる。そして木目の美しい木材を銘木とか役物と呼ぶ。

私もそんな目で木材を見てしまっているわけだ。しかし、それは業界の慣習にどっぷり浸かってしまったからで、本当に世間の感覚と合致しているだろうか。

木曽檜の柾目板。細かな年輪が直線的に並ぶ
木曽檜の柾目板。細かな年輪が直線的に並ぶ
板目の木目は曲線になっている
板目の木目は曲線になっている
大きな節は、業界では嫌われる
大きな節は、業界では嫌われる

以前、私は「柾目」が苦手だった。柾目とは年輪がまっすぐ平行に走った状態だ。それが幾何学的で単調に感じて好きになれなかったのだ。むしろ木目が楕円だったり波打っていたりして曲線になっている「板目」の方が好みだった。年輪幅もある程度広く、節もある方が自然に感じた。

ところが、仕事で林業や木材産業に触れるうちに、業界人と同じ感覚に染まって行ったわけだ。目の詰まった木目は美しい(と感じる)。年輪が細かければ太くなるまで長い年月がかかり、節を無くすために林業家がとった苦労も想像する。そんなドラマを読むことで、「いい木」の基準を身につけたのだろう。

しかしバブル崩壊以降、木材業界では銘木と言われた木々が売れなくなっている。価格も暴落した。木材消費の量は外材に取られる中で、銘木に頼ってきた日本の林業は大きな痛手を被った。

世間は銘木を求めなくなった……と言われる。たしかに住宅が洋風化して柱も梁も見えない家では、銘木を使う場がない。だから売れなくなった。価格も下落した……だが、そんな考え方に落とし穴があるのかもしれない。

肝心の木材を求める消費者は、そうした業界的な「いい木」を本当に自らの好きな「いい木」と感じているのか。大枚を払っても欲しいと思うのか。むしろ業界人の決めた銘木の木目を好ましいと感じず、価格に納得できないから欲しがらないのではないか。

銘木かどうかは、消費者の望む木目で決めるべきだ。本当に好ましく感じる木目の木材ならば、そこそこ高値でも欲しい。身の回りに見えるように使いたい……はずだ。現代人は、デザインにこだわりを持つ人が多い。

しかし、魅力的な木目の材が見つからない。それを無視しているから売れないと考えるべきだろう。

もちろん、木目が均等で無節の材は加工がしやすく、乾燥に伴う伸縮や割れなども抑えやすい。だから製材や建築関係者が喜ぶ面はある。しかし、それは消費者の好みとは別次元の話だろう。

私は、業界の感覚に染まらないように日々気をつけているつもりだが、それでも一般人と「美しい木目」の感覚がズレてきたのかもしれない。そのことを自戒しつつ、ぜひ業界人も自らの感覚を見直してほしい。それは精肉業界や木材業界だけの話ではない。

ちなみに私も、霜降り肉より赤身肉の方が好きである。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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