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薪はやっぱり広葉樹?それとも……

田中淳夫森林ジャーナリスト
薪の販売量は増加しているが、人気は広葉樹材だ

薪の需要が増えている。これは薪ストーブの普及に加えて、ピザやパン窯などで使う業務用の増加などが理由のようだ。その背景には、薪の流通が徐々に改善されてきたことも大きいように思う。

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ただ、ここで問題となるのは、薪の種類だ。薪には、ナラ類を中心とした広葉樹のものとスギやヒノキ、マツ、カラマツなど植栽針葉樹のものがあるが、圧倒的に広葉樹の薪の方が人気なのだ。

一方で山村に多いのは針葉樹。林業家も針葉樹材なら林業的な木材生産と一緒に行えるうえ、用材にならない材を薪にできれば無駄が出ないから、針葉樹薪が売れることを望んでいる。

さて、本当のところ、どちらの薪が使うのに向いているだろう。

現在、薪として販売されているのは、8割以上がコナラやクヌギなど広葉樹薪のようだ。

なぜ、広葉樹の薪が人気なのだろうか。一つには、ナラの薪は燃やすとよい匂いがすること。見た目もよいという。いかにも薪という感じがする(謎)。これは感覚的なものなので一概には言えないが、薪ストーブ愛好家は機能よりも感性を重視するので仕方ないかもしれない。

ただ、ほかにも「広葉樹の薪は火持ちがよい(針葉樹の薪は火持ちが悪い)」「針葉樹(とくにマツ)の薪は高温になるから炉を傷める」「針葉樹の薪は煤が多く出る」などを理由に上げる人が多い。

これらは本当だろうか。

実は、各地で実験が行われている。そのうち信州大学によるものを見ると、重さで比べた場合、火持ちはほとんど変わらないという結果が出ている。おそらく広葉樹材は木質密度が高いので、かさで見れば火持ちがよく感じるのではないか。

むしろ発生する熱量は針葉樹の方が多いケースがある。そのため針葉樹材は炉を傷めると思われるのだろうが、これも程度問題で、陶芸窯ではないのだから一般の薪ストーブでは影響はまず見られないそうだ。

重要なのは、薪の乾燥である。考えてみれば木質はみんな同じ熱量を持っているから、重量が同じなら発生熱量も同じ。ただ水分がどれほど含んでいるかによって変わってくる。

そして水分の多い薪を燃やすと、煤が発生しやすくなる。これも実験が行われているが、しっかり乾燥した薪を燃やした場合、煤の量が樹種によって極端に違うことはないそうだ。また空気の調節など焚き方も影響する。よい薪をちゃんと燃焼させた場合、いずれも決して多くなく、煙突掃除も1年に1回で十分。(この1回をしないで煙突を詰まらせるケースが少なくないのだが。)

一方で、大きく違うのが乾燥にかかる時間だ。

針葉樹の薪は、乾燥が早い。だいたい半年でOKだという。ナラ類は1年2年と屋外乾燥させないと、十分に水分が抜けない。長く乾燥させるためには広いストックヤードが必要となる。

そして火付きも、針葉樹薪の方が圧倒的に容易だ。着火剤を使えば、薪そのものにすぐ火が回る。発生熱量も初期に大きいからすぐに部屋が温まる。その点広葉樹薪の場合は、点火に焚きつけを必要とする場合が多い。燃え上がるにも時間がかかる。

最後に価格は、針葉樹薪の方が安いことが多い。価格は業者の方針や需給関係で決まるから一概に言えないものの、ナラ薪人気が高い現状と、原材料の調達と乾燥が楽な針葉樹薪を安くすることは想像がつくだろう。

付け加えると、人工林から出される針葉樹薪を使った方が、森林環境の保全にも向いているのではないか。広葉樹薪も、ナラ枯れ木を使えばよい環境保全的と見ることもできるが。

……とまあ、薪の種類に関した世間の思い込みと本当の違いについて記し、暗に(明らかに?)針葉樹薪をイチオシしてみるが、それでも薪ストーブは感性で楽しむものだから、やっぱりナラ薪! と思うユーザーが多いのだろうなあ。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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