売上げだけでは見えてこない、時代の”気分”を捉えた歌詞検索ランキングが面白い
歌詞の重要性が薄れてきているって、本当?
ちょっと前に、「音楽における「歌詞」の重要性が低下したんじゃないか」というテーマの記事が、ネット上で話題になっていた。リスナーの音楽の聴き方が変わってきてメロディとの親和性、語感に重きを置き――という趣向になっているのだとか。なるほど。そうなのかもしれない。まさに「歌は世につれ世は歌につれ」、社会のリアリティが移ろえば、歌詞のリアリティも移ろうのではないだろうか。
アーティストの制作サイドは、やはり歌詞に重きを置いて作っているという声をよく聞くし、それがリスナーには伝わってないということだろうか。歌詞はブログの登場から変わったという人もいる。そのアーティストが普段感じていること、心の内側を吐露したものにリスナーが共感し、それが“いい歌詞”とされる傾向になっている。片やいわゆるシンガー・ソングライターが登場するまで、日本の“歌謡曲”を作り続けてきた阿久悠等に代表される職業作家が書く普遍性のある歌詞も、歌い手の心の内を代弁しているものはあったし、短い行数の中でしっかりドラマを作り上げて、きっちり感動させてくれた。それはそれでやはり“いい詞”だ。
リスナーの音楽の聴き方が変わってきたということが関係してくるが、歌詞検索サイトで歌詞をチェックするという文化がしっかり根付いてきて、つまり歌詞への“関心”が非常に高くなっているということだ。それも若い人が“いい歌詞”を求めている。
月間6500万PV以上――これは歌詞検索サイト大手「歌ネット」のアクセス数だ。しかも若い人達からのアクセスが多いという。歌詞に興味がなければ検索もしないだろうし、この数字が歌詞に対するユーザーの関心の高さを計る、ひとつの指針になっているといっても過言ではない。そう考えると日本人はやはり歌詞を大切に思う民族だ。
女子中・高生がハマる歌詞を使った「遊び」。″いい歌詞”を求めている
数年前から、歌詞を使った遊びが女子中・高生を中心に盛り上がっている。まずは「歌詞画」。文字通り、歌詞、主にサビ部分をピックアップし、アーティストの写真や、歌詞に合う風景写真や画、イラストと共にデザインしたもの。また、一部のユーザの間では「歌詞プリ」と呼ばれる、歌詞の雰囲気に合わせてデコレーションを作ったプリクラが流行している。さらに「LINE歌詞ドッキリ」という、恋愛ソングの歌詞を一行ずつ彼氏や好きな人に送って、相手に告白をしたり、気持ちを伝えたり、確かめたりする遊びが去年流行した。
西野カナの「Darling」(2014年)というヒット曲がある。
ある女子高生がこの歌詞を元にマンガを描き、それをTwitterにアップしたところ、西野のファンの間で話題になり、拡散され、次々と「Darling」を使ったマンガをアップするユーザーが出てきて、盛り上がった。「Darling」はロングヒットになり、Twtter発の現象がロングヒットの要因の全てとは言わないが、大きな理由のひとつと言ってもいいかもしれない。ちなみに「Darling」は歌ネットでのアクセス数は100万(10/14現在、以下同)を超えている。西野の作品は他にも歌ネットの「歴代人曲ランキング」の上位に軒並みランクインしている。気になる曲があって、まずはダウンロードしてみようと思い音楽配信サイトにアクセスすると、最新曲から過去の曲までがフラットに並んでいるため、過去の曲も聴いてみようと思った時に、手が出しやすい環境も大きいのだろう。そして歌詞検索サイトで歌詞を”きちんと”チェックしておきたい---だから配信ランキングと歌詞検索サイトのランキングの親和性は、高い傾向にある。
もちろん、女子高生にマンガを描いてみようと思わせる「Darling」の歌詞が、ヒットの大きな理由だろう。西野が書く恋愛シーンは決して特別なことを描いているのではなく、どこにでもある彼女と彼氏のありふれたシーンを描いている。シンプルな言葉で、女性のそのピュアな想い、時には複雑な心模様を吐露している。だから聴いた瞬間に“映像”として浮かんでくる。この曲もそうだ。マンガにしてみたくなるのもうなずける。
back numberの2011年発売のヒット曲「花束」が2014年&2015年上半期No.1
最近音楽シーンでは、CDのリリースに先がけて、レコチョクやiTunesなどで楽曲を先行配信することがスタンダードになってきている。同時に歌詞も先行公開され、ドラマやCM、アニメのタイアップがついている楽曲に関しては、そのオンエアタイミングに歌詞を公開することで、配信とCDリリースという2度のプロモーションのタイミングができ、同時に歌ネットでもアクセス回数を増やすことができる。歌詞へのアクセス回数が増えると、それがまたプロモーションになったりもする。
歌ネットのランキングは面白い。例えばCDランキングを出している会社の2014年の年間ランキングでは、AKB48が1位だが、歌ネットの年間ランキングではアーティスト別で43位、楽曲別では100位内に1曲もランクインしていないという不思議さ。ちなみに1位はback numberが2011年にリリースした2ndシングル「花束」、2位はシェネルの「Happiness」だ。「花束」は今年の上半期のランキングでも1位だ。
「花束」は今や結婚式の定番ソングになり、歌ネットではこれまでに約320万回もアクセスされている。一概には言えないが、TV他での露出の多さがそのままヒットに結びつかないということだ。だから、CDのランキングとは全く趣が違う歌ネットのランキングは、音楽配信が当たり前になっている昨今、ユーザーの“気分”を色濃く反映しているといえるのではないだろうか。売上げという部分とはちょっと違う、でも巷ではヒットしている、またこれからヒットするであろう隠れた名曲を、見つけることができるのではないだろうか。ちなみに歌ネットでより多く検索されているのは、当たり前だが「歌詞そのものに訴求力のあるアーティスト」、そしてミクスチャーやヒップホップなどの「言葉数の多い曲」、さらに「歌詞が聴き取りづらい曲」も、検索される傾向がある。
時代の空気、”気分”を映し出す歌詞検索ランキング
では音楽ファンは今どんな“気分”なのだろうか?ちょっと前になってしまうが、2014年にネット上で飛び交っていたキーワードや、レコード会社のスタッフやユーザーに取材して感じたこと、出てきたキーワードを元に構成してみたい。
「半径2m以内で起こっている」「彼氏と彼女のありふれたシーンをシンプルな言葉で描き」「時には複雑な心模様を吐露した等身大の歌詞」がウケていて、そんな歌詞を使った「歌詞画」や「歌詞プリ」「LINE歌詞ドッキリ」といったTwitterでの“遊び”、が10代女子を中心に拡散していった。そんな“遊び”が作り出すものが「その曲の良さや素晴しさをMUSIC VIDEO同様、視覚的にも増幅させ、それを見た人はより印象的なものとして捉える」という、ひと昔前には存在しなかった伝播方法で、著作権的にどうなのかということはこの際置いておいて、「作品の価値をユーザーがさらに高めてどんどん拡散させていく」という、“現代の最新プロモーション”方法にハマる曲が、“リアルなヒット曲”といえる。また「SEKAI NO OWARI」のような「リアルな言葉をしっかり伝えつつも、どこまでもポップなメロディと相まって、どこかファンタジーという言葉を感じさせてくれる、“心地よいギャップ”」も好き。ラブソングの傾向でいうと「男性アーティストが書くラブソングは、哀しみや自分の弱さをさらけ出し、あきらめきれない“ネチネチ、ウジウジ系”の未練がましい内容の、いわゆる“女々しい”ものが多く」、一方「女性アーティストが書くそれは、感情をえぐる、リアルで、立ち直りを感じさせる、見返してやる、的な内容のものが多い」ように感じる。「女々しい歌は、“ピュア”という言い方、見方ができるのかもしれない」から好き―――。
こうしてキーワード的なものを並べて、音楽ファンの“気分”=ヒットの傾向、を構成してみても、わかったようでわからないような、どこかフワッとした印象で、そこには新しい部分もあるけど、昔から変わらない部分もある。でもこれも変わらないことかもしれないが、より「言葉」が大切にされているということは確かだ。決して特別な言葉ではなく共感、共鳴できる等身大の言葉はいつの時代も人々の心の支えになっているし、また“確かなもの”が何なのかが不透明な昨今、きっぱりと言い切ってくれる熱い“確かな言葉”にも共感、共鳴したいのだと思う。言葉が心を励まし、慰めてくれる。
歌詞は、聴いている人自身がその詞の“行間”に入り込むことができる“隙間”が大切だと思う。今の気持ちや想い出をその詞に投影し、共感できるものが受けるだろうし、聴き継がれていくのだと思う。
その詞に“入り込む”、それが詞の“行間”に自分の身と心をゆだねるということーーそんな捉え方をすると、詞のもっと深い部分まで感じることができるのだと思う。
◆歌ネット