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変わり続ける強さと変わらない強さと――夏フェスも席巻!60歳・郷ひろみが愛され続ける理由 

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

「変化の先に進化がある」

30年、40年、50年愛され続ける“老舗”の強さとは?それは変わり続ける強さと、変わらない強さだ。伝統を重んじつつも、たゆまぬ努力こそが進化につながる唯一の手段で、さらに老舗になればなるほど、プライド、自信という心の中の“圧倒的な存在”が、何をするにも当たり前のようについてくる。この“圧倒的存在”が時には盾となり、また時には矛にもなる。だからこそ、ぶれない強い心と共に、柔軟な頭を持ち続けることが大切で、それが変化につながり、進化へと昇華していく。

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10月18日、この日60歳の誕生日を迎えた郷ひろみが、全国ツアー『Hiromi Go Concert Tour 2015 THE GOLD』の50公演目=千秋楽を東京国際フォーラムで行った、というニュースをワイドショー等で目にした人も多いと思う。60歳といっても数字から想像してしまう老いとか弱々しさは郷には無縁だ。そのパワフルな歌声と切れ味鋭いダンスは、まさに圧巻。観る人全てが引き込まれるステージだ。郷は常々「変化の先に進化がある」と言い、安定を望まず、芸能界の荒波を突き進んできた、常にトップランナーとして。

郷は1972年に「男の子女の子」で歌手デビュー。「よろしく哀愁」「ハリウッド・スキャンダル」「How meny いい顔」「お嫁サンバ」「哀愁のカサブランカ」「2億4千万の瞳-エキゾチック・ジャパン-」、30代後半のバラード三部作「僕がどんなに君を好きか、君は知らない」「言えないよ」「逢いたくてしかたない」、そして「GOLDFINGER’99」などなど、誰もが知っている、一度は聴いたことがあるヒット曲を数多く持ち、「NHK紅白歌合戦」には27回という出場回数を誇る。今年5月には通算100枚目のシングル「100の願い」をリリースした。

常に最高のステージを!リスナーの目線を持ち続けるスター

郷の凄さは、コンサートに行けばわかる。お客さんの中心は40代、50代の女性。それぞれがオシャレをし、郷との“デート”を楽しみに来ている。二世代、三世代で来ているファンも多い。郷の声、歌を聴けばその声量や、歌の力強さに、またスリムな体にタイトなスーツを着こなしているスタイルを見れば、徹底的に体を鍛え、ボイストレーニングも欠かしてないのは一目瞭然、それらのこと全てが、お客さんを喜ばせることにつながっている。お客さんを喜ばせることに命をかけているのが伝わってくる。そんなスターの凄みというか、40年以上に渡って支持され続けている理由は、やはりコンサートに行くとよくわかる。

披露する曲は、基本的に原曲のアレンジに忠実だ。デビューから郷の楽曲を数多く手がけた、筒美京平をはじめとする当時最高の作家陣、アレンジャー陣が創り上げたメロディとアレンジは、今聴いても斬新だし新鮮さを失っていない。そんな色褪せない名曲の数々をオリジナルアレンジで聴けるのがファンは一番嬉しいし、楽しみにしているのだ。アレンジを変えたとしても“意味のある変化”で、オリジナルを楽しみしてきたファンを決してがっかりさせないアレンジに仕上げている。そしてキレのある激しいダンスを踊りながら、しっかり歌いきるプロの仕事。息ひとつ乱れない。とても60歳とは思えない体力も、エンターテイナーとしての誇りからくるものだ。

コンサートの内容もそう。今回のツアーはこれまでのシングル曲を中心にした構成だが、例え新しいアルバムを引っ提げてのツアーだとしても、そこからの曲を8~9割、昔のシングル=みんなが聴きたい曲1~2割、という構成では決してない。新しい作品をアピールしながらも、やはり一番盛り上がるところ、肝の部分では、最強のセットリストを用意してくれている。とにかくお客さんが何を求めているか、それを一番に考えている。そのリスナー目線をずっと持ち続けている。

自分のキャパシティから出ることが変化すること

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郷は人気絶頂の1986年、芸能活動を中断してボイストレーニングやダンスレッスンのために、アメリカ・ニューヨークに足を運んでいる。その後も度々レッスンのため渡米。それは「今のキャパシティから出ることが変化するということ」という信念に基づいた行動で、自分に試練を課し、そこから出てくるものを吸収し、それをまた歌、ステージに反映させ、ファンを楽しませる。また、最高のステージを作り上げるために、体も徹底的に鍛え上げている。一日おきに、2時間のハードな筋力トレーニングを続けている。腹筋は「30分ノンストップで700~800回ぐらい」。鍛えるばかりではなく体のメンテナンスも怠らない。食べ物にも気を遣い、歯へのこだわりもハンパではない。これはテレビのトーク番組でも明らかにしている。“郷ひろみ”を極めることが、ファンに喜んでもらえる全ての事につながるという考え方だ。

今年サマソニ初出演。圧巻のライヴで、一瞬で”ホーム”に

ファンをいかに喜ばせるかは、何も自分のコンサートだけに限ったことではない。テレビの音楽番組では若手アーティストとの共演を楽しみ、また今年初めて夏フェス「サマーソニック2015」に出演した。初めて郷のステージを観るという若いお客さんが大半だった。でもそんな心配をよそに、頭からものすごいノリで一瞬で“ホーム”に変わった。全7曲をヒットナンバーで構成し、一切手抜きなし、全力で挑み、そこにいた全員を熱狂させた。完全にお客さんを“もっていった”。今年は「気志團万博2015」にも出演し、どんどん新しい場所へ打って出ている。実はさかのぼること5年前、2010年にはT.M.Revolution西川貴教が主催する滋賀県・琵琶湖湖畔で行われるフェス『イナズマロックフェス』にも参戦している。ここでも同様にステージの端から端までも何度も全力ダッシュし、お客さんの近くまで行き、さらにトークで笑わせ、30分程のステージだったが、完全に“もっていった”。一緒に観ていた某TV局の音楽番組のプロデューサーが「エンターテイナーという言葉を軽々しく使っちゃいけない。郷さんのためにある言葉だ」と話していたのを今でもよく覚えている。10分であろうと、30分であろうと、2時間でも3時間でも、そしてどんなお客さんでもきっちりと満足させることができるのが、真のエンターテイナーだ。それが郷ひろみだ。だから40年以上常に第一線を走り続けることができる“スター”なんだと思う。スターという言葉がこれほど似合う人はいない。

以前何かの雑誌のインタビューで郷の「僕のキャリアの最盛期は60代になると思っているんです」という言葉を目にした。感動した。これまでの輝かしいキャリア、現在の立ち位置にも決して満足することなく、常に高みを目指している。来年2月3日には、東京・サントリーホールでフルオーケストラと共演するスペシャルコンサートの開催も先日発表された。この冬は恒例のクリスマスディナーショーも行う。今がまさに充実の時、稀代のエンターテイナー・郷ひろみのステージは必見だ。

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◆郷ひろみHP

http://www.hiromi-go.net/

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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