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【インタビュー】秦基博の目に映る『青の光景』は、”最も美しい青”なのか 

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

約3年ぶりのオリジナルアルバムはセルフプロデュース。13曲中7曲がタイアップ曲

12月に入り、圧倒的に冬の匂いがしてきたこの時期、一年を振り返る感じにならざるを得ないモードになる。そんな時ふと思ったのが、今年は秦基博の声を、歌を、一年中聴いていたなぁということ。昨年、映画『STAND BY ME ドラえもん』の主題歌として書下ろした「ひまわりの約束」が大ヒット&ロングヒットになり、先日発表されたカラオケランキング「2015年JOYSOUND年間ランキング」では、総合ランキングの1位を獲得。卒業式、運動会といった学校行事や結婚式や送別会など様々なシーンで歌われたのをきっかけに、その人気はさらに加速し、子供から大人まで幅広い年齢層に支持された。この曲だけではない。数々の映画の主題歌とTVCMソング、TV番組のテーマ曲、秦の声と歌が求められていた。そんな、どこかで一度は耳にしたことがある曲がズラリ揃った、秦の3年ぶりのオリジナルアルバム『青の光景』が12月16日に発売される。13曲中7曲がタイアップ曲という、耳馴染みのいいことはもちろん、気にしなければ過ぎ去ってしまう、そんな何気ないことに目を向けた鋭い詞が心に突き刺さる。秦基博の“今のリアリティ”を真っ直ぐ届けるため、自らプロデュース。音ひとつひとつに徹底的にこだわった渾身の一作だ。ミックスダウンも終え、全ての作業から解き放れた時、まず思ったことは「いいじゃん!」だったそう--そんな「いいじゃん!」の全てを、ロングインタビューで聞かせてもらった。

隅々にまで”自分の色”を浸透させ、具現化したかった

--「ひまわりの約束」がロングヒットになり、“お茶の間”に進出した感じがあって、そういう曲を出した後のアルバムということで、邪推ながらプレッシャーみたいなものはあったのかなと思ったのですが。

秦 「ひまわりの約束」を受けてどうこうよりも、シンプルに、5枚目のアルバムをどうするのかということが大命題でした。もちろん「ひまわりの約束」から秦基博の音楽に触れたという人もたくさんいると思いますので、そういう人たちにこのアルバムで自分の世界をどう楽しんでもらえるかは意識しました。

--気合が入りまくったのかなと思ったのですが、逆でしたね。いかに自分の理想形に近づけることができるかが最重要課題だったと。

秦 そうですね、むしろもうちょっと気にした方がよかったかなって(笑)。

--そしてセルフプロデュースです。

秦 アルバムの隅々にまで自分の色を浸透させたかったんです。メロディ、フレーズ、各楽器の音色まで含めて、自分の要素をたくさん入れて、例えいびつな形でもいいので、自分の音楽と呼べるものを具現化したかったんです。

--約3年ぶりのアルバムで、前作『Signed POP』を作った時から、次は自分でプロデュース、という気持ちが強かった?

秦 『Signed POP』の中にも自分でサウンドプロデュースした曲が何曲かあって、まさにあのアルバムを作り始めたころから、自宅の作業部屋にプロトゥールスとか機材を入れて、音楽作りを始めたので、そういう意味では次のアルバムからは自分で全部できるかなとは思っていました。'

青ってどこかもの哀しさを持っている色で、人生の”悲哀”を描きたかったのかもしれない

--色彩豊かなアルバムでした。特にひとつひとつの言葉が響いて、沁みました。一曲一曲への思い入れ、こだわりをご自身の口から語っていただけますか、まずはオープニングナンバーの「嘘」から。

秦 「嘘」はエレピのフレーズから、4つのコードがリフレインしてずっと回っていくのですが、まずそのアイディアが浮かんで、そこからどういう音を加えればいいのか、チェロを入れてみようとか、そういうアイディアが構築されていって、気づけばアコギが入ってなかったという…(笑)。今回の作品は『青の光景』というタイトルにしたのもそうなんですが、作る前から青みがかったというか、青っぽいアルバムになるなというのが漠然とあって、今になって思うとブルーってもの悲しさを持っている色で、生きていくうえで切り離せない悲哀みたいなものとか、そこまで表現しようとしていたのかなと思ったりしました。

--青にも色々な青がありますよね。

秦 そうなんですよね、さわやかな青もあるし、深く黒に近い暗い青もあるし、そういうグラデーションの中で、色々な事を表現できるような気がして。それと自分自身も35歳という年齢になって、「青い」時期から、もっと深みを追求していくべきだと思ったし、そういう中で青という色が自分の中でイメージとしてあったのかもしれないですね。ポップというだけではなく、深みとか奥行きを感じさせたいと思いました。「嘘」と2曲目の「デイドリーマー」は音を色で表すとするなら、青だと思いますし、それで一曲目に持ってきました。

--元々「青」は好きな色だったんですか?

秦 特にそういう感じでもないんですが、ただ、曲のモチーフとかイメージカラーを探している時、青みがかった色が浮かんでくることは時々ありました。実際「青い蝶」とか、青をモチーフにした曲もありますし。

どこまでが事実でどこまでが虚構なんて関係ない。聴き手がイメージを膨らませてくれるか、感動してくれるかが大切

--歌詞の中で「嘘」という言葉の後に「永遠」という、全く温度感が違う言葉を持ってきていて、それが印象的でした。

秦 シンガー・ソングライターって、曲に本人がどこまで投影されているのか、実体験なのかってよく聞かれますが、それって僕からしたら非常に答えにくい質問で、どこからどこまでが自分で、どこからどこまでが虚構かなんて、自分でもわからない部分があったりするし、だから嘘でも真実でも僕からしたらあまり関係なくて、聴いてくれた人が感動したかどうかの方が大事なんです。聴き手がイメージを膨らませてくれるかどうかということを、一番に考えています。そういう意味では嘘って何なのか、自分はフィクションの中に本当のことをたくさん言っていることもあるし、それって嘘なのか本当なのかなんとも言えないなって思ったんです。「嘘」って言葉から、自分の5枚目のアルバムが始まるということは、それ以降の作品に対しても、何らかの影響を与えるのでは、と思っていて。

--これが1曲目でガツンときたというか、“もって行かれた”イメージがありました。曲順って本当に大切ですよね。

秦 デモの段階から1曲目にしようと考えていましたね。

--「デイドリーマー」(大東建託「みんなの想い」篇TVCMソング)は?“つらいけど前向きなコード進行”って感じでした(笑)。

秦 青という色を体現している曲です。CMソングに決まったこともあり、歌詞も悲しい気持ちを抱えながら今を生きている人のことを描いていて、聴いてくれる人の背中を押すフレーズを入れたかったんです。それを今自分がやろうとしている世界と、どう融合させるかということを考えた時、このストーリーになりました。「誰かの夢が叶うことを願っている」という言葉が持っている美しい響きもありますが、そこの境地に、人は立てるかどうかの瀬戸際というのもあるかな、ということが自分のとってのリアルでもあったので、その主人公は何を思っているんだろう?と想像しながらこの情景を描きました。

--「ひまわりの約束」に関してはもういわずもがなという感じですが、アルバムの中に入るとまた違う印象、聴こえ方がします。

秦 この曲は奇をてらうというよりは「王道」をいくということを考えて作りました、ミュージシャンもアレンジも。こういう時代からこそ、ど直球を投げ込むというのもかっこいいかなと思ったので。

自分らしさとは?U-29世代の人に向け、今の自分が言えることとは?--「ROUTES」

--アルバムの中に入るとそのアレンジがより際立ちますよね。そして「ROUTES」。

秦 これは『人生デザインU-29』(NHK Eテレ)のテーマソングとして書いたのですが、自分はその世代よりも少し上の人間なので、自分がその頃何を一番問題として抱えていたかとか、U-29世代の人たちに、今の自分だったら何が言えるのかということをテーマに歌いました。29歳の頃自分は何をしていたかというと、ちょうど3rdアルバムの『Documentary』を作っている頃で、秦基博にしかできないことって何だろうと、社会の中で自分にしかできない役割を探している時期でした。番組に登場してくる人も同じようなことで悩んでいる人が多いんですよね。でも今の自分から言えることは、自分らしさって自分の中から出てくるものというよりは、周りの人が決めることなんじゃないか、とか、逆に自分らしいことをやろうとすると、余計に自分自身を狭めていることにもなるんじゃないか、ということだったりするんです。当時の自分を振り返っても、詞を書いて曲を作って歌っている自分がいて、仮にこれは秦基博らしくない曲だと思っても、そこには自分の表現が絶対あって、それを自分らしいと呼ばなくて何と呼ぶんだって。それは社会の中でもそうだと思う。自分自身が思う事、そういうルートってたくさんあるんだよというメッセージを手渡せたらいいなと思ったのがこの曲です。ドラム、ベース、アコギというシンプルな楽器構成にしています。

--シンプルな音だと、やはり声が立って言葉がビシビシ伝わってきます。

秦 そうですね、あとはアレンジをどうするかだったのですが、サビとAメロのコード進行が同じで、それをどう処理していくかという過程の中で、Aメロがリフレインされるというアイディアの元に、シンプルながらも味わい深い曲を目指しました。

男の情念が露わになった、究極のラブソング「美しい穢れ」

--「美しい禊れ」。

秦 弾き語りは1曲入れたかったのと、哀しい色が強い印象の曲が欲しかったので、この曲を作りました。

--男の情念みたいなものが露わになっている、男が歌う究極のラヴソングという感じがします。秦さんの作品の中で、今までここまで踏み込んだ詞、言葉ってなかったような気がします。

秦 そこですよね。そこをどう自分流に表現するかというのがこの曲だったし、相手の事を好きになる時に、ついてまわる感情ってあると思いますが、それを包み隠さずどこまで書けるか、どこまで書いたらいいか、そのへんがこの曲はポイントでした。「狂おしい くちびるも 足も」という二番のサビに“足”という言葉を入れたのは、自分の中のギリギリのラインが足だったんです。好きになった人の体の中で、愛おしいと思うパーツって人それぞれだと思いますが、その中で何をチョイスするかによって、曲の中の主人公の思想、捉え方が見えてくると思う。指にするのか、髪にするのか、瞳にするのかで。そこで足という言葉を入れたのが、この曲のポイントでした。

--さらに、穢されてしまえばいい、と言い放つ感じも、新鮮でした。

秦 表現の振り幅として、それぞれの曲の在り様があるとすれば、それぞれどこまで鋭くそこに落とし込めるかだと思います。でもこの曲は逆にいき過ぎると聴けなくなると思うので、自分なりのラインを気にしながら作りました。

言葉で畳みかける「Q & A」は、変化球ではなく、ある意味”まっすぐ”やっている曲

--「美しい穢れ」という言葉が美しいです。そして「Q & A」(映画『天空の蜂』主題歌)は言葉数が多く、それがマシンガンのように襲いかかってきますが、この曲も「ひまわりの約束」と同様にシングルとして聴くのと、アルバムの中で聴くとまた違った印象に聴こえます。

秦 そうですね、シングルとして「ひまわりの約束」「水彩の月」と並べると、いきなり来た感じはあると思いますが、アルバムで聴くとなるほどと思ってもらえる曲だと思います。他の曲との兼ね合いの中で、こういう曲があるというのは、自分の中では変化球を投げたつもりはなくて、自分の中にあるサウンド感というか、アコギがメインでそれがグルーヴィーになっていて言葉で畳みかけるという手法は、ある意味まっすぐやっている感じなんです。

--グルーヴと言えば、玉田豊夢さんのドラムがむちゃくちゃグルーヴ放ってますよね。

秦 そうですね。デモを作っていた時から、レコーディングはこのメンバーじゃないと嫌だと思っていました(笑)。

--うねっている感じが気持ちイイですよね。

秦 まるで生き物みたいなグルーヴというか、全部の“面”がムチムチしているし、密度が濃いですよね。今そういうリズムを出せるのって、豊夢さんしかいない気がします。いつも、それぞれのミュージシャンの方が持っている味みたいなものと、曲とのマッチングはすごく考えますし、今回もパっとイメージできました。「デイドリーマー」のドラムは(あらき)ゆうこさんだとか、これは(河村)カースケさんに叩いて欲しいとか、そう思ったミュージシャンの方が全員揃ったので、このアルバムは本当に自分のイメージ通りです。

--ファルセットが美しい「ディープブルー」。

秦 アルバムのコンセプトが具体化してきてから新たに作った曲です。よりその世界観を提示する曲にしたいと思いました。なのでタイトルを「ディープブルー」にしたし、テーマやサウンド感もそうです。ファルセットを多用するというのも、今までそういうふうに狙ったことってあまりなかったので、割と実験的な曲です。

--もの哀しい感じがすごく印象的です。

秦 ファルセットじゃないと出ない表情だと思いますし、この曲にすごく合っている気がして。ドラムも生ではなく、一音ずつ録ったものを打ち込んでいくというやり方をしていて、それはこの曲を作る時にアイディアとしてありました。

目指す音像を最初に形にできた「ダイアローグ・モノローグ」が、このアルバムの”0歩目”

--タイトルは「ディープブルー」ですが、日本語の「深い」という言葉がスッと入ってきました。そして「ダイアローグ・モノローグ」。

秦 この曲がアルバムの中では一番古い曲です。これもドラムは打ち込みで作りました。このアルバムの0歩目といっていい曲で、自分がアルバムに向けてやりたい音像を最初に形にした感じです。こんなアルバムにしよう、あんなアルバムにしようと、色々と膨らんでいくきっかけになりました。『青の光景』でやろうとしていることが、先駆けて濃く出ているなと思います。

--「あそぶおとな」は楽しそうな雰囲気が前面に出ています。

秦 若手のリズム隊で楽しく録ろうというのがアイディアとしてありました。元気いっぱい録れたらという感じでした。いつもレコーディングでは僕より年上のミュージシャの方を迎えることが多いので、この曲では若手ミュージシャンを集めて、偉そうにやらせてもらいました(笑)。一番最初(2月)に録った曲で、ここからアレンジャーとしての仕事がスタートしたという感じです。色々な楽器のアイディアをどんどん盛り込んでいった結果、それをどうすっきり聴かせるのか苦心した曲でもあります。

--詞も「ハラハラ」という言葉が出てきたり、他とは違う雰囲気の曲です。

秦 そうですね。言葉遊びといいますか、○○じゃんとかあんまり詞で使わない言葉を使って、今自分が抱えている問題というか、立ち向かおうとしているものが描けたらいいなと思いました。

--「Fast Life」。

秦 ソウルテイストのパーカッシヴな曲を作ろうというところから着想して、言葉のグルーヴ感を追求していきました。サウンド的には、ソウルフレーバーのグルーヴ感をアコースティックで表現するのが狙いで、どこか陰鬱とした世界というのはイメージとしてあり、仮歌の段階から「スロウライフ」という言葉があったので、それをどう自分が思っているのかを探っていきました。オーガニックだとか、時代の中で色々叫ばれていることに対して自分が思う事、それとのギャップ、今の感情をより強く出せたらなと思いました。

--社会に対する想いをシニカルな言葉で表現していて、かつ、秦さんが今抱えている苛立ちとか焦りみたいなのものも垣間見ることができて、それがこの音と相まって、しっかり残る曲です。

秦 まさに苛立ちとか怒りみたいなものをこの曲では出したかったですし、それをどう描くかがある意味自分らしい表現、こうやってぐちぐち言っている感じが、ある意味自分らしかったり(笑)。声高にまくしたてるたてるわけではなく、心の中で思って叫んでいる感じ。この曲もフィクションなのかノンフィクションなのかがあやふやな曲ではあると思います。

初のクリスマスソングにトライした「聖なる夜の贈り物」

--シチューのCM(ハウス『北海道シチュー』)でおなじみ、シアワセ感満載のアレンジの「聖なる夜の贈り物」。

秦 この曲はアルバムの振り幅として、ハッピーなものにしようというのがあって。シチューのCMソングとして、まずサビの“真っ白な雪のように 飾らないで 届けよう”というフレーズを考えて、それを導き出すストーリーを組み立てていきました。雪という言葉も使うし、そういえばクリスマスソングって作ったことがないなと思い、トライしました。

--そういえば初クリスマスソングですね。今まで作ろとは思ったことは?

秦 あまり考えてなかったです(笑)。今まで敢えて作ろうとしなかっただけで、今回はチャンスかなと思い。冬のイメージの曲にしてもよかったんですけど、クリスマスというものが持っているムードの中で、恋人たちが何を想うかということの方がより具体的ですし、画も浮かびやすかったんですよね。幸せな感じが出せればいいなと思いました。

--映画『あん』の主題歌「水彩の月」。

秦 曲を作る時にゼロ号試写(完成前の粗編集の上映)を観させていただいのですが、その時に直感でピアノだなと。アコースティックピアノでイントロを聴きたいと思いました。映画を観終わった後に自分の中に作りたい音像が生まれていたので、そのイメージを手繰り寄せながらイントロを作りメロディを作りという感じでした。監督の河瀬(直美)さん独特の世界で、セリフ以外でも物語るものはたくさんあって、それが“話せなかったことがたくさんあるんだ”というサビのフレーズにつながっていきました。言葉にすることだけが伝える術じゃないということを、河瀬さんの作品は教えてくれています。表情だけでわかることだってあると思うんですけど、自分自身十分に伝えられなかったことがあって、もしその時の状況にもう一回戻れたとしても、うまく言えるかどうかはわからないですし、たぶん言えないだろうなと思うし、というようなことが歌詞になりました。

誰かに話しかけるように歌いたかった「Sally」

--これもCMソング(GROBAL WORK TVCMソング)の「Sally」は?

秦 CMのコンセプトが“エスケイプ(escape)”で、日常から抜け出して旅をして帰ってくるという…。そこで、“なぜ人は旅をするのか”、ということをテーマになっています。“エスケイプ”っていうコンセプトもそうですが、また自分が生きている場所に戻ってきて、新しい気持ちで先へ臨むために旅をするんじゃないかなと。メロディを作っている時点からSallyという言葉があって、それはSally以外の何物でもないという…自分の中では(笑)。きっと、誰かに話しかけるように歌いたかったんだと思います。ネットの辞書で調べたら、小旅行っていう意味や、冒険に出るとかの動詞的な意味もあって、偶然ですけど、意外と俺やるなと思いました(笑)。たまたまSallyという言葉の響きと誰かへの呼びかけのようなニュアンスから生まれたストーリーなんですけど、女性でもあれ男性であれ、旅立つ人の架空の人物かもしれないですが、旅立つ人のイメージがあって、そしてその人を見送る自分の立ち位置があるという。でも自分も実際色々な事を巡っている旅人の一人でもあり、そういう世界観が曲になったのかなと思います。後半、ストリングスを入れたのも、鳥が色々なところを自由に飛び回っている感じと弦の音が合うと思ったからです。これも自分の中で広がっている情景をひとつずつ音にしていく作業でした。

『青の光景』初回生産限定盤
『青の光景』初回生産限定盤

--完パケたものを聴いてみた時に、まず最初に出てきた言葉って覚えていますか?

秦 完成してからまだ一週間ぐらいしか経ってないので、客観的に聴けていないのですが、曲順も決まって、マスタリングも終わって、出来上がったときは……「いいじゃん!」でした。それはいい作品になったということだけではなく、思い描いた通りの作品になったなという意味です。納得!です。

縄文あおもり三内丸山遺跡
縄文あおもり三内丸山遺跡

--初回生産限定盤の特典映像に入っている、縄文あおもり三内丸山遺跡でのライヴが、ご自身でも相当印象に残っているようですが。

秦 今年唯一のソロライヴということもありますし、青森の遺跡に全国から観に来てくれた方がたくさんいて、それにまず感動しました。自分の音楽を見知らぬ土地に連れ出して、それを聴きにたくさんの人が集まってくれる、そんな光景を目の当たりにした時の感動が、また次の創作活動の原動力になるんですよね。

シンガー・ソングライターとして、プロデューサーとしての”今”を鋭く切り取り、描いた新鮮かつ深い傑作

『青の光景』では、曲によってミュージシャンの顔ぶれが違う。それは秦のファーストインプレッションで、この曲にはこの人のドラム、ベース、ギターの音と、頭の中で鳴り響く音、感じたままの音を一音一音拾い集めていくためで、ひとえに歌の表情、こまかなニュアンスをきちんと聴き手に伝えたいという想いで、自分の“理想”をとことん追求していくためでもある。35歳のシンガー・ソングライターが今何を歌うべきか、伝えるべきか、どうやればその欠片を少しでも聴き手の心に残せることができるのか、そんなことと改めて真摯に向かい合ったのがこのアルバムだ。だから、いつも以上に言葉の選び方が慎重かつ大胆だと思う。優しい言葉は、その優しい声でより優しく運んでくれ、鋭利な刃物のように鋭く、心に突き刺さる言葉は、秦の声の特徴でもあるその“ザラついた”部分と相まって、冷たさと悲哀さの余韻を残してくれる。しかし最終的には“希望”の二文字で包み込んでくれるのが、秦の声であり、歌である。

とにかく秦基博の“今”を切り取った、ある意味非常に新鮮な世界がつまっているといえる今回の作品。そんな曲達がこれから何年、何十年と聴き継がれていくかどうかなんて誰にもわからないが、秦はそこにはこだわっていないように思える。“気分屋の時代”の中で、これだけ時の流れが早く感じてしまう今は、先の事なんかわからない、とにかく“今”なんだ、そう声高に叫んでいるように感じる、ある意味潔い作品集だ。秦の声は、一見いや一聴、どこか優しく包みこんでくれるように感じるのに、感情はストレートに心の奥底に届く--そんな、深みを増してきた「鋼と硝子でできた声」を堪能できる一枚だ。

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『HATA MOTOHIRO CONCERT TOUR 2016』

3月5日(土) 福岡サンパレス

3月11日(金) 岡山シンフォニーホール

3月12日(土) 広島文化学園HBGホール

3月19日(土) 秋田県民会館

3月30日(水) ロームシアター京都 メインホール

4月3日(日) ニトリ文化ホール

4月10日(日) アルファあなぶきホール・大ホール

4月17日(日) 名古屋国際会議場センチュリーホール

4月24日(日) 新潟県民会館

4月28日(木) 神奈川県民ホール

5月3日(火) 仙台サンプラザホール

5月11日(水) 大宮ソニックシティ 大ホール

5月18日(水) オリックス劇場

5月19日(木) オリックス劇場

5月26日(木) 本多の森ホール

6月3日(金) 東京国際フォーラム ホールA

6月4日(土) 東京国際フォーラム ホールA

秦基博オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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