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路上ライヴでCDを3か月で1万枚売るアーティストがメジャーシーンへ――ストリートミュージシャンの現状

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
4月13日にメジャーデビューした4年2組のライヴ

CDが売れない時代に路上ライヴで1万枚を売るミュージシャンとは?

CDが売れなくなったといわれて久しい。その分といってはなんだが、昨今続々と立ち上がってくる会員制のストリーミングサービスが、簡単に音楽にアクセスでき、手に入れられる方法として若い人たちを中心に便利がられている。そうなってくるとCDはますます売れなくなるのだろうか。売る術はないのだろうか。

いや、3か月で8,000枚、1万枚のCDを実際に売っているアーティストがいる。ストリートミュージシャンが、路上ライヴ、いわゆる手売りでこの枚数を売っているのだ。今、路上ライヴは警察の取り締まりも厳しくなり、通行人からの通報や「うるさい」と直接言われることも珍しくないというやり辛い状況だ。でも、そんな中でもたくましくライヴを続け、CDを確実に、着実に売っているアーティストがいる。

デジタルからは伝わってこない”熱”と”夢”を売る

「4年2組」「女子独身倶楽部」というアーティストだ。4年2組は男性2人組、女子独身倶楽部も女性2人組だ。この2組は、路上から日本武道館へという目標を掲げ、ほぼ毎日路上でライヴを行っている。2組に共通しているのは、ただCDを手売りしているのではなく、”デジタル”の環境からは伝わってこない”熱”をユーザーに直接伝え、”夢”を売っているということ。そこに心を打たれてユーザーは彼らの路上ライヴを楽しみにし、CDを買っている。CDと一緒に夢を買っているのだ。

表現方法はネットでも路上でもいい。でも長く続けるならお客さんひとりひとりにきちんと伝えることが必要。その積み重ねが芯、地力になる

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ストリートライヴで実力をつけ、人気になったアーティストというと、過去にはゆずやコブクロ、いきものがかりなどがいるし、ももいろクローバーZだってそうだ。もっというとシャ乱Qだって元は大阪のストリートから出てきたバンドだ。昔は自分たちの音楽、パフォーマンスの最初の表現の場として、選択肢が路上ライヴしかなかったということもあるが、最近は”人に見せる場”の多くがYouTubeやニコ動他のネットに移行した。しかしその現状に警鐘を鳴らすのが2組のプロデューサー立石賢司氏だ。ミュージシャンを目指す若い人の情熱が足りない時代になったという。「自分が歌っているところをYouTubeやニコ動などにアップしている人が増えていますが、それだけで満足している人はいいのですが、それでお金を稼ごうと思っている人は、実際はマネタイズできていない人がほとんどです。楽をしちゃっているんです。楽して成功している人なんてほんのひと握りなのに、そこばかりがクローズアップされ、それはメディアの責任もあると思う。メディアに出たり、有線で流れたりすると、売れると思うかもしれませんが、売れないです。幻想です。それは逆にお客さんをなめていることにもなります。そうではなく、お客さん一人ひとりにきちんと伝えていくということが、時間はかかるかもしれないけど、それがいかに強いかということをわかって欲しい。その積み重ねがミュージシャンの芯、地力になるんです」。

確かに”ネット出身″というキャッチがつけられ、メジャーデビューしてそれなりに売れているアーティストもいるが、数としては多くない。音楽を含めて様々な動画をYouTube上に配信し、利益を得ている”ユーチューバー“の存在がクローズアップされ、YouTubeが”簡単で成功しやすい表現の場”として認知されつつある。もちろん多くのユーザーの目に触れるという事を考えれば、全く間違ってはいない。が、ミュージシャンとしてデビューして、その後も長く活動していくためには、キャリアのスタート時点でしっかりとお客さんと向き合って、想いを伝える事、CD一枚を売ることの難しさを体感、経験した方がいいということだろう。ネットもうまく使い、実践の場として路上でユーザーと向き合えることができればいいのではないだろうか。

3か月でCDを1万枚売る4年2組と女子独身倶楽部は、どんな方法でお客さんにアプローチし、CDを手に取ってもらっているのだろうか。

4年2組は”生涯青春宣言”がコンセプト。サラリーマンシンガーからストリートミュージシャンに

左:かんご(Vo),右:ゆうき(Vo)
左:かんご(Vo),右:ゆうき(Vo)

4年2組は、ゆうき、かんごが“青春”を テーマに活動するボーカルユニットで、ほぼ毎日、東京都・埼玉県・千葉県を中心に路上ライヴを行っている。就職して、サラリーマン生活を送っていた二人が脱サラし2012年から音楽活動をスタートさせ、2013年から4年2組として活動。同年9月に1stシングル「自由研究」をリリース。ゆうきが学ラン、かんごがジャージ姿でパフォーマンスし、幅広い年齢層から支持されている。「理系の大学を出て就職して働き始めてから「これでいいのかな」と思い始めて、3年半営業をやっていましたが、二人でたまに「サラリーマンシンガー」と称して、スーツ姿で路上ライヴをやってたんです。そういう変わった感じでやっていれば、人が立ち止まってくれるんじゃないかと思っていたのですが、全然だめでした」(ゆうき)。そんな二人に声をかけたのが立石氏だった。そして「生涯青春宣言」、4年2組というコンセプトを考え、二人に提示した。「全然理解できませんでした。ユニット名も「どうしよう、これ」みたいな感じでした(笑)」(ゆうき)、「4年2組というユニット名を立石さんから聞かされ、驚きを通り越して意味がよくわかりませんでした(笑)。さらに片方は学ラン、片方はジャージでと言われ…(笑)」(かんご)。

「日本武道館でライヴをやるという僕らの夢を、ファン(クラスメイト)と一緒に追いかけたい」

最初はそのスタイルに戸惑っていた二人も、路上ライヴをやり始めると「生涯青春」という言葉の意味もわかってきたという。「僕たちが本気でやっていることに感動してついてきてくれるファン(クラスメイト)の方たちって、話をしたり手紙をもらって読んでわかったのは、今が充実していないと感じている人が多いことでした。だからこそ夢をみんなで叶えようよというのが伝わるのだと思います」(ゆうき)。「夢って、ないという人の方が実は多いんですよ。だから一緒に武道館に行きましょうっていうのは同じ夢を見て、一緒に目指そうという”提案”なんです。賛同してくれる方が多ければこちらも一層力が入りますし、そういう相乗効果があると思います」と立石氏は、夢がない、何も目標や追いかけるものが見つからないという人達へ、4年2組を介して同じ夢を見、実現に向け頑張りましょうという”提案”だという。年齢関係なく、自分がやりたいことを一生懸命やっていることを”青春“と呼んでも間違いではない。彼らのファンには60代、70代の女性ファンもいて、ライヴを観に路上だけではなくライヴハウスまで足を運んでいる。「僕はそこまで歌がうまくありませんし、路上ライヴで声が出ない事もありましたが、それでもCDを売る自信があったんです。それは僕らにはCDを3か月で8,000枚売るという目標があったからです。この高い目標に向かって毎日やっているんだということが伝われば、絶対みんな応援してくれると思ったんです。路上に関しては歌がうまければCDが売れるとか、へただから売れないということはないと思う」(かんご)。

毎日路上でライヴ。1日に50~60枚CDが売れるワケとは?

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毎日路上ライヴをやっている彼らは、一日最低でも50~60枚はCDが売れるという。土日は一日12時間くらい路上でライヴをやり続けている。「他のインディーズのミュージシャン達は、ライヴは月イチとかで、それで夢を叶えたいというのは社会に出て働いている人に失礼だし、正直全てが足りないと思う。自分もインディーズの最初の頃はそうだったからこそ、途中で気づきました。毎日路上ライヴをやり、その様子を毎日SNSでアップしていると、やっぱり見てもらえます」と自身もアーティストとして活動していた経験を持つ立石氏とアーティストたちは、とにかく毎日続けることの大切さを訴える。確かに自分が毎日利用している駅で、毎日同じ場所、同じ時間に二人が何かを訴えている姿を目にすれば、気になるというものだ。のぼりを立て、マイクで薄っぺらい言葉をがなっている政治家よりも、歌やメッセージで本気を伝えている二人の方が100倍気になる。

彼らはファンのことをクラスメイトと呼んでいる。そのクラスメイトと日本武道館で”大クラス会”(ライヴ)をやるという高い目標を掲げ、その過程でCDを3か月で8,000枚売るということにチャレンジしていた。その頑張っている姿に共感し、CDを手に取る人が多いのだ。4年2組というユニット名、学ラン、ジャージ、「生涯青春」、一緒に夢を叶える、というひと目で誰もがわかるわかりやすいコンセプト。考える必要がなく、誰もがその世界観に簡単に飛び込むことができるのだ。

工夫を凝らし、考え抜かれた”伝え方”

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しかし彼らは路上でただ普通に歌っているわけではない。そこには考え抜かれた”伝え方“があった。まず渋谷や池袋とか、敢えて路上ライヴをやっているミュージシャンが多いところは避けて、なんでこんなところでやっているの?と思われるようなローカルな駅を選んで、路上ライヴをやっている。すると「それだけで立ち止まってくれることが多いです。まずどうやったら立ち止まってくれるかを考えて、立ち止まってくれたら自分のたちの本気を伝えます」(ゆうき)。競合を避け、そして「僕らは1回のパフォーマンス時間は敢えて短くしていて、その分人と接する時間を多くしています」(ゆうき)と言うように、立ち止まってくれたお客さんとの”ふれあい”を大切にし、そこから自分達の本気を伝える。さらに彼らの楽曲を手掛ける立石氏の、楽曲を通してのお客さんへのアピール方法も独特だ。「路上で歌う曲はライヴハウスで歌うそれとは音階も歌詞も別です。路上ライヴは無料じゃないですか。でも次にライヴハウスでやる時は、チケットを買ってもらわなければいけないでのお金がかかります。路上での”試食“は無料だったのに、ライヴハウスで同じことをやってお金を取るのは申し訳ないですし、ライヴハウスではとにかく楽しいライヴを観せたいと思っています。なので4年2組には路上で歌っていない曲がたくさんあります」とその観せ方、伝え方にも工夫し、路上からライヴハウス、次のステップに歩みを進めてくれたファンを飽きさせないようにしている。

「バッター!!!!ビビってる!!~さあ僕ら「勝ち方」を見つけよう~」
「バッター!!!!ビビってる!!~さあ僕ら「勝ち方」を見つけよう~」

そんな彼らの音楽は徐々に広がっていき、3か月でCD8,000枚お届けというチャレンジは、昨年8月に見事達成し、現在も次の目標にチャレンジ中だ(4/13現在)。そして、その勢いはメジャーシーンにも轟き、4月13日、遂にメジャー1stシングル「バッター!!!!ビビってる!!~さあ僕ら「勝ち方」を見つけよう~」が発売された。4年2組を取り巻く”青春の輪”はますます大きくなっていきそうだ。

女子独身倶楽部も4年2組同様、路上から日本武道館を目指す

女子独身倶楽部(左;加藤樹里果(Vo)、右;高橋エリ(Vo))
女子独身倶楽部(左;加藤樹里果(Vo)、右;高橋エリ(Vo))

4年2組と同じく、3か月でCD8,000枚お届けチャレンジと、日本武道館でのライヴを目標に路上ライヴを行っている女性2人組・女子独身倶楽部も面白い存在だ。高橋エリ、加藤樹里果のボーカルユニットでそれぞれがソロで活動していたが2014年6月、ものまねタレントの針谷紀久子と共に女子独身倶楽部を結成し、1stアルバムをリリース。程なくして針谷が脱退し、2人組になり、現在はライヴハウスでのパフォーマンス以外は、それぞれが路上ライヴを中心に活動している。

ソロでやることに行き詰っているタイミングだった。高橋は「ソロでやっているとひとりよがりで終わってしまうというか、ライヴハウスでやっていても路上でやっていても、なかなか変化を見せることができず、お客さんが飽きていました。半年以上やってもお客さんが全然増えなくて…」と悩み、加藤は「それまで一人でライヴをやっていても楽しくなくて、二人でやって初めて楽しいと思えました。そこから初めてお客さんときちんと向き合えるようになりました」と高橋同様に、自分のそれまでのスタイルに限界を感じていて、高橋が立石氏に「ユニットが組みたい」と相談をしたことが、女子独身倶楽部結成のきっかけだった。ユニットで納得いくライヴができたことで、ソロで路上ライヴをやる時の心構えも、ガラッと変わってきたという。

2人が求めていた共通のキーワードは「楽しさ」だった。現在メインボーカルを務める高橋は3人組時代はパフォーマー的な役割で「スイカを食べたり、片栗粉が入った箱の中に顔を突っ込んで飴を探して、真っ白になってみたり、どうやったらお客さんに楽しんでもらえるかしか考えていませんでした。昨年2月に出したアルバム『ええじゃないか』から詞のコンセプトも固まってきて、歌えて、楽しい生き生きしたライヴをやっていこうという方向性が見えてきました。それまでは毎回運動会みたいなライヴでした(笑)」と言い、「歯は折れるは、マイクは倒しちゃうは、むちゃくちゃでした。ゴムパッチンとかもやってました(笑)」と言う加藤と共に、”面白い”ということがどういうことなのかがわからなくて、体を張れば笑いが取れるのではないかと、とにかくステージ上で暴れまわっていた。

アラサー独身女性の生態や心情、独身でも生き生きとやっている姿を表現したい

5月18日シングル「清水寺」でメジャーデビューを果たす女子独身倶楽部
5月18日シングル「清水寺」でメジャーデビューを果たす女子独身倶楽部

2人が歌う曲は、4年2組同様、プロデューサーの立石氏が手がけていて、自分大好きだったり、自虐的だったり、開き直ったり、強気な恋愛観を描き、等身大のアラサー独身女性の生態や心情を鮮やかに描いている。二人との何気ない会話から情報を吸い上げ、「どこか現代っ子なので、何も主張したいことがないというか、言いたいことがないんです(笑)」という高橋や加藤の代わりに「通訳」して詞を書いていると立石氏は言う。更に「経済を動かしているのは女性だと思っていて、その女性を動かすにはどうすればいいのかということを突き詰めるのが好きなんです」と、同性からの支持が不可欠と分析し「独身でも生き生きとやっているんだという部分を、二人には表現して欲しかった」とこのユニットが目指すべき場所は明確だ。そんな曲がある一方で「ええじゃないか!!」「法隆寺」といった歴史ソングなども人気になっている。立石氏は「一曲聴いたら歴史が覚えられる曲を作りたかったんです(笑)。今「清水寺」という曲もレコーディングしています(笑)。聴いたら歴史を覚えられる曲というのは、マーケットがあると思う。でも歴史ものだけに、壮大なロックオペラでカッコよくなければいけないと思っているので、作るのに時間はかかりますが…」と、誰もが知っている歴史に関するキーワードを入れ、メッセージ性のある歌詞を完成させている。キャッチーな言葉が並ぶ歴史ソングはライヴでも盛り上がる。その「清水寺」で、女子独身倶楽部は5月18日にメジャーデビューすることが決定している。

また、生まれた時から父親がいないという高橋は、日本武道館のステージに立ち有名になったら父親に会えるのではないかと思い、歌い続けている。彼女が歌う意味やストーリーに、ファンは共感している部分もある。「パパ、またいつか」という高橋の人生観を、立石氏が曲に「通訳」した作品も人気だが、ただのお涙頂戴ソングではなく、高橋の事をただ憐れむのではなく、親が子を思う、子が親を慕う普遍的なメッセージソングになっている。

女子独身倶楽部のライヴは二人が着物姿ではじける”ロックンロールフィットネス”
女子独身倶楽部のライヴは二人が着物姿ではじける”ロックンロールフィットネス”

彼女たちのライヴは『ロックンロールフィットネス』と言われ、笑いあり涙ありのメリハリのある2時間で、結果「楽しい」と思わせてくれるライヴになっている。ライヴでは二人とも着物で登場し、高橋は歌い、加藤はとにかく盛り上げ役に徹し、着物の裾を振り乱しステージ上を走り回り、お客さんを煽る。前出の4年2組もこのスタイルだ。メインボーカルのゆうきがしっかりと歌い、かんごがコーラスを取るほかに、ステージを縦横無尽に動き回り、煽り、笑わせる。そして二人でメッセージを届けるところはしっかり届け、メリハリでひきつけている。

女子独身倶楽部の二人は、それぞれがほぼ毎日路上ライヴを行っている。そこで女子独身倶楽部として日本武道館を目指していること、その夢を応援して欲しいと道行く人に訴えかけている。高橋は「今出会ったあなたと一緒に夢を叶えたいんですと、面と向かって一人ひとりに話をして、力を貸していただけませんかとお願いしています。もちろん歌を聴いていただいて気に入って下さった方にですが、みなさん「応援するよ」と協力をして下さる方が多いです。一日8時間ぐらい路上で歌って、多いときは30枚ぐらい買って下さることもあります。遠くから「お願いします」って声をかけても立ち去ってしまう人が多いので、立ち止まってくれた人に語りかけるというのを大切にしています。チラシを見て、立ち止まって歌を聴いてくれた人には「私はあなたにお話させていただいています」とちゃんと伝えると、相手の方も興味を持ってくれることが多いです。もうそこだけです。歌のうまい人は他にもたくさんいますし」と語る。一方、加藤は加藤で自分のやり方で”本気“を訴えている。「目標を立てて本気でやっているということを、立ち止まってくれて聴いてくださる人にはもちろん、立ち止まってくれなかった人を追いかけて行って「一曲だけでもいいのでとにかく聴いて行って下さい」と必死にお願いをします。それでチラシを渡して、聴いてもらって、自分のCDの説明をさせてもらっています」と。やはり夢を一緒に追いかけませんかという共鳴、共感をお客さんに感じてもらうために、想いを必死になって伝えている。

「自分達と同じようなタイプの人に、楽しいと思えることを見つけたら毎日はこんなにも楽しい」と伝えたい

汗、笑い、涙で老若男女を魅了する女子独身倶楽部のライヴ
汗、笑い、涙で老若男女を魅了する女子独身倶楽部のライヴ

それぞれが路上でライヴをやり、女子独身倶楽部として、楽しさを感じてもらうために派手なパフォーマンスを観せているのは、もちろん自分たちの目標を達成させるためにやっていることではあるが、もうひとつ、違う想いを込めて歌っている。それはお客さんと話をしたり、手紙をもらったりしているうちに気付いたのが、自分達と似ている人が多いということだった。高橋は「人とコミュニケーションを取るのが苦手で、アウェイな場面では心のシャッターを降ろしてしまう」自分が、今や路上で人に声をかけ、ライヴでは歌い踊り、加藤は「とにかく甘えん坊で、サボることばかり考えていた」が、そんな自分を変えるために路上ライヴを始めて、今ではこんなに楽しみながら生きている、ということをそれぞれが多くの人に伝えたくて歌っているという。何かに打ち込むこと、楽しいと思えることを見つけたら、もちろん辛いこともあるが、毎日がこんなにも充実した気分で過ごせるんだということを伝えたいという。

路上ミュージシャンの”伝える力”

路上でCDを売ること――その手法、捉え方には確かに色々な意見もあると思う。「この歌いいでしょう?」「私達かわいいでしょう?」というスタンスより、「一緒にやりましょうよ、やってもらえませんか?」と言われた方が、入りやすいと感じるユーザーが多いのも事実だ。CDが売れないと嘆いているばかりではなく、路上ライヴはアーティストが自らCDを届けているということに他ならない。ここで紹介した4年2組、女子独身倶楽部が夢を掲げ、ステップアップしていくその成長物語に寄り添い、一部始終を見守るというのはアイドルとそのファンの関係と同じだ。しかも「サイトで情報をチェックして遊びにきてください」という呼びかけではなく、直接一人ひとりに情報と生の言葉を届ける路上ミュージシャンの想いは”伝える力“となって、圧倒的な強さを発揮する。企画の面白さもさることながら、2組の”伝える力”は相当なものだ。

そして立石氏は、ミュージシャンを目指している若い人に「一人(ソロ)だとダメでも、二人組になるとものすごいパワーを発揮することが多い」と、自分の才能に自信をなくしあきらめてしまい、自分で自分の芽を摘んでしまわないことが大切と訴えている。

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<Profile>

4年2組。ゆうき(学ラン)、かんご(ジャージ)が“青春” テーマに活動するボーカルユニット。ほぼ毎日、東京都・埼玉県・千葉県を中心に路上ライヴ行う。目標はクラスメイト(応援者)を1万人集めて"日本武道館で大クラス会"を開催すること。サラリーマンとして生活していた二人が一念発起し、3年間、ほぼ毎日路上ライヴをやり抜き、通算3万枚のCDを手売りで販売。2015年12月に渋谷TSUTAYA O-WESTでワンマンライヴを開催し、会場を満員にした。2016年4月13日、待望のメジャーファーストシングル『バッター!!!!ビビッてる!!~さあ僕ら「勝ち方」を見つけよう~』を全国リリース。

4年2組オフィシャルサイト

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<Profile>

高橋エリ、加藤樹里果のボーカルユニット。元々、各々ソロで活動していたが、2014年6月、ものまねタレントの針谷紀久子と共に女子独身倶楽部を結成、1stアルバムをリリース。同年10月に針谷が脱退し、現在に至る。ライヴハウスでの活動以外は、それぞれが路上ライヴを精力的に行っている。NACK5のリクエストチャートでは、他のメジャーアーティストを押さえ10週連続1位を記録するなど、ファンを熱狂させ、様々な記録を塗り替えている。5月18日にシングル「清水寺」でメジャーデビューすることが決定している。

女子独身倶楽部オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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