Yahoo!ニュース

T.M.Revolution西川貴教(1)クスッと笑えじんわり心に残るものを―20年間の仕掛けの流儀

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
ベスト盤『2020――』(5/11発売)のジャケット写真

T.M.Revolutionがデビュー20周年を迎える。それを記念した全シングルを完全網羅したオールタイムベストアルバム『2020-T.M.Revolution ALL TIME BEST-』が5月11日に発売された。そこでT.M.Revolution西川貴教にロングインタビュー。最近は「株式会社突風」を設立したり様々な話題を提供し、大げさではなく毎日のようにそれがニュースとなって多くの人の目に触れている。ニュースになるということは西川の事、動向が気になっている人が多いという事だろう。20年間、第一線で活躍し続けているその人気の秘密はどこにあるのだろうか?「順風満帆な時期なんてなかった」と20年間を振り返った西川に、どうやってピンチを乗り切り、現在も様々な事を仕掛け続けることができているのか、その“闘い方”を聞き、前編・後編にわけ掲載する。西川貴教ばかりがなぜモテる――人を惹きつける自己プロデュース力とは!?

まず近くの人を楽しませて、それが広がっていくのが理想

――最近TVへの出演も多く、Yahoo!ニュースの常連にもなり(笑)、世間に話題を提供しすぎじゃないですか?

西川 今回ベスト盤を発売するということもありますし、色々タイミングが合致しているという感じで、毎日トピックスがある状況にはなっていますね。

――デビュー当時から自分の見せ方というか、すごくしっかり見せつつも楽しませるという部分が、西川貴教たる所以だと感じていて、いつも感心しています。20年間第一線を走り続けることができているのは、もちろんコアファンはついてきてくれているのと同時に、新規ファンの開拓がしっかりできているということです。

西川 そうだといいですね。ただ特別にそれを狙っていることをしているわけではなく、こちら側が楽しめるものというか、平たく言うとスタッフ受けがいいものは、自分が思っている以上に遠くに飛んでいく感じはしているので、そういうものは意識しているかもしれません。もちろんボツになるものもたくさんあるので、全部が全部みなさんの目に触れているわけではないですが。

――前に何かのインタビューで読んだことがあるのですが、西川さんが「イナズマロックフェス」を立ち上げたのも、お母様が入院されて、滋賀に頻繁にお見舞いに行きたいのでその口実ができるからと。社会云々よりもまずは近くの人に喜んでもらって、それが広がっていく感じが理想ということをおっしゃっていました。

西川 もちろん世のため人のために何かができればいいのですが、自分が切羽つまらないと、何が本当に必要か、何をすべきかという部分を意外と見落としがちで。「きっとこうでしょ」とか「たぶんそうだよね」とか、ぼんやりしたモノになってしまうので、それよりは近しい部分も含めて、本当に自分が必要だと思えるもの、自分がこれをすべきだなと思うことをきちんと丁寧にやって、それが最終的には、ひいてはみなさんのためになるようなことになっていくのではと、いつも思っています。そして続けていくことが大切だなと。見切り発車すると、結局一過性のものになってしまいがちなので。正直いうと自分が飽き性なので、そういう意味ではいかに楽しんで、予想の斜め上にいけるかという部分は、いつも考えています。

――何周年とか、周年だと色々なアイディアが集まって、一番盛り上がる状況にもっていけると思うのですが、西川さんの場合、毎年面白いことを仕掛け続けていて、“更新”している感じがすごくします。そしてメディアの“向う側”にいる人に対して、ラジオでの接し方、テレビでの接し方、ライヴでの接し方を切り替えてやっていて、それがファンを飽きさせない秘訣なのかなと思ったりしています。

西川 いや、でも100人の方がいて100人の方に好かれているわけでは絶対にないですから。もちろん発言は気をつけなければいけないですが、最初からそれを気にしすぎても、結果、ぼんやりした角のとれたものしか提供できなくて、なんとなくで終わってしまっていた時期もありましたね。ここにきて、みなさんに面白いなと思ってもらえる部分でいうと、大笑いじゃないけど、でもクスッと笑えて、じんわり心に残るものをいかにたくさん提供できるかということが大切だと感じています。

関わっているスタッフ全員が、売れると”信じて”突き進まなければいいものは生まれない。勝つ、勝てる意識を全員で共有する

――それすごくいいスタンスですね。

西川 マネジメントスタッフもそうですけど、レコード会社のスタッフや近いスタッフの意見はたくさん聞きたいですし、その歯車がきちんと合ってくると、周りも自然と色々回ってくるし。でも最初からこういう状況ではありませんでした。僕はレーベル移籍もしていますし、スタッフの入れ替わりもありました。そういう中で全員で何かをやって達成できると、オリンピックやワールドカップに出るような選手やチームを束ねる人の感覚に近いと思いますが、勝てることとか勝つことに対する感覚をみんなで共有できて、次の勝ちにも貪欲になれたり、それをいかに導きだすかということに熱心になります。でも負け続けていると、みんなの発想も面白くなくなったり、正直そういう時期もあったと思うし、僕自身もなかなかスタッフと意思の疎通が取れない時期もありました。でもそれは常にいい風だけが吹いているわけではないからこそ、今の状況を楽しめたり、純粋に嬉しいと思える瞬間があるのだと思いますし、これができたのだからこれもできるのでは?と考えられるのだと思います。前にスタッフに「本当に100万枚、200万枚売れていくのかは分からないけれど、それを信じられる気持ちを我々がきちんと持てているかが大切だ」という話をしたのですが、これ無理なんじゃないのって思いながら出したものなんて、やっぱり結果を残すのは難しいと思うんですよ。そういう意味では、何でもその商品や物事に関係する人たちが、それを信じられるものかどうかが一番基本になることですし、大事だと思います。あとは例えば最近のことでいうと、縁もゆかりもなかったAOAとのコラボレーション(「愛をちょうだい feat. TAKANORI NISHIKAWA (T.M.Revolution)」も、突然降ってきたものではありますが、「そういうのできません」といえばそれで話は終わっていたのですが、タイミングもそうですし、面白いのかもしれないと思ったので、純粋にお受けすることが出来て。で、結果的にすごくいい形になって、関わった人たちみんなが幸せになれたプロジェクトだったと思うんですよね。

――もともとAOAってチェックしていたんですか?

AOAとのコラボシングル「愛をちょうだい~」
AOAとのコラボシングル「愛をちょうだい~」

西川 たまたま後輩がやっているバーのようなところで、カラオケでAOAを歌っている人がいて、「へえー最近こんな感じが人気なんだ」って思ったんです。周りの女の子たちがAOA大好きで、絶対人気になるという話をされて、「へ~」と思っていたら今回の話がきて、ビックリしました。

”タイミング”が大切。AOAとのプロジェクトもベストなタイミングでスタートした

――やっぱりタイミングってありますよね。

西川 本当にそうです。これってコラボレーションの依頼が来る1週間くらい前の話ですよ。「イナズマロックフェス」に出ていただいたアーティストが、彼女達と同じ事務所だったということもあったりはしましたが、正直、女性グループは自分が今まで全く触れてきていない部分ですし、そこは同じようにK-POPが好きで、特にAOAが好きで応援しているファンの方達からしたら、「なんで西川なの?」と思ったと思いますし。逆に僕のファンも、「20周年でバタバタしているのに、そんなことにうつつ抜かして」、みたいに感じている人もいたと思いますが(笑)、実際ふたを開けて曲を聴いてみたら、「なんだ悪くないじゃない」って言ってくれる人も多くて、「ね、良かったでしょ」って思っています。これも何かのタイミングだったと思うし、前から色々な流れがあった中で、一番ベストなタイミングでこのプロジェクトがスタートしたからだと思っています。

――全く想像できない組み合わせでした。今回のベスト盤にも収録されていますが、水樹奈々さんとのコラボの時もびっくりしました。

西川 あのコラボレーションも同じで、懇意にしてくださっているテレビ局のプロデューサーの方が、これが本当に実現したら業界辞めてもいいぐらい、辞めてはないですけどね結果的に(笑)――のお願いがあると。それが水樹さんと一緒に歌って欲しいということでした。最初は先方の気持ちも分からないですし、歌番組でご一緒する機会はありましたが、一緒に歌ったこともありませんでしたので、大丈夫かなという気持ちが大きかったです。でも結果的にはそのまま「紅白歌合戦」まで行くわけですから、何があるかわからないですよね。

誰も観たことがないもの、聴いたことがないものをやりたい。毒にも薬にもならないものはやりたくない

――そこで面白いと思えるか思えないか…タイミングもありますけどね。 

西川 みんな「どうします?」って聞いてはくれますが、基本は誰も決めてくれませんから。みんな平気で色々ボンボン投げてきて、良くも悪くもお前任せみたいな状況なので、自分で決めるしかないです。

――西川さんは基本的には来たお話しは一度受けて考えるタイプですか?先入観や思い込みだけで断るみたいな感じではなく。

西川 やらなくていいものも受けてしまいます(笑)。そこで一番肝になってくるのが、ご覧になってくださった方とか、聴いてくださった方が面白いと思ってくれるか、これ聴いたことないな、観たことないなということ。自分が飽き性ということもあって「他の人でも良くない?」とか、どこかで観た気がするものには、正直あまり惹かれないかもしれないです。それよりは、これ観たことないなとか、誰かが少しやっているかもしれないけど、僕がやると違うかもしれない、そこに何か自分の中で新鮮なものを与えることができるかもしれないと思うもの、そこのエッジはすごく大事にしているかもしれないです。誰がやってもいいものとか、毒にも薬にもならないものはやりたくないです。結果、毒にも薬にもならないかもしれないけど、これ観たことないとか、聴いたことないというものの優先順位が高いですね。

ひとつの企画をやり終えても満足はしない。皆さんからのリアクションをもらって、やってよかったと思える

――まさにサービス精神の塊という感じです。観ている人、聴いている人を楽しませたい一心でしかない。

西川 そうですね、一つの企画をいただいてやり遂げた段階ではまだ満足はしていないですね。皆さんからリアクションをもらったときに、初めてやってよかったと思います。自分がどう映るかよりも、その人が面白いなとか、耳に残るとか言ってもらえることで納得するので、一番はやっぱり面白いかどうか。そうじゃないと20周年記念のベスト盤をこんなジャケットにしないでしょ(笑)。

――ですよね、記念すべき20周年なのに…(笑)

オールタイムベスト『2020~』(全40曲,CD3枚組)
オールタイムベスト『2020~』(全40曲,CD3枚組)

西川 ほかのアーティストのベスト盤のジャケットはカッコいいんですよ。車に乗っていると色々なビルボードが目に入ってきますが、10周年、15周年、25周年を迎えたアーティストのジャケットは、なんか趣があるというか、歴史を感じさせてくれるというか……それを見ると考えさせられますよ(笑)。

――でもこのジャケットを見て、ここに至るまで色々な露出や発言がつながって、むちゃくちゃハッピーで面白いミュージシャンという、いいイメージだと感じる人が多いと思います。

西川 そうなのかなあ(笑)

――さっき、クスッと笑って欲しいって言っていたじゃないですか。しかも20年という大きな節目でこれをやれる西川さんは、やっぱりエンターテイナーだと思います。西川さんのコアファン以外にもそう思った人は多いと思います。

西川 だと嬉しいんですけどね。

――一方で、熊本、大分での震災を受けて、これからスタートするツアーのセットをシンプルなものにするという姿勢もしっかりみせています。

西川 今回のツアーのスタンスに関しても、そうすべきだと思ったというよりも、5年前も同じこともやっていますし、自分の中では当たり前のことだと思っていて、色々な見方と意見があると思いますが、本当に問われるのは、これからライヴを観てくださった方の顔を見てからだと思います。(2(5月12日配信)に続く)

T.M.Revolution西川貴教
T.M.Revolution西川貴教

<Profile>

1970年9月19日生まれ、滋賀県出身。'96年5月、西川貴教のソロプロジェクト「T.M.Revolution」としてシングル「独裁-monopolize-」でデビュー。以後「HIGH PRESSUER」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」「INVOKE」などヒット曲を連発。また水樹奈々や韓国の人気ガールズグループ・AOAとのコラボレーションは大きな反響を呼んだ。「NHK紅白歌合戦」には通算5回の出場を果たすなど、20年間第一線を走り続けている。またその圧倒的なライヴパフォーマンスも定評があり、今も動員も増やし続けている。自身が主催する故郷・滋賀県での大型野外ロックフェス「イナズマロックフェス」を、今年も9月17,18日に行うことを発表した。「イナズマロックフェス2016」オフィシャルサイト

T.M.RevolutionオフィシャルWebサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

田中久勝の最近の記事