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遅咲きの大器が待望のメジャーデビュー ザ・ヒッチローク、自他共に認めるライヴバンドの生き様とは?

田中久勝音楽&エンタメアナリスト

The Hitch Lowke(ザ・ヒッチローク)――自他ともに認める“ライヴバンド”が、いよいよメジャーデビューした。いよいよ、というのはメジャーデビューを目指し活動をスタートさせ12年の時が過ぎ、現メンバーになってからは7年経っているからだ。年間100本を超えるライヴを毎年続け、信じる自分達の音楽、世界をひたすらファンに、世に問うてきた。まさに遅咲きの大器。全ての作品を手がけるボーカル星☆拓也はマイナーコードの曲が大好きだという。「そのもの悲しさ、切なさ、哀愁、全てが大好きです。マイナーコードの響きはヒッチロークの根幹といっても過言ではないでしょう」――そんな彼らの音楽は、歌謡曲的なキャッチーなメロディと、激しくもユーモアと遊び心満載のロックサウンドが出会い、作り出されるオンリーワンの世界は、親しみやすい。満を持してメジャーのフィールドに飛び出してきた5人にその胸の内を聞いた。

「他と比べて勝てないところは勝てないとして、自分達にしかできないもので勝負してどうなるか楽しみ」(星☆)

――いよいよ、という感じですが、メジャデビュー決定の知らせを聞いた時に、まず感じた事をおひとりずつ聞かせて下さい。

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星☆ 長くやっていると、節目節目で心境的にも状況的にもピンチが訪れるのですが、その度に大きなイベントへの出演が決まったり、UVERworldとの対バンが実現したり、ひと筋の光が見えて、また前に進めるという状況の繰り返しで、なんやかんやで10年くらいやっていて。次の目標がメジャーデビューで、でもそれがなかなか決まらずに、これは厳しいかなと思っている時に決めていただけて。だから、具体的ではないですが、神様が音楽を止めるなよって言ってくれていたのかなという気がしています。色々な事を乗り越えてメジャーデビューにたどり着けて、正直ほっとしています。

――今は、メジャーデビューにこだわらず、自分達の音楽を自分達のやり方、ペースでやっていきたいという人も増えているようですが、ヒッチロークは最初からメジャーデビューというのはひとつの大きな目標だったと。

星☆ はい。もしかしたらインディーズでやっている方が、言い方は悪いですが収益的には良かったのかもしれませんが、そういうのを全て考え、わかった上でメジャーに行きたいと思っていました。

樋谷 僕らが若い頃、インディーズとメジャーの差というのが今よりもすごくありました。たぶんHi-STANDARDとかインディーズで売れたアーティストが出てきて、初めてインディーズの評価が上がって、時代の流れによって目指す方向性が変わってきたかなとは思います。ほっとした上にも、期待と不安が出てきてはいます。

――とにかくライヴを重ねてきて、その実力から来る自分達の音楽への揺るぎない自信があると思いますが、それでもメジャーデビューが決まったという事で、不安がのしかかってくるんですね。

星☆ 僕は他と比べて勝てない部分は勝てないと正直諦めていて。自分達にしかできないものを目指して、それが世間でどう評価されるかが勝負だと思っています。誰かに影響されることなく、とにかく精進して僕らが勝負できるところをちゃんと自分達でしっかり見極めて、信じて勝負をしてどうなるかというのが楽しみなんです。

樋谷 ライヴにも色々なレコード会社の方が観に来て下さっていて、毎回いいバンドだねって言ってもらえる事が多かったのですが、それが最終的に実っていなかったので…。リリースもちょっと空いた時期もあって、ファンの方からはリリースは?と言われて…。

――ファンは待ってますよね。デビューがなかなか決まらないというところで、焦りも出てきて、それについてはメンバー内で話し合いを重ねていたんですか?

星☆ 足りていないところは当然あると思いますが、それも含めてが自分達ですし。もちろん色々なバンドと対バンをやらせてもらって、いいところを自然に吸収していった部分はあると思います。こんな感じでいけたら最高、という気楽な感じではなく、こういうスタイルでメジャーを攻めていけたらいいな、というイメージは持ってやっていました。メジャーに行くためにああしようここうしようという話は、メンバー内でもなかったです。

瀧石 僕は純粋に嬉しかったですね。ドラムを始めて、ヒッチロークに入るその前からも、メジャーデビューというのはひとつの目標でした。目標でしたが、夢のまた夢のような感じでした。ドラムをやめようかなと思った瞬間も何度もありましたが、自分のモチベーションだけではなく、地元の友達や家族、ファンの人、色々な方の支えがあって続ける事ができています。そこに対しての感謝はすごく大きいです。

「デビューできずに辞めていった仲間のバンドの屍をたくさん見てきた。だから僕らは本当にラッキーだし、彼らが僕らのデビューを喜んでくれたのが嬉しい」(星☆)

――「紅白歌合戦」に出場できた歌手が、親孝行、おばちゃん孝行できました、という人がいますが、それと同じ感覚ですよね。

城山 僕もバンドをやる上で、メジャーデビューしないと話にならないと思ってやっていました。ヒッチロークに入って7年目にデビューが決まって、決して早くはなかったと思います。やっと来たかいう感じと、ほっとしたのとわくわくする感じと、もちろん不安もあります。色々ありますけどファンの人、事務所、家族、友達にまずありがとうございますと言いたいです。

樋谷 僕の親は僕がやっている音楽にそれほど興味を持っていなくて、でもある日母親が友達から僕の話を聞いたらしく、それが嬉しかったみたいでメジャーデビューが決まったと報告した時は、あの無関心だった親が驚いてくれました。そこで初めて、あ、こういうことかと理解しました。息子がちゃんと音楽活動をやっていて、メジャーデビューが決まった、という事を親に知ってもらえて嬉しかったです。

濱崎 デビューが決まらない期間が長すぎて、病んじゃいました(笑)。僕らみたいなバンドって売れにくいし、売り方もよくわからないし、レーベルから相手にされてないのかなと思っていました。悲壮感はあまり出したくはないですが、自分達の音楽をすごく信じていたので、その思いが強い分、不安になっていました。

――ヒッチロークはバンド仲間が多そうですが、他のバンドからの反応はいかがでしたか?

星☆ 僕らと同年代で、同じようにアンダーグラウンドで活動していたバンドで、辞めていった人達も多いので、そういう人達からは「お前ら行ってくれたんや」と言っていただけました。もちろん現役のバンドも喜んでくれましたが、バンドの屍をかなり見ているので少し複雑な気持ちにもなりました。特にここ1,2年は仲間のバンドの解散がすごく多かったんです。そういう決断をしてしまっても、今後の人生を考えたら仕方ないと思うし、そう思うと僕らは余計にラッキーだと思います。

――運とか縁もすごく大切な要素ですよね。

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樋谷 メジャーデビューがなかなか決まらない時、関係者の方の話を聞いていると例えばUVERworldみたいなバンド、ONE OK ROCKっぽいバンドというのをみなさん探していて。でも僕らに似ているバンドってあんまりいないと思うので、そんなバンドに投資するのはギャンブルなのかなとすごく肌で感じた時期があって。僕らみたいな変わり者に声をかけてくれるレコード会社はないのかなと思っている矢先だったので、レーベルの方たちに感謝しています。

星☆ 今回、徳間ジャパンさんからデビューさせていただきますが、アーティスティックな面に関しては自由にやらせてくださって、それだけで幸せです。いい意味でイメージしていたメジャーレーベルと違ったので(笑)。

「そこら辺にいる兄ちゃんが楽器を持ってステージでカッコいい事ができる、というのがカッコいい。それがコンセプト」(星☆)

――インディーズ時代から応援し続けてくれているファンへの恩返しにもなりますよね。でもメジャーに行く事で「私達の手から離れていく」という想いもありそうですよね。

星☆ ライヴのMCでたまに言っているのですが、大きくならないと現実的にバンドを一生続けていくことはできないと。だから仕方ない事だと多分わかってくれていると思う。感謝しているのも伝わっていると思います。バンドを続けるためにはそれなりにお金がかかるし、他の仕事をやりながら音楽をやる事は多分できると思いますが、100%全てを傾けた音楽を届けたい。結局メジャーデビューするという事は、もちろん音楽に100%かけている人達と戦う訳で、そこのハンデをなくすために頑張らなければいけないし、最初が肝心だと思います。

――リアルな話です。

星☆ (笑)リアルなのが僕らなので。キメキメな衣装でライヴする訳でもなく自然体で、そもそもバンドを始めた時のコンセプトが、そこら辺にいる兄ちゃんが楽器を持ってステージに上がってカッコいい事ができる、というのがカッコいいというスタンスから始まっているので。全部曝け出しているので、何でもOK、限りなくNGが少ないバンドです(笑)。

――自分達でも言っていましたが、ヒッチロークが他のバンドにはないところは、やっぱり歌謡曲っぽいメロディにラウドなロックサウンドで、耳なじみがいいというところだと思いますが、拓也さんは歌謡曲的なメロディとハードなロックというのを最初からコンセプトにしていたんですか?

星☆ 元々歌謡曲好きだった事もありますが、簡単に言うと歌謡曲はAmとかEmの切なさや哀しさを帯びたマイナーコードが多くて、僕はギターのリフが好きなんですが、ラウド系の音楽のリフは基本的にマイナーコードが多くて、歌謡曲に合うんです。だからリンキン・パークのトラックで「あずさ2号」(狩人)歌えるじゃん!いいなコレ!みたいな感じでした。

「僕らは人生観に訴えかけるバンドとは違う。楽しませる事で、明日よりも今日を変えたい」(星☆)

――ヒッチロークというとやっぱりライヴ。その圧巻のパフォーマンスは他のバンド、アーティストからも絶賛されていますが、ヒッチロークにとってライヴとは?

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星☆ 僕が知っているすごいバンド達のライヴは、ライヴにすごく意味があって。MCにも意味があって、曲にも意味があって、そのライヴを観終わった時に色々考えさせられて。いいライヴだったなあと思う反面、僕らはどちらかというと、何も考えないで来てもらって、ライヴが終わった時には嫌な事は全部忘れている、というライヴにしたい。何かわからないけどおもしろかったな、今日一日はこれで良しと思って欲しい。人生観に訴えかけているバンドはすごくかっこいいとは思うけど、僕らは違う。どちらかというと明日を変えるというよりは、今日を変えたいという想いが強いです。

――そこは大きな違いですよね。拓也さんが作る詞は、一貫して“押し付け”がないですよね。

星☆ あまり好きじゃないんですよ、あれ。

――だからヒッチロークのライヴを観た後は素直に「楽しかった!」と思える人が多いのだと思います。

星☆ やっぱり笑うってすごく大事だと思うし、ライヴハウスって大きい声が出せるし、おもしろかったら思いっ切り笑えるし。周りが笑ったら自分も笑えるという性質が日本人だと思います。自分がおもしろくても、周りが笑っていなかったら笑わないというか。だからひとりを笑わすためには、そこにいる全員を笑わさなければいけないという使命感を持ってライヴに臨んでいます。淋し(い)そうにしているコを狙って笑わそうとしても、笑ってくれないので、僕はスベるわけにはいかないんです。芸人みたいですけどね(笑)。

――その視点が面白いですね。

星☆ 自分もライヴに行って、周りにお客さんがいて、自分だけがおもしろいと思っても笑うのをちょっと我慢してしまいますから。周りが笑っていたら笑いますけどね。

――メジャー1st Album「BIG BOUNCE」と、インディーズ時代のベストアルバム「GREATEST HITS!?-Early Years-」の2枚を同時リリースでデビューです。過去と現在のものを一緒に出そうというコンセプトが決まった時、デビューアルバムではどういうものを提示したいと思い、制作に入りましたか?

メジャーデビューアルバム『BIG BOUNCE』
メジャーデビューアルバム『BIG BOUNCE』
インディーズベストアルバム『GREATEST HITS!?』
インディーズベストアルバム『GREATEST HITS!?』

星☆ スキルが上がっただけで、根本的な作り方とか気持ちは変わっていなので、とにかく今できる一番カッコいいものを作ろうと思って制作しました。

――この11曲は、アルバムのために新たに書き下ろした曲ですか?

星☆ 次に新曲として出したいものをどんどん書き溜めていました。作ってから時間が結構経っているものもありますが、でもこのメジャーデビューアルバムのために作ったすべての曲の中から選んだものなので、書き下ろしといっても過言ではないです。

瀧石 この曲達を溜めながら、でもリリースができない状態が続いたので。

星☆ 3年間作品をリリースしていませんでしたが、曲はずっと作り続けていたので。だから料理をバーっと作って並べて食べない、という状況でした。

樋谷 今までインディーズでリリースしていたのが、シングルとミニアルバムでした。今回初めてフルアルバムを出せるという事で、今までは曲数の関係で涙をのんで外していたような曲を結構入れたので、そういう意味では今までのヒッチロークとは違う一面を見せられたと思っています。

――本当に色々なタイプの曲が詰まっています。

星☆ もっとあります!

――拓也さんは曲がすぐにできる、量産型とお聞きました。

星☆ そうなんですが、“最強にいい曲”が書けない時はありますよ。“最強にいい曲”を書かないと意味がないのですが、曲を作るという事でいうと一瞬でできてしまいます。ただこの「メロディやばいなあ」というのが出てくるまで作り続けて、気づいたら一か月経っていたという事もあります。メジャーのフィールドでは生産力も問われると思います。

――メジャーデビューアルバム一曲目に、リフ好きの拓也さんが「日本のリフ」という、これぞヒッチロークの真骨頂とでもいうべき、童謡のエッセンスが入ったラウドなロック、シニカルな詞の曲で、まさに名刺代わりの一曲という感じがします。

星☆ 幕開けという感じもするし、メジャーアルバムを作るならこれが一曲目だなというイメージはどこかありました。周りにも「これ一曲目だね」と言われて。曲順に関しては、『BIG BOUNCE』の方が時間がかかりました。

樋谷 2パターンでガッツリ意見が別れました。全く違うパターンの曲順が並んで、その間を取るのが難しかったです。

――決め事は合議制なんですか?

樋谷 あんまり割れないですね。拓也の独裁ではないです。

星☆ でもサウンドに関しては、レコーディングしていて、最終的にこれでいきたいかいきたくないかという事は決めさせてもらっています。でも決め事に関しては、メンバーが出してきたいい案を採用しています。

「今までレコーディングでは丁寧に、きれいに歌おうとしていた。でも前作からは気にせず思い切り歌うようになった。目の前が開けた気がした」(星☆)

――ヒッチロークの武器のひとつが、拓也さんのハスキーでパンチのある声ですが、その声はライヴを重ねてきてのものなんですか?

星☆ 武器でもあるし爆弾でもあります。自分ではハスキーなのかどうかが、わからないんですよ。でも中学生の頃からハスキーと言われていました。ウイスキーでうがいとか、海で叫び続けてわざとつぶしたりはしてないですよ(笑)。

――その声だからこの詞がすごく伝わるというところもあると思うんですよね。

星☆ 今回のアルバムからこの感じを消さずに歌うことにしました。キレイに歌わなくても自分の声質をもっと生かそうと。今まではレコーディングの時は、ちゃんと言葉を歌おう、しっかり声をきれいに出そうと意識してやっていたところがあって、でも前作(『ロッシュの限界』)からやっぱり違うなあと思い始めて。『ロッシュ~』を録った時に、細かい事は考えずにまっすぐ、思い切り行ったんです。その歌を聴いた時に、自分が向かいたかったボーカリゼーションってこういう事だと思いました。気づくのが遅いけど、前の音源のボーカルを聴いていたら、“歌いにいってる”、“置きにいってる”なと思って。こんなこと言うと、マイナスプロモーションになりますが、でも消せない歴史なので、それも込みで聴いて欲しい。「日本のリフ」は自分がすごく出ていると思うし、これからそういう作品が増えていきそうです。

――バンドの熱い音が生み出すドライヴ感に乗って、そのハスキーな声で歌われると、嫌でも耳と心に残りますよね(笑)。

星☆ そうだと嬉しいです。今までは結果的にあまり残らないようにというか、丁寧になりすぎて、曲の良さは伝わるかもしれないけど僕じゃなくてもいいんじゃないかなって思っていました。ずっとどうにかしたいって思っていたところに『ロッシュ~』が完成して、手応えをつかむことができました。

――このアルバムを携えてのツアーが楽しみです。

星☆ 今必死でアルバムを再現しようと頑張ってます。楽器も含めて色々な事にチャレンジしているので、それをライヴでどう見せようかと。でもライヴなので、アルバムと同じようにやらなくてもいいかなと思っている部分もあって。

樋谷 レコーディングの時にこだわって音を入れているので、理想としては同期を使ってでもその音は表現したいです。ただそれを入れる事によって少しニュアンスが崩れるとか、そういう検証はちゃんとした上で完成型を作りたいです。

星☆ 打ち込みで作ったものを、僕ら天邪鬼なので何とか人力でやってみようとするので、バンドサウンドだけでは出せない音は今回はほとんど入っていないと思います。ストリングスは入っていますが、それは同期で流します。

――ステージでは星さん以外のメンバーはほとんどしゃべらないですよね。

星☆ 全然しゃべってくれていいんですけどね(笑)。振ったらしゃべってくれますけど、僕はボケる方なんですけど、突っ込みがいないんです(笑)。だから自分でボケと突っ込み全部やっています(笑)。

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Profile

(写真左から)瀧石光(Dr)、濱崎雄司(G)、星☆拓也(Vo)、樋谷剛志(G)、城山貴也(B)。星と樋谷を中心に京都で結成。2009年、濱崎、城山、瀧石が加わり現在のメンバーに。年間100本近いライヴを毎年続け、鍛え上げられたその圧巻のパフォーマンスはファンのみならず、他のバンドからも注目を集めている。12月14日メジャー1stアルバム『BIG BOUNCE』、インディーズベストアルバム『GREATEST HITS!?-Early Years-』同時発売し、メジャーデビュー。1月28日渋谷eggmanを皮切りに『BIG BOUNCE TOUR』がスタートする。

THE Hitch Lowkeオフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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