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12組の人気アーティストがスキマスイッチをプロデュース 拘りが生む色とりどりの化学反応【後編】

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
スキマスイッチ・常田真太郎(P,Cho)、大橋卓弥(Vo,G)
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スキマスイッチが2月15日にリリースしたニューアルバム『re:Action』が注目を集めている。スキマスイッチの曲を12組、奥田民生、田島貴男(ORIGINAL LOVE)、澤野弘之、BENNY SINGS、小田和正、RHYMESTER他12組の錚々たる顔ぶれのアーティス達がプロデュースしている、豪華コラボアルバムになっている。ポップス職人・スキマスイッチのメロディを、それぞれのジャンルの12組の職人たちの感性でリアレンジした曲達は、彩り豊かでオリジナルとはまた違う聴こえ方がする。そして、スキマスイッチの言葉とメロディ、歌が剥き出しになり、改めてその素晴らしさを目の当たりにする事になる。足掛け2年、丁寧に、情熱を傾けて作り上げたこのアルバムの制作秘話、一曲一曲どんなオファーの仕方をし、共に作業を重ねていったのかを、【前編】に続いて二人に聞いた。

名曲「奏(かなで)」だけがセルフプロデュースだったワケ

――7曲目の「奏(かなで)」のみ、セルフプロデュースです。

『re:Action』(2月15日発売)
『re:Action』(2月15日発売)

大橋 これは結果的にそうなったのですが、今回の選曲はベスト盤を作りたかったわけではないので「ボクノート」も「ガラナ」も入っていません。僕らの代表曲ではなくても、そのアーティストに合う曲という基準で決めました。そういう意味では「奏(かなで)」も、あまりイメージが合うアーティストがいなかったというだけなんです。でも『一週間フレンズ。』(2/18公開)という映画の主題歌のお話をいただいていましたので、せっかくだから自分たちでリアレンジしようかという事になりました。映画サイドにそれを伝えたら、「当時の初々しい歌が映画に合っているので、オリジナルの雰囲気で」という話が返ってきました。それで色々話をしていくうちに、ボーカルはそのままで、オケを録り直す事にしました。後半のアレンジは、オリジナルよりもドラマティックになっていく感じに仕上げて。それが「奏 (かなで) for 一週間フレンズ。」です。でも当時の歌のままでは今回のコンセプトに合わないので、アルバムバージョンをもう1回作って、という流れでした。

――なるほど。他のアーティストの方も「奏(かなで)」だけは恐れ多くて、手が付けられらなかったというわけではなく?

大橋 いやいや(笑)。逆にそういう風に考えると、「「奏(かなで)」は自分たちでやって、お前らどれだけあの曲が好きなんだ」って、思われていそうですよね(笑)。全くそういうつもりではないんですけどね。

――原曲よりもさらに優しい感じに仕上がってますね。

大橋 そうですね。ライヴでもずっと歌っているので、歌っているうちに変わっていったというのもあるし、当時の「奏(かなで)」は、今聴くともっと速いですしね。

常田 やっぱり楽曲の素性を知ってるからこそできる事があるのかなと。僕たちが、僕たちのリアレンジの中では、それが一番発揮できる部分だと思います。

――ファンの方は、スキマスイッチの二人が好きなアーティストが、スキマの楽曲をアレンジして、でもその中に並んでお二人がリアレンジした曲が入っているというのは、楽しみだし聴き応えがありますよね。

大橋 そうですね。そういう意味では、僕らも他のアーティストと勝負だという気持ちで取り組みました。

BENNY SINGSを追いかけ、オランダまで。「見事に”watch”(笑)。でも彼の音楽が生まれる瞬間を目の当たりにし、大きな経験に」(常田)

――なるほど。BENNY SINGS「晴時々曇」をお願いするというのは、どちらのアイディアですか?

大橋 二人ともBENNY SINGSは大好きなんです。

常田 2003、4年頃くらいから好きで聴いていて。今回もお任せ状態だったのですが、BENNYも時代によって音が変わるじゃないですか。初期のAORっぽい宅録の雰囲気から、一昨年出たアルバムはかなり80年代の雰囲気があって。

――80年代っぽいキラキラ感がありますよね。

常田 そうなんです。だからそっちの雰囲気でくるか、デビュー当時のあの感じでくるのか、全然わからなくて。でもあがってきた時は、なるほど、やっぱりこっちかと。

大橋 やっぱり80年代かと。流行っているものを素直にやるというのがいいと思いました。このアーティストだからこういう風にというよりも「今僕は80年代っぽい感じが好きなんです」と言われている感じがして、それがすごく健全だなっと思って。

――この曲はオランダで制作したんですか?

常田 そうです。今回のコンセプトのひとつに、先方にお邪魔するという事もあったので、BENNYは自分で演奏もして、自分のスタジオで全部やって、自分でミックスするところまでやっているので、それだったらオランダに行かないとコンセプトがズレるという事もあって。3泊5日でオランダのBENNYのスタジオまで行かせていただいて。

大橋 ボーカルディレクションをしてもらわなければ、というのがありますので、BENNYのスタジオに行って録りたかったんです

常田 僕もどういう感じで携われるかなと思って行ったら、見事に「watch」だったという(笑)。オランダまで行って「watch」かよって思いましたけど(笑)、そりゃそうだなと思わされたBENNYの見事な作業でした。BENNYが、あのサウンドをどうやって作っているのかを見る事ができただけでも、本当に大きな経験でした。

「小田さんの、常にファンを驚かせよう、感動させようとするその姿勢に感服」(常田)

――「晴ときどき曇」がすごく新鮮に感じました。そして小田和正さんの「君のとなり」。やはり「クリスマスの約束」(TBS系)でのつながり、関係もありますし、ここは御大に登場願おうと?

大橋 やってもらえるか全くわかりませんでしたがダメ元でお願いしました。

常田 これだけお世話になっていますが、やっぱりいうタイミングや伝え方を色々考えながらお願いしました。他の方たちと同じように、この曲をお願いしますと言ったら小田さんから「それもいいけど、もうちょっとみんながびっくりすることやりたくない?」と提案していただいて。それで「テレビでしか発表していない曲を、ちゃんと完成させて聴かせてあげると、ファンの方は喜ぶんじゃないか」と言っていただいて。小田さんはCDでもライヴでもファンをいかに驚かせて、感動させるかということをいつも考えていらっしゃる。それが姿勢としてずっとあるんだなと思いました。僕らとしても新曲を作るような感覚で、小田さんと作業ができるというのは、本当にまたとないチャンスなので。

――松たか子さんのコーラスが入っていて、ドラムも木村万作さんで「クリ約」ファミリーが参加していますが、レコーディングはいかがでしたか?

大橋 「クリ約」の現場とは全然違いますし、緊張感も違いました。番組では僕らは小委員会の一組として参加させてもらっているだけで、でもやっぱり自分たちの作品を小田さんと一緒に作るとなると、1対1というか2人対1人なんですけど、全然感覚が違いますね。

「デモの時点で完全に真心ブラザーズの曲として完成していたので、最初はこれを超える歌は無理と思った」(大橋)

――小田さんによる「君のとなり」の優しい感じの後は、シンプルでザラッとした感じがカッコいい真心ブラザーズの手による「ふれて未来を」をです。

大橋 BENNYの「晴ときどき曇」の次くらいにびっくりしました(笑)。しかも真心さんは、オケ録りの時はスタジオに来ないでくれというオーダーでした。どうやら曲を聴いた最初の印象で歌って欲しいということだったようです。

常田 ミュージシャンも詳しくは知らされていなくて、真心さんは2つのバンドでライヴを回っていて、4人と、ホーンセクションも入っている方と、今回はどっちなのかも、ギリギリまでわかりませんでした。

――色々そぎ落としてとにかくシンプルなサウンドで、大橋さんの歌がより際立つ感じです。

大橋 ちょっとサウンドも変わっていて、それが真心さんのカラーになっていて一筋縄ではいかない感じがしました。YO-KINGさんに「どうやってここにたどり着いたんですか?」と聞いたら「最初は普通にやっていたんだけど、それがあまり面白くなくて、だんだん変にしていってこうなった」と言っていました(笑)。最終的にはもうこれじゃ歌えないというくらい変なリズムにしたそうです(笑)。YO-KINGさんの仮のボーカルが入ったものを聴きましたが、全然曲を覚えたという感じがしないボーカルでした(笑)。

常田 仮だから(笑)。

大橋 でもそれでもう真心ブラザーズの曲としてでき上がっているんです。これを超えるの無理だよなって思いました。ボーカルディレクションをお願いしたら、普通に歩いていて、通りがかったところにマイクがあったからそこで歌った鼻歌のような感じがいいと言われました。

――それ、難しくないですか?

大橋 構えてちゃんと歌おうとしない方がいいと。それで1回声出しをして、マイクを選んで、2回目、こんな感じかなって歌って、そうしたらYO-KINGさんに「残念なお知らせがあります。次で最後のテイクになります」言われて、3回しか歌わせてもらえませんでした。「もうこれで大丈夫大丈夫。いいよいいよ~」って言って(笑)。

――この「ふれて未来を」は1回聴くと忘れられないですね。

大橋 自分で作った、自分達の曲なのに、原曲のメロディがよくわからなくなりました(笑)。

――でも今回のアルバムでは、もこういうことをやりたかったんですよね?

大橋 そうですそうです!

「”歌心”があるインストバンド・SPECIAL OTHERSの”ポップスをやっている感覚”にラブコール」(常田)

――RHYMESTER「ゴールデンタイムラバー」は、頭からRHYMESTERの音って感じですね。

常田 これもちなみにオケ録りの時は僕らは立ち会っていなくて、デモが上がってきた時にはすでに生音がループのように入っていて。どうやったのかをお聞きしたら、Mountain Mocha Kilimanjaroにお願いしてレコーディングして、それをちゃんと1回ミックスをして取り込んで、ループをかまして音を加工したと、ものすごく手が込んでいる構築の仕方で。いつものやり方のようですが、今回もその手法でやっていただけて本当に嬉しかったです。僕はDJ JINさんと電話とメールで細かいやりとりをさせていただき、勉強になりました。

――そしてSPECIAL OTHERS「冬の口笛」です。インストバンドのスペアザとやろうと思ったきっかけは?

常田 最初のコンセプトとしてありました。

大橋 サウンドトラックを作っている人、インストバンドもいいねと。お願いしたらきっと面白くなるねという話はしていました。

常田 被るパートがないところで、すごく面白いものが、他の人とは違うことができると思いました。

――オシャレ感がありつつ、セッション感もあって、生々しい感じもして。

常田 これ実はバラバラで録ってるんですよ。

――え!

大橋 僕らも現場に行くまでは、絶対セッションで録っていると思っていました。昔はセッションで録っていたようですが、最近は別々で録ることが多いと言っていました。

常田 スペアザさんてジャズに走らないところが僕はすごく好きで。もちろんそれもかっこいいと思いますし、インストだとジャズらしくなるというか、そういう雰囲気が作りやすくて、でもそこじゃないところで勝負したいと、本人たちも言っていて。ポップスをやっている感覚で勝負していると言っていました。歌モノの情緒がありますよね。

――潔くてかっこいいですね。

常田 インストでもメロディを大切にするアレンジで、歌うフレーズもちゃんと考えて作ると言っていました。ただ単に楽器が好きで、でもフュージョンとは違うもの、自分たちのオリジナルで勝負しているバンドなんです。

大橋 フェスで初めて彼らのステージを観た時に、歌モノじゃないのにあれだけ盛り上がるのは、やっぱりメロディがきれいだからだと思いました。歌が入る曲もありますけど、どの曲もボーカルがいないだけで、“歌心”はあるんですよね。

常田 みんな歌を歌うように弾いて、叩いている。そこがフュージョンバンドとは違うところだと思います。

大橋 譜面がなくて、みんな覚えているんです。だからインストバンドの感じではないですよね。単純にボーカルがいないだけで、いたらもう普通のバンドです。

「僕らの曲を繋げて新曲を作るという無茶なオーダーを受けてくれ、本当に美しい曲に仕上げてくれたKANさんに感謝」(大橋)

――そして締めはKANさんの「回奏パズル」です。スキマスイッチの曲を繋げて作るという面白いアイディアで、本当に美しい曲に仕上がっています。

大橋 KANさんにどの曲がいいですかって聞いたところ、「「ムーンライトで行こう」が好きだから、キープしておいて」と言われて。「キープしなくても絶対取られないです」(笑)と言ったのですが、やっぱりKANさんには面白いことをやってもらいたいという気持ちがどこかにずっとあって。KANさんのライヴは、アンコールで「じゃあダイジェストやります」と言って、本編の1曲目からメドレーでやったりするのですが、僕らそれが大好きで(笑)。KANさんにはそういうちょっと変わったことをやってもらえないかという事で、僕らの過去の作品全てを素材として、あの曲のここと、あの曲のここをつなぎ合わせて新しい曲を1曲作ってくれませんかとオーダーしました。KANさんが「じゃあやってみる」って言ってくれて。それで全作品を送ろうと思ったら「そういうのは自分で買わなくちゃいけないんだよ」って自分で僕たちのCDを全部買ってくれて。「去年スキマを一番聴いたのは絶対に俺だ」って言っていました(笑)。

常田 アレンジも本当に素晴らしいです。最初は詞と曲だけのオーダーだったのですが、アレンジも全てやっていただけてビックリしました。本当に唯一無二の才能を持っているかただなと思いました。

各会場にアルバム参加アーティストがゲストを迎えての対バンツアー開催。「経験がないスタイルなので、楽しみ」(常田)

――スキマスイッチの参加アーティストへのラブとリスペクトが伝わってきますし、その逆も然りで、そういう関係から曲が成立しているので、聴き終わった後すごく気持ちがいいです。

大橋 僕らも嬉しかったです。

――4月からはこのアルバムを引っ提げた対バンツアー「スキマスイッチTOUR 2017“re:Action”」が始まります。どの会場も楽しみです。

常田 こういうスタイルのツアーは僕らも経験がないので、どうなるか楽しみですし、是非観に来ていただきたいです。

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<Profile>

大橋卓弥(ボーカル,ギター)、常田真太郎(鍵盤,コーラス)のユニット。1999年結成。2003年7月9日シングル「view」でメジャーデビュー。’04年にリリ―スした2ndシングル「奏(かなで)」がロングセールスとなる。「奏(かなで)」は映画『一週間フレンズ。』(2月18日公開)の主題歌に起用されている。2月15日アルバム『re:Action』発売。4月30日愛知県・名古屋国際会議場を皮切りに『スキマスイッチ TOUR 2017“re:Action”』 がスタートする。

スキマスイッチ『re:Action』特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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