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「外国人保護者は教育に無関心」のウソ

田中宝紀NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者
外国人保護者の中で、わが子の教育に「無関心」と言えるケースは限られている(写真:アフロ)

外国人保護者は本当に子どもの教育に無関心なのか?

一部の学校関係者の方とお話をすると、「あの(外国にルーツを持つ子どもの)親は、教育に無関心で・・・(困る)」というようなニュアンスで相談を受けることがあります。また、講演などで外国にルーツを持つ子どもやその保護者の現状と課題について言及すると、会場から「子どもの課題は親が無関心だからではないか」という趣旨の質問を受けることがあります。

それが1度や2度ではない事を考えると、「外国人保護者=子どもの教育に無関心(なので子どもの困難が解決しない)」というイメージを持っている、あるいは持たれやすい状況なのだと言えそうです。

しかし、それは果たして事実なのでしょうか?

答えは、Noです。そういう人もいると思いますが、日本人の保護者にも当然、子どもの教育に無関心な親御さんはいますし、外国人保護者だからと言って全員が無関心である、とは言いきれません。

現場では、子どもの日本語が日本人より劣っているのではないかと不安に駆られ、5才の子どもを小学生向けのプログラムになんとか入れてほしいと頼みこまれることや、「1日でも多く勉強させたい」と、工場の非正規雇用でゆとりのない経済状況ながら子どもの月謝をねん出しようとする外国人シングルマザーと出会う事があります。

これまでに出会ってきた数百人にのぼる「外国人保護者」の内、子どもの教育にまったく関心がないと感じた方はごくわずかです。

なぜ「無関心」であるかのように見えるのか?

外国人保護者のうちの、多くの方は日本の学校教育を自ら経験したことがありません。自国で自分が子どものころに受けてきた学校教育とどこが異なり、どこが同じであるのかを判断すること自体が困難です。また、長年日本で暮らしている外国人であっても、日本語学校などで体系的な文法を学習してこなかった場合は、「日本語は話せるけれど、読み書きできない」という方も少なくありません。

一方で、学校から出されるお便りをはじめとした、子どもの育成や教育に関わる情報の多くは日本語のみで提供されています。自治体や学校によっては翻訳支援が入ることもありますが、それも限られている状況です。また、翻訳支援がある学校でも、日本語のお便りが子ども達に配布された後に翻訳にかかることがあり、「○日までに××を持ってきて」、という期限が過ぎてからはじめて翻訳文書が手渡されるような事もあります。

まったく読むことのできない、日本語のみで書かれた「おたより」が毎日のように届く中で、最初は日本語のわかる友人や知人に聞いて回っていたとしても、それをずっと続けることは難しく、気づけば何もわからないうちに提出期限を逃していたり、給食費が「滞納」になっていたり、子どもが忘れ物ばかりして困ると学校から連絡が入るような状況に陥ってしまいます。

その結果、学校では「外国人保護者は教育に無関心」であるかのように捉えられてしまったり、外国人保護者は子どもの生活を支えられないことで、親としての自信を喪失してしまうことも。また、子どもが成長するに従い思春期前後に、日本語力が十分でない保護者に対して「恥ずかしい」「頼れない」と感じ、家庭内のパワーバランスが崩れるなど、親子間や学校―家庭間の信頼関係に影響が出るケースも見られます。

無関心が無関心でないことを理解するために

外国人保護者の中には、日本での子育てにおいて喪失的経験が積み重なることで、前向きな気持ちを持てなくなってしまっている方もいます。日本という「外国」の社会の中で子どもを育てる彼らの状況を正しく理解することが、外国人保護者が教育への関心を喪失させられることなく、自信を持って子育てできる環境整備の第一歩となるのではないでしょうか。

例えば、外国語である「日本語の会話力」は、その日のコンディションに左右されることがあり、ふだん日本語がよくできるように感じられる外国人保護者でも、その日の体調などによって、日本語の会話やリスニングの力に大きな差がでることがあります。また、周囲に子育ての不安を伝えるための語学力が十分でない場合は「子どもはダイジョウブ」以上のことが話せず、関心がないように受け取られてしまうことも可能性なども、頭に入れておきたいところです。

現在は行政や外国人支援団体等の尽力によって、インターネット上に無料で公開されている支援ツールが多数存在しています。(例えば、文部科学省初等中等教育局国際教育課が運営し、多言語化された学校文書テンプレート等が無料で利用できる「かすたねっと」など)

また、学校文書を紙ベースではなく、メールやホームページなどを通して電子文書で提供すれば、外国人保護者自身が翻訳アプリなどを活用しやすくなり、完全ではないものの、「日本語のおたよりがまったくわからない」という状況は脱することができます。

子どもを健やかに育てたい、は親として共通の願い

いずれにしても、外国人保護者の中で、わが子の教育に「無関心」と言えるケースはごくごくわずかで、限られた情報の中、支援もあまりない中で、わが子の最善を願いながら子育てをされている方々が大半です。

2015年に生まれた赤ちゃんの30人に1人は外国人の親を持っている現在。今後、日本が海外に対してそのドアを開いていくのであれば、日本で子どもを育てる外国人保護者は増え続けていくことになります。「わが子に健やかに成長してほしい。十分に学び、遊び、生き生きと過ごしてほしい」そんな当たり前の、子育てに関する願いをかなえることができるかどうか、それは私たち日本社会に出された宿題なのではないでしょうか。

NPO法人青少年自立援助センター定住外国人支援事業部責任者

1979年東京都生まれ。16才で単身フィリピンのハイスクールに留学。 フィリピンの子ども支援NGOを経て、2010年より現職。「多様性が豊かさとなる未来」を目指して、海外にルーツを持つ子どもたちの専門的日本語教育を支援する『YSCグローバル・スクール』を運営する他、日本語を母語としない若者の自立就労支援に取り組む。 日本語や文化の壁、いじめ、貧困など海外ルーツの子どもや若者が直面する課題を社会化するために、積極的な情報発信を行っている。2021年:文科省中教審初等中等分科会臨時委員/外国人学校の保健衛生環境に係る有識者会議委員。

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