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公明党の二枚舌

田中良紹ジャーナリスト

「特定秘密保護法案」の今国会成立に公明党がゴーサインを出した。国民の知る権利と報道・取材の自由に「配慮する」という政府の修正案を、自分たちの主張が取り入れられたとして了承したのである。これは私が「機密情報は誰のものか」で書いたようにあらかじめ想定された「目くらまし」のシナリオである。

私は「そもそも税金で雇われた官僚が税金を使って集めた情報は納税者に帰属する」と書いた。その上で、公表すれば国民の利益、すなわち国益を損ねる恐れのある情報は公表を秘匿することが出来る。従って国益に反しない時期が来れば秘密情報は広く国民に公開される。また公表を禁じた時期でも国民の代表である与野党の議員には開示されなければならない。そうしないと国家が重要問題についての判断を誤る事になる。それが民主主義国家の原理であると書いた。

ところが日本は秘密情報を官僚が独占してきた。官僚は大臣はおろか最高権力者である総理大臣にも情報を報告する義務はなく、恣意的に選んだ一部の政治家に知らせてあらかじめ官僚が導きたい方向に政治を操ってきた。そして秘密情報を「棺桶の中にまで持っていく」のが当然とされ、納税者国民には全く知らされないままであった。つまり日本には国民が主権者である民主主義の原理が作動していなかった。

そうした歪みを是正しようとして今回の「特定秘密情報保護法案」が浮上した訳ではない。秘密情報保護が必要とされたのは、アフガンやイラク戦争で財政危機に陥っているアメリカの都合である。アメリカは軍事負担を日本に肩代わりさせなければ覇権を守ることが出来なくなった。そこで日本の自衛隊をアメリカのために使おうとしている。中国や北朝鮮の脅威を煽れば「平和ボケ」した日本は言う事を聞いて思い通りになると思っている。

そうした事情が安倍政権の日本版NSC構想の背景にある。安倍政権は東アジア情勢の緊迫化を理由に日本版NSCの必要性を説き、また日米の軍隊が共同で動くためにアメリカの秘密情報を漏えいさせない法的整備を必要とした。そしてそうした構想を実現させるために公明党が「目くらまし」の一翼を担ったのである。

アメリカの法的整備と同様のことをやるのなら、アメリカと同様に秘密情報は納税者に帰属するという民主主義の原理に立たなければおかしい。ところが日本はそうした原理に立たない。根っこが違うのに同じふりだけしている。官僚は相変わらず秘密情報を納税者に還元する考えはなく、野党の議員に開示される事もないだろう。

しかしメディアに反対されるのは面倒だ。だから取材の自由は侵さないと表明する必要はある。そもそも与党と官僚の足の裏をなめるのが仕事のメディアに取材の自由を認めてもそれほど怖い存在ではない。だからメディアに反対を言わせる必要もない。初めから分かっていた話である。そこで公明党が「国民の知る権利」や「取材に自由」を勝ち取った形にして、法案は良い形に修正されたと国民に思い込ませるのが「目くらまし」のシナリオである。

修正案は「国民の知る権利に資する報道または取材の自由に十分に配慮しなければならない」としている。国民が情報を所有する主人ではなく、国民は主人から「配慮」される対象である。それでも公明党は安倍政権を押し込んで修正させたというポーズを取るのだろう。

昔、公明党が社会党と共に野党の中心にいた頃、公明党が強硬に自民党案に反対したら、それは賛成と言う意味だと当時の政治記者たちは見ていた。強硬に反対するのは支持者に対するポーズであり、強硬であればあるほど支持者を満足させる。しかし裏では自民党と通じていて、最後は自民党に押し切られた形で法案を成立させる。今回とは異なる「目くらまし」だが、それが常態化していた。

昔、CS放送で「国会テレビ」という政治専門チャンネルを放送した事がある。NHKが放送している「国会中継」は国会審議のごく一部に過ぎず、そのため与野党の議員は国民の目を意識して中継があるときは「よそゆき」の議論を展開する。必要以上に相手を攻撃し、スキャンダル追及ばかりが放送される。それを見て国民は政治に失望する。それが繰り返されていた。

そうした弊害をなくすためあらゆる委員会を放送しようとしたのが「国会テレビ」である。「よそゆき」ではない「ありのまま」の国会の姿を国民に見せようとした。その趣旨に賛同した視聴者から多くの励ましの電話を頂いたが、その中に創価学会の信者だと言う若い男性がいた。彼は何度も電話してきて私に自分たちの政治活動の話をしてくれた。

彼は日本の政治を真面目に憂いていた。自分たちがどれほど真剣に選挙活動をしているかを話した後、寝食をなげうって当選させた国会議員が、国会でどんな活動をしているのかを見ることが出来なかったが、「国会テレビ」は見せてくれたと大変感謝された。そして公明党の議員たちが自分たちの期待通りではないと厳しい批判も口にした。

創価学会の政治活動には様々な批判があり、私も同様の意見を持っていたが、電話で聞く彼の話には好感を持った。「福祉」と「平和」を柱により良い社会を作りたいという強い情熱を感じた。その彼が「特定秘密保護法案」を成立させるため「目くらまし」の一翼を担った公明党をどう見ているのだろうか。

宗教と政治の問題で批判される事の多い公明党だが、私はそれよりも真面目な支持者と現実政治の間で二枚舌を使うやり方に罪深さを感じる。

ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■「田中塾@兎」のお知らせ 日時:4月28日(日)16時から17時半。場所:東京都大田区上池台1丁目のスナック「兎」(03-3727-2806)池上線長原駅から徒歩5分。会費:1500円。お申し込みはmaruyamase@securo-japan.com。

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「フーテン老人は定職を持たず、組織に縛られない自由人。しかし社会の裏表を取材した長い経験があります。世の中には支配する者とされる者とがおり、支配の手段は情報操作による世論誘導です。権力を取材すればするほどメディアは情報操作に操られ、メディアには日々洗脳情報が流れます。その嘘を見抜いてみんなでこの国を学び直す。そこから世直しが始まる。それがフーテン老人の願いで、これはその実録ドキュメントです」

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