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「ポケモンGO規制に賛成73%」固定電話への世論調査はどれだけ信頼できるか?

寺沢拓敬言語社会学者

最近、以下の記事が話題になっていました。

ポケモンGO規制求める声73%、固定電話への世論調査で…本当それでにいいの?

要約すると、

世論調査の結果、ポケモンGOの規制に賛成の人が73%もいたとのことだが、この結果は信頼出来ない。なぜなら、この世論調査は固定電話を持っている世帯を対象に行われているが、ポケモンGOに親和的な人は固定電話を持っていない人が多いと考えられるからだ

という話です。

槍玉にあがっているのは毎日新聞の調査です。この調査の詳細がちょっと探した限りでは見つかりませんので、そもそも上の批判があたっているかどうかは定かではないですが、一般的に新聞社等が固定電話を対象にして行う調査はそれなりに工夫されています。若年層の回答者が乏しい場合には、たとえば「お宅で i 番目に若い方に電話を代わって頂けますか」と尋ねることで、世代による偏りを補正するのが通常です。また、昼間だけ調査の電話をかけるというのも実態とは違います。

ただし、そうした工夫があってもなお、なんらかのバイアスがありそうな気がするのも確かです。スマホに馴染みのある人と固定電話に馴染みのある人(?)はけっこう対照的ですから。

そういった事情から私もミニリサーチをしてみようと思いました。

あなたは固定電話を持っていますか?

ツイッターのアンケート機能を利用します。

ツイッターユーザーの多くは、毒にも薬にもならない「ネタアンケート」としてこの機能を使っています(たとえば、「あなたの大好物は次のうちどれ?--- A. ラーメン. B. 寿司 C. チワワ」)。一方、私は、ひょっとしたら社会調査(の真似事)にも応用できるんじゃないかと日々いろいろな実験をしていて、これもその一環です。

ツイッターでは4つまでしか選択肢が入れられないので、次のように2つのツイートにまたがって質問をしています。

「ポケモンGO規制すべきだ」という意見に対して賛成の人の特徴を調べています。以下の問いにお答え頂けると幸いです。1. あなたは39歳以下ですか? 2. あなたは固定電話を持っていますか?

  • 1. 39歳以下 2.持っている
  • 1. 39歳以下 2.持っていない
  • 1. 40歳以上 2.持っている
  • 1. 40歳以上 2.持っていない

出典:https://twitter.com/tera_sawa/status/761751184256270337

「ポケモンGO規制すべきだ」という意見に対して反対の人の特徴を調べています。以下の問いにお答え頂けると幸いです。1. あなたは39歳以下ですか? 2. あなたは固定電話を持っていますか?

  • 1. 39歳以下 2.持っている
  • 1. 39歳以下 2.持っていない
  • 1. 40歳以上 2.持っている
  • 1. 40歳以上 2.持っていない

出典:https://twitter.com/tera_sawa/status/761751457515180032

結果

途中でアルファツイッタラーの方にRTしてもらったこともあり、5000人以上の方から回答を頂きました。ありがとうございます。その結果は以下のとおりです。

アンケートの結果
アンケートの結果

一見してわかるのが、規制に賛成の人が全体で約36%と、毎日新聞の調査の73%に比べ、大幅に少なくなっていることです。たしかにツイッターのような現代的メディアに馴染みがある人は、ポケモンGoを楽しんでいる人が多いでしょうから、この相違は納得が行きます。

ちなみに、世代、つまり39歳以下と40歳以上で大きな違いはまったく見られません。見やすさのことも考えて、以下のグラフでは世代を統合して集計します。

ポケモンGO規制への賛成・反対と固定電話を持っているか否かをクロス集計したうえでグラフ化したものが以下になります。

規制賛否 × 固定電話を持っているか否か
規制賛否 × 固定電話を持っているか否か

この結果を見ると、固定電話を持っている規制賛成派の割合は、持っていない規制賛成派の割合とほとんど変わらないことがわかるでしょう。つまり、固定電話を持っていようが持っていまいが、賛成・反対の割合には影響しなかったということです。(詳細は省略しますが、フィッシャーの正確確率検定という統計的な手法で関連度の一指標である対数オッズ比を算出すると、0.00063 という非常に小さい値になりました。関連度はほぼゼロを意味します。また、統計的にも有意ではありません。5000人以上もの回答者がいる社会調査で、2×2のクロス表が有意にならないのもなかなか珍しいです)

もちろん今回協力いただいた回答者は「ツイッターユーザーのうち、私のアンケートをたまたま目にして回答してくれた人々」で、かなり特殊な集団であることは確かです。したがって、「世論の縮図」というには無理がありすぎます。しかし、ここまで綺麗に「無関係」が示されたことは重要だと思います。少なくとも、「固定電話ベースの世論調査はまったく信頼できない」という人がいるとすれば ――インターネットではしばしば目にする意見ですが―― それは言い過ぎだろうと思います。

なお、今回尋ねた「世代」もせっかくですから分析に投入してみました。しかし、やはり「規制の賛否」には影響がなかったようです。以下、ロジスティック回帰分析という手法の結果を載せておきますので興味のある方はご確認ください。

ロジスティック回帰分析の結果
ロジスティック回帰分析の結果
言語社会学者

関西学院大学社会学部准教授。博士(学術)。言語(とくに英語)に関する人々の行動・態度や教育制度について、統計や史料を駆使して研究している。著書に、『小学校英語のジレンマ』(岩波新書、2020年)、『「日本人」と英語の社会学』(研究社、2015年)、『「なんで英語やるの?」の戦後史』(研究社、2014年)などがある。

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