本田圭佑選手の問題提起で考える「支援」と「自粛」の間にある選択肢
14日の夜に始まった一連の熊本地震から、丸4日がたとうとしています。
14日のそれは「前震」であり、本震が16日という形になったこともあり、実際には本震から数えるのが正しい表現かもしれませんが、いずれにしても私自身、東日本大震災の時もそうでしたが、こういう事態にいたると思考停止に陥ってしまうところがあり、今日までソーシャルメディア上も含めてたいして情報発信ができていませんでした。
いまも避難所で過ごされている被災地の方々の不安は、想像を絶するものがあると思いますし、あらためてこういう時に自分ができることの小ささを痛感させられる日々です。
ただ、ネット上のニュースを見ていて、どうしても気になることがあったので。自分ができる数少ないことの一つとして、筆をとることにしました。
SNS投稿を不謹慎と指摘され削除する芸能人達
私が気になったのがこちらのニュース
■芸能人はいま「笑顔」だけで「不謹慎」なのか SNS投稿が次々削除という異常な「震災反応」
長澤まさみさんや、西内まりやさんが、インスタグラムやツイッターの投稿が不謹慎ではないかと指摘されて、投稿を削除したり謝罪したりしているという話があるそうです。
実際には記事を読む限り削除されたのが確認されたケースはこの二人だけのようですし、もう一つの事例の菜々緒さんのケースもコメント欄で論争が続いているというわりには、コメントの数は過去の普段の写真とそれほど変わらないようなので、正直記事タイトルの「次々削除」というのはちょっと飛ばし記事気味ではあります。
ただ、少なくとも二人が投稿を削除したのは事実のようですので、何らかの批判が出て削除したというのは間違いないのでしょう。
こうした批判を受けるのは芸能人だけでなく、企業も同様の模様。
特にテレビCMのように強制的に表示される広告は視聴者からすると「こんな時に広告なんてするな」という批判の対象になりやすいようで、テレビCMをACに差し替えた企業が複数いるようです。
その関係で、こんな記事も出てくる状態になっています。
■テレビCM、また「ACだらけ」に 「5年前を思い出し、つらい」「やめてほしい」
こういうニュースを見れば見るほど、芸能人だけではなく多くの人々が自分達も「自粛」した方が良いのかな、と思うことは想像に難くありません。
本田圭佑選手は、自粛ムードを「間違っている」と問題提起
これらの記事を見て私が思い出したのが、週末に話題になっていたこちらの記事です。
本田圭佑選手が、4月16日にいち早くイタリアからメッセージを送ってくれているのですが、その中で明確に自粛ムードに対する反対の意思を表明しているのです。
該当部分を引用するとこんな感じ。
もちろん、この問題提起には賛否両論あるのではないかと思います。
こういう時だから明確に自粛すべきこと、というのは当然あるでしょう。
例えばこういうのは論外ですね。
■熊本地震の取材中にテレビ中継車が給油待ちの列に割り込んだと判明し関西テレビ謝罪
ただ、だからといって本田選手が問題提起するように、何もかもとりあえず様子見で自粛すればいい、という話ではないというのも事実だと思います。
私たちができるのは「支援」と「自粛」の二択なのか
特に個人的に気になるのは、芸能人や企業の担当者がこういう状況に直面した際に選択する思考回路が「支援」か「自粛」の二択になってしまっているのではないかという点です。
募金活動やボランティアなど、当然我々一人一人が被災地を「支援」できることを考えて実際に支援の行動に起こすというのは非常に重要なことだと思います。
問題は、その次に考えるのが「自粛」になってしまわないかという点です。
熊本地震のような災害が発生した場合、芸能人の情報発信や企業の宣伝活動など多くの人目にさらされる人達の「支援」以外の活動は、全て批判されるリスクを負うことになります。
長澤まさみさんは、普段同様の笑顔の写真をアップしたら批判されました。
西内まりやさんも、普段同様の自撮りの写真をアップしたら批判されました。
菜々緒さんも、普段同様の自分らしい写真をアップしたらコメント欄で論争が起こりました。
そうした批判を元に、全ての活動を「自粛」するのは簡単な話です。
ただ、本当にそれで良いのでしょうか?
それが本当に被災地の方々が、私たちに求めている行動なのでしょうか?
東日本大震災から私たちが学んだはずのこと
5年前の東日本大震災直後、関東で放送される全てのテレビCMがACに差し替えられるという異常事態が発生しました。
あの未曾有の大惨事において、当時はそれも当然だと思っている自分もいましたが、来る日も来る日も同じACのCM素材を見るのは正直辛かったのを良く覚えていますし、徐々に普通のテレビCMが復活したときに、視聴者が歓迎の声を上げたのも良く覚えています。
当然、最初にテレビCMを復活することにした企業は、不謹慎だと批判されるリスクを覚悟してその選択をしてくれたはずです。
でも、あの時の私たちにとっては、普通のテレビCMが普通に放送されるという、いつもと変わらない「普通」の状態こそが一番求めていたものだったわけです。
実は「支援」と「自粛」の選択肢の間には、本田圭佑選手が言うようにいつも通りのことを「普通」にやる、いやむしろ普段より積極的にやる、という選択肢があります。
その「普通」の行動は一見不謹慎に見えるリスクがあるかもしれませんが、実際には「自粛」よりもはるかに間接的に「支援」につながるケースもあるわけです。
今回の芸能人の方々の投稿は、批判も生んでしまったかもしれませんが、実は被災地の方々の中には、いつも通りの「普通」の芸能人の方々の笑顔に癒やされている人も多くいるはずですし、実際にそういったコメントも多数ついているのを拝見しました。
当然、批判があって投稿を削除したというのは、何かしら反映すべき点があったと感じたからだと思いますが。
今回の騒動によって、自分達の活動自体を全て自粛してしまうのではなく、いつも通りの自分でいることこそが、自分が笑顔でいることこそが、自分ができる支援の一つだと、批判者に対して胸を張ってお返事できる、そんな自分なりのやり方を探して頂くのが良いのではないかと。
そんなことを本田圭佑選手の問題提起は教えてくれているように思うわけです。
まぁ、実際、西内まりやさんは、謝罪騒動後も地道な情報発信を続けられているようですから、全く心配は無用なのかもしれません。
自粛したはずの九州新幹線開通記念CMが生んだ感動
東日本大震災において、私たちを感動させてくれ、勇気をくれた動画の一つは、企業がこぞって自粛したはずのテレビCMとして作成された九州新幹線の開通記念CMでした。
このテレビCMは、放映開始の2日後に東日本大震災によって放映中止を余儀なくされたものですが、ネット上で口コミで感動を呼び、全国的に話題になった結果、4月に入ってテレビでの放送が再開されたという非常に象徴的なCMです。
さらには世界的な広告賞であるカンヌ国際広告賞で金賞も受賞したことでも有名です。
今でも、この動画を見ると当時の感動がよみがえってきますし、このCMを通じて当時九州の方々がくれた勇気のお礼をしたいと改めて感じる方も少なくないはずです。
(個人的には、是非九州新幹線復旧の暁にはこのCMをアレンジしたものを再放送をして頂きたいと強く願っています。)
私たちが災害時にできることは、何も災害に関する情報を拡散したり、直接的な支援をすることだけではありません。
笑顔の力で人々をいやしたり、コミュニケーションの力で勇気を分け合うこともできるはず。
一人でも多くの人が、本田圭佑選手の問題提起を参考に、過度の「自粛」をしすぎずに、自分ができることを小さいながらも改めてちゃんと考え実行し続けることが、実は意外に大事なのかもしれません。