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だんだんジャズ~Dの巻~いかにもジャズらしいということはどういうことなのだろうか

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

毎回3曲ずつジャズの曲を聴き比べながら、なんとな~く、だんだんジャズがわかってきたような気になる(かもしれない)というシリーズ企画『だんだんジャズ』の4回目は、Dの巻です。

●Dの巻のポイント

Cの巻ではピアノ・トリオを聴き比べていただきました。Dの巻では楽器の数を増やします。

拙著『頑張らないジャズの聴き方』では、「ジャズで一般的なのは、リズムセクションと呼ばれるピアノとベースとドラムスの3人に、フロント楽器と呼ばれているホーンのトランペットやトロンボーン、サックスなどを加えるもの」と解説して、4人編成のクァルテット(四重奏)、5人編成のクインテット(五重奏)などを「ピアノ・トリオでジャズに慣れてきたら次にチャレンジしてみる対象」として勧めています。

ということで、このDの巻ではクインテットとセクステット(六重奏)のジャズらしさ満載の楽曲をピックアップしました。

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♪クリフォード・ブラウン「チェロキー」

“ブラウニー“の愛称で知られるトランペット奏者のクリフォード・ブラウンは1950年代に活躍して、ビバップからハード・バップへの橋渡しをした重要なジャズのキーパーソン。25歳の若さで交通事故死をしてしまうが、短い現役期間ながら中身の濃い活動を繰り広げていた。「チェロキー」は、イギリス出身でバンド・リーダーや音楽監督をしていたレイ・ノーブルが1938年に作曲。1945年にチャーリー・パーカーがこの曲をもとに「Koko」というヴァリエーションを作るなど、ジャズ向きな曲調だったことがうかがえる。この音源では、フロントのブラウニーとテナー・サックスのハロルド・ランドが入れ替わり立ち替わりメロディとアドリブを展開し、擬似的な対位法を表現するなど意欲的な取り組みが見られる。ちなみに“チェロキー”とは、北アメリカ大陸ミシシッピ川流域に住んでいた原住民族の呼び名で、イントロの曲調がそれを連想させるように演出されている。

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♪ジョン・コルトレーン「ブルー・トレイン」

30歳を目前にしながら、一向に日の目を見ることがなかったジョン・コルトレーンに注目が集まったのは、すでにジャズ界の中心的存在として活躍していたマイルス・デイヴィスのバンドへのオファーを受けたから。それが1955年だった。この曲が録音されたのは、彼が一度マイルスのバンドを離れて、自分名義のアルバムを作り始めた1957年。後年の“コルトレーン・ジャズ”と呼ばれる独自のサウンドにはまだまだ到達していないものの、時代の潮流だったハード・バップやクール・ジャズを取り込みながら、自分にシックリくるサウンドを見つけようとする彼の真摯な姿勢が伝わってくる。テーマ部分の3管(トランペット、トロンボーン、テナー・サックス)のアンサンブルは、ビッグバンドの重厚なサウンドをコンパクトに凝縮しようとしたハード・バップならではの“美学”を感じることのできる部分だ。

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♪ソニー・クラーク「クール・ストラッティン」

ソニー・クラークも1950年代に活躍したハード・バップを代表するピアニスト。そして、この「クール・ストラッティン」もハード・バップを代表する曲。ピアノ・トリオにトランペットとアルト・サックスを加えたクインテットによる1958年の演奏だが、コルトレーンの「ブルー・トレイン」に比べるとアフター・ビートが強調され、印象が大きく異なることが伝わるのではないだろうか。ソニー・クラークのこうしたリズム表現は時代のニーズにマッチして、1960年代に入るとファンキー・ジャズという一大ムーヴメントを生むことになる。“ジャズらしさ”という意味では、マイルス・デイヴィスよりもジョン・コルトレーンよりも“ジャズらしい”という演奏形式を打ち立てたのが、ソニー・クラークやホレス・シルヴァー、ボビー・ティモンズ、シーン・ハリス、ハンプトン・ホーズといった、ブルース・フィーリングをリズム的に表現できたピアニストたちだった。

●まとめ

ブラウニーの「チェロキー」がレコーディングされたのは1955年。今回の3曲は期せずして1950年代半ばのわずか3年ほどのあいだに作られた“ジャズ”だったのですが、ある意味でこの時期に前述のような“ジャズらしさ”が確定されていったとも言えるのです。つまり、ジャズに詳しくない人でもこの3曲を聴けば「いかにもジャズ、ですね~」と言ってくれそうだということ。言い換えれば、そこにジャズのエッセンスが詰まっているはずなのですから、ぜひ骨の髄までしゃぶり尽くして、ジャズを楽しむための“土台”にしちゃっていただきたい――ということなんです。

ここに挙げた3曲は、2012年に上梓した拙著『頑張らないジャズの聴き方』の「ステップ編」で欄外に掲載していたものを参考にしながら、新たにYouTubeを探し直して選んだものです。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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