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【ジャズ耳】第一生命ホールの山下洋輔ソロピアノ・コンサートを聴き終えて

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

自宅に帰って湯船につかりながらノホホンと感想を書きとめようかな、という感じのヌル〜いライヴ・レポート。今回は、山下洋輔のソロ・ピアノ・コンサート。

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今回の山下洋輔ソロピアノ・コンサートについて、ボクは事前に次のように予想していた。

「一夜限りのイヴェントにしたくない」という前向きな意識の表われであることはもちろん、1年というスパンで“変わることができる自分”と“変わらずにいられた自分”を確かめるために用意された“実験室のスケジュール表”のようにも感じるからだ。

出典:【ジャズ生】流れは絶えずしてもとのソロにあらず|山下洋輔ソロピアノ・コンサート@第一生命ホール

ところが当夜の山下洋輔の演奏は、そんなボクのちっぽけな想像を遥かに超えた、とても“恒例のコンサート”とは呼べないほどのイレギュラーな内容になっていた。

山下洋輔トリオ『ミナのセカンド・テーマ』
山下洋輔トリオ『ミナのセカンド・テーマ』

まず、冒頭から「ミナのセカンドテーマ」だ。当夜はこの往年のファンには涙もののナンバーをいきなり、昨年7月に亡くなった相倉久人氏に捧げるという紹介をしてから、演奏をスタートさせた。

ソロ・コンサートのオープナーでは「アイ・リメンバー・エイプリル」でじんわりと始まることが多かったことを覚えている常連のファンにはことさら、一気に1970年代の匂いがステージに充満したように思えて、久々に初っ端から血圧の上昇を心配してしまった人も多かったに違いない。

このほかにも、奥成達氏に捧げた「砂山」、平岡正明氏に捧げた「クレイ」など、これまでにソロでは披露したことのないプログラムを組んでの熱演で、会場の熱気をさらに膨張させていった。

それもこれも、同志と呼べる人たちを次々に送りださなければならなかった“変化”がもたらした“時空の割れ目”による異変だったのかもしれない。

ラストはおなじみの「ボレロ」で締められたが、アンコールは「鳥の歌」。これもまた、意味深長な選曲だ。

こうして哀悼をたっぷりと含んだ今年のソロは、乱調の完全なる復活を予感させながら幕を下ろした。

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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