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【ジャズ耳】しげのゆうこ『Screen Mode』ライヴで両極端なジャズ・アプローチの共存を発見!

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

自宅に帰って湯船につかりながらノホホンと感想を書きとめようかな、という感じのヌル〜いライヴ・レポート。今回は、しげのゆうこ『Screen Mode』発売記念の渋谷JZ Bratを観終わって。

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しげのゆうこのニュー・アルバム『スクリーン・モード』発売記念ツアーの皮切りとなる渋谷JZ Brat公演は、2部入れ替え制を満員にする客席を魅了して幕を閉じた。

今回はニューヨーク録音ながら3作ぶりに「聴きやすい選曲」を心がけたというアルバムへの期待感もあって、東京でのレコ発ライヴを待ちわびるファンも多かったようだ。その声に応えるべく用意されたツアーのスケジュールではあったのだろうが、どうやらキャパシティのバランスを超えるものとなってしまったらしい。

ファンの「観たい」という声に応えるべく、しげのゆうこが打ち出した“苦肉の策”は“2部入れ替え制”だった。

もちろん、ファンにとってアルバム収録曲のライヴ・ヴァージョンを1曲でも多く聴きたいという希望があるのは当然なのだけれど、それを叶えられたのは、運良く通し席をゲットできた人だけだったようだ。

でも、1部だけで我慢するしかなかったとしても、あながち残念なことばかりではない。

コンパクトに構成された密度の濃いステージ

本人もMCで舞台裏を明かしていたが、入れ替えのためにはライヴ時間を延ばすことができず、当夜は彼女のレギュラーのライヴよりかなりコンパクトにすることを意識していたらしい。

自虐ネタの彼女ならではのトークを楽しみにしているファンも多いのだろうが、歌というパフォーマンスに目向ければ、全体的にハイ・アベレージなステージを堪能するチャンスだったわけだ。

新作のナンバーはまだしっくりとなじむまでには至っていなかったようだが、レコーディングとはまた違った日本のツアー・メンバーの手にかかって、違う表情を見せていた。いや、アルバムと“同じ音”を期待するのならアルバムで済むのだ。ニューヨーク・ジャズとJジャズの違いをことさら強調することは当夜の本意ではないはずだが、期せずしてそうした“余禄”を楽しむことができたのも、収穫のひとつだろう。

それにしても、シャウトでもなくウィスパーでもないしげのゆうこの声は、この新作のテーマになっているポピュラーなナンバーをタフに紡いでいく。耳なじみのいい曲をライヴで披露して、観客に満足して帰ってもらうというのは、考えるまでもなく難易度は高い。外連とはいかないまでも、ちょっとモリたくなるのが人情というものではないだろうか。

それを彼女はほとんど絶って、あくまでレコーディングで照準を合わせた自分の表現に徹底しようとしていると感じた。

強いて言えば、ピアノの弾き語りで披露した「スペイン」が彼女なりの“ライブ・スペシャル”のサービスだっただろうか。

ポピュラーな曲はあくまでポピュラーの王道を外すことなく歌詞の世界を鮮やかに描き、合間に挟んだ前作・前々作からのマニアックなナンバーでは声という楽器の可能性を実証するかのような、硬軟取り混ぜたプログラムで、改めてしげのゆうこという歌い手の振れ幅の大きさを実感させてくれた夜になった。

“ジャズの醍醐味”と言われているライヴの“予習”をやっちゃおうというヴァーチャルな企画“出掛ける前からジャズ気分”。今回は、しげのゆうこの新作『Screen Mode』リリースを記念したライヴ。

出典:【ジャズ生】180度の転換をさらに大転換させた“声の魔術師”の生ステージ|しげのゆうこツアー

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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