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【ジャズ前】ジャズの伝統を革新へと進化させた奇跡の声に瞠目せよ!(ダイアン・シューア来日公演)

富澤えいち音楽ライター/ジャズ評論家

“ジャズの醍醐味”と言われているライヴの“予習”をやっちゃおうというヴァーチャルな企画“出掛ける前からジャズ気分”。今回は、女性ジャズ・ヴォーカルの頂点に君臨し続けるダイアン・シューアの来日公演。(公演概要を修正しました)

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ダイアン・シューアが今年も日本にやってくる。

人並み外れた技量、すなわち“上手すぎる”ことのネガティヴな反応なのだろうか、ジャンルを問わないその表現力に対して妬みともとれるようなマイナスの評価が与えられたりすることがある。

そのためにダイアン・シューアの評価は、2度のグラミー賞受賞をもってしても、十分に果たされているとは決して言えないのが現状だ。

ましてや、近年になっても旺盛な、そして相変わらずの広い守備範囲を見せつけるような活動に触れれば、デビュー当時に日本でも与えられていた“新御三家”という称号以上の、ジャズ・ヴォーカリストとしての正しい評価を行わなければならないということに気づくはずだ。

では、改めてダイアン・シューアのスゴさを認識する準備として、彼女の経歴をたどってみよう。

♪ 天は光の代わりに音楽を彼女に与えた

1953年、ワシントン州タコマ生まれたダイアン・シューアは、生まれてすぐのアクシデントで視力を失ってしまう。しかし天は、彼女に音感とピアノへの興味をプレゼントしてくれた。

母親が若いころからデューク・エリントンやダイナ・ワシントンのレコードを収集する熱心なファンだったこともあって、胎内にいるころからそうした音楽に接していた彼女は、ピアノをおもちゃ代わりにして遊ぶような子どもとして育っていった。

10代後半には、カントリー・ウェスタンの分野でプロ活動をスタート。シアトルで活動するこの盲目の天才シンガーの評判は瞬く間に広がり、彼女が参加していたバンドは活動を活発化させていく。

1979年にモントレー・ジャズ・フェスティヴァルに出場した際、彼女のパフォーマンスに感銘を受けたスタン・ゲッツが吹聴したことでその名は一気にアメリカのジャズ界に広まることになる。

しかし、時代はブラコン、フュージョン全盛だったこともあり、彼女を扱いかねていたようで、しばらくはいろいろな方向性を模索していたが、ジャズ・シンガーとしての素質を見抜いていたスタン・ゲッツは違っていた。彼はホワイトハウスで開催されるコンサートに出演する際に、ダイアン・シューアを起用。これによって、彼女の名は"ジャズの歌姫"として知れ渡ることになり、次世代を担うホープとしての地位を確立することになった。

アメリカ国内でジャズ復興の気運が高まる1980年代半ば、デイヴ・グルーシンとラリー・ローゼンという超大物プロデューサーたちが設立したGRPレコードから、満を持してジャズ・ヴォーカリストとしての第1弾となるアルバム『ディードゥルズ』(1984年)をリリースすると、その名声は世界へと広まることになった。ちなみに"ディードゥルズ"は、彼女の小さいころからの愛称とのこと。

1986年リリースの『タイムレス』と、1987年リリースの『ダイアン・シューア・アンド・ザ・カウント・ベイシー・オーケストラ』でグラミー賞(女性ジャズ・ヴォーカル部門)を受賞。

最新作は、2014年リリースの『アイ・リメンバー・ユー』で、彼女が師と仰ぐフランク・シナトラとスタン・ゲッツへのオマージュがテーマ。スタン・ゲッツがダイアン・シューアを"発見"した1979年から起算して35周年を記念するにふさわしい、メモリアルでゴージャスな内容になっている。

♪ ジャズに回帰するダイアン・シューアに遭遇できる絶好のチャンス

今回の来日では、その『アイ・リメンバー・ユー』を軸とするプログラムが期待される。

つまり、“ジャズ・ヴォーカリストの規範”としてのフランク・シナトラと、ジャズと呼ばれるサウンドそのものを生み出してきたと言っても過言ではないスタン・ゲッツへの想いを託したステージになる可能性が高いということだ。

なにを歌ってもジャズになってしまうという不器用さもひとつの才能ではあるが、ダイアン・シューアはその対極にいて、不器用さのかけらもないオールマイティという才能なのだ。

だからこそそのステージは常にヴァラエティに富み、懐の深さと引き出しの多さを感じさせるものとなる。

しかしジャズ・ファンはわがままだ。“ダイアン・シューアのジャズ”という、彼女の才能のなかで占める割合は多いもののひとつに過ぎない引き出しを開けてほしいと願っている人は、決して少なくないはず。

今回の来日は、『アイ・リメンバー・ユー』を軸とするプログラムであれば、待望の“ダイアン・シューアのジャズ”を満喫できるはずだ。

そして“ダイアン・シューアのジャズ”には、ジャズ・ヴォーカリストが受け継いできた伝統と、1980年代というジャズにとっての大きな荒波をかいくぐることができた革新のヒントがあるのではないかと睨んでいる。その革新は、注目される現在の若手ヴォーカリストたちの“源流”という意味ももっているはずだ。それを今回は、ぜひ確かめてみたい。

では、行ってきます!

●公演概要

6月26日(日) 1st 開場16:00/開演17:00 2nd 開場18:30/開演20:00

6月27日(月) 1st 開場17:00/開演18:30 2nd 開場20:00/開演21:00

6月28日(火) 1st 開場17:00/開演18:30 2nd 開場20:00/開演21:00

会場:コットンクラブ(東京・丸の内)

6月30日(木) 1st 開場17:30/開演18:30 2nd 開場20:20/開演21:00

会場:ブルーノート東京(東京・南青山)

出演:ダイアン・シューア(ヴォーカル、ピアノ)、ドン・ブレイデン(サックス)、ロジャー・ハインズ(ベース)、ケンドール・ケイ(ドラムス)

♪ DIANE SCHUUR : BLUE NOTE TOKYO 2016 trailer

音楽ライター/ジャズ評論家

東京生まれ。学生時代に専門誌「ジャズライフ」などでライター活動を開始、ミュージシャンのインタビューやライヴ取材に明け暮れる。専門誌以外にもファッション誌や一般情報誌のジャズ企画で構成や執筆を担当するなど、トレンドとしてのジャズの紹介や分析にも数多く関わる。2004年『ジャズを読む事典』(NHK出版生活人新書)、2012年『頑張らないジャズの聴き方』(ヤマハミュージックメディア)、を上梓。2012年からYahoo!ニュース個人のオーサーとして記事を提供中。2022年文庫版『ジャズの聴き方を見つける本』(ヤマハミュージックHD)。

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