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「脱東京」地方暮らしに向いている人、向いていない人

大宮冬洋フリーライター

5年後のオリンピックに向けて東京の改造が進んでいる。観光客や通勤者を含めた人口は今後ますます増えていくことだろう。働き盛りで子育て中の男女に東京で会うと、過密化に対して浮かぬ表情をし、3年前から地方暮らしの筆者をうらやましがる人が少なくない。自らが地方で幸せに生まれ育ち、仕事の都合だけで東京に住んでいる人の場合は特にその傾向が強い。

愛知県蒲郡市という人口8万人ほどの都市で暮らしている筆者は好きで地方暮らしを始めたのではなく、隣接する西尾市で働く女性と結婚したために仕方なく東京を離れたに過ぎない。車の運転が苦手で、とりわけ自然好きでもないので、山中や田園地帯での「田舎暮らし」は避けて、商店街は死にかけているけれどJRの快速電車が止まる駅前を選んだ。

住めば都と言う通り、引っ越した直後から「意外と住みやすい!」という実感を覚え始めた。都内に比べると家賃は劇的に安く(およそ半額)、人は少なく(カモメの数のほうが多い)、腰を据えて探せば安くておいしい店もある。(妻や友人が運転する)車で出かければ海も山も気軽に楽しめる。

ただし、誰にでもおすすめできる暮らし方ではない。都会に比べると、匿名性が圧倒的に低いからだ。先日、お気に入りの食品スーパー「サンヨネ」に買い物に行ったらテッペイくん夫妻と出くわした。少し立ち話をしてから自宅に戻ってユウコちゃんとユキちゃんを招いて4人で食事をしたら、ユウコちゃんは駅前のコーヒーショップ「喫茶スロース」でテッペイくんたちと相席したという。「スロースとサンヨネに行けば誰かしらに会えるね」と笑い合った。「内緒にしてね」と口止めされない限り、目撃情報や会話内容は伝言ゲーム式に広まる。SNSなど必要ないほど狭いコミュニティなのだ。

地方でも都会でも気が合う人や通いたい店に出会う確率は変わらないと思う。違うのはその密集度だ。例えば、筆者が以前に住んでいた東京都杉並区。蒲郡市の半分ほどの面積に54万人もの人口を抱えている。人も店も選択肢が無数に存在するのだ。あるグループで人間関係が気まずくなったら切り捨てて、別のグループに顔を出せばよい。グループ間で人やたまり場が重複する心配はほとんどない。

人や店、職場などの取り換えがきいて、何度でもやり直しができるのが都会の自由だ。全国から人が集まって流れていくからこそ、人混みに紛れることができる。それは都会の活力の源泉であると同時に、寂しさの原因でもある。

都会に比べると地方には逃げ場がない。一度でも大きなしくじりをすれば、極端に住みづらくなってしまうだろう。現代社会では誰とも親しく交際せずに暮らしていくことも可能だが、夜は真っ暗になる地方都市においては孤立は圧倒的な孤独を意味する。

筆者は寂しがりで、食生活をブログで公開するほど自分のプライバシーへの感度は低い。無視されるぐらいならいじられたいと思うタイプだ。人間関係(特に女性関係)で大きなしくじりをする年齢も過ぎている。同じ店に毎日でも通って、お馴染みの面々と顔を合わせ、定番ネタで笑い合う代わり映えのない日常に心地良さを感じる。逃げ場や選択肢がないことは安心につながるのだ。

ゆるやかな監視社会とも言えるこの地方暮らしが自分には向いていると思う。だからこそ、誰にでもおすすめできる暮らし方ではないのだ。

フリーライター

僕は1976年生まれ。40代です。燦然と輝く「中年の星」にはなれなくても、年齢を重ねてずる賢くなっただけの「中年の屑」と化すことは避けたいな。自分も周囲も一緒にキラリと光り、人に喜んでもらえる生き方を模索するべきですよね。世間という広大な夜空を彩る「中年の星屑たち」になるためのニュースコラムを発信します。著書は『人は死ぬまで結婚できる』(講談社+α新書)など。連載「晩婚さんいらっしゃい!」により東洋経済オンラインアワード2019「ロングランヒット賞」を受賞。コラムやイベント情報が読める無料メルマガ配信ご希望の方は僕のホームページをご覧ください。(「ポスト中年の主張」から2017年3月に改題)

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