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レベルが低すぎる球宴での球速競演の礼賛

豊浦彰太郎Baseball Writer

日本ハム大谷翔平、阪神藤浪晋太郎の剛速球競演に日本中が沸いたようだ。しかし、本来の投球の目的を忘れ去った球速のみを競い合う茶番を戒める声がないのはいかがなものか。

7月19日、甲子園球場で行われたオールスターゲーム第2戦で、高卒2年目の若駒2人が速球による真っ向勝負を展開。大谷は日本最速タイとなる162キロをマーク。藤浪も150キロ台を連発した。私はテレビで観戦していたが、解説者も(局側からのリクエストもあったのだろうが)ベタ褒めだった。

しかし、どんな速球もそれだけでは打たれる。2回で38球中34球が速球だった藤浪は被安打4、与四球1で4失点。1回のみの大谷も23球中変化球は1球のみで3安打を浴び1失点だった。

これは、投球は球速を競い合うものではないという証明だし、失点を重ねながらも投球パターンを変えようとしなかった2人もその愚に気付いていたはずだ。

球速は野球を楽しむ大事な要素だが目的ではない。「日本最速」は確かに凄いことだが、それを通常の打者を打ち取ることを目的とした投球術を通して成し遂げてこそ意義がある。このような目的と手段を履き違えた演出を(おそらく)彼らに強いた両軍の首脳陣やスポンサー、テレビ局サイドは厳しく非難されるべきだが、そのような論調を展開した報道は今までのところ見当たらない。

球宴第2戦の序盤に展開されたのは野球の尊厳を傷つける行為だ。剛速球連発にファンが沸いたのは事実だが、今後は試合の中ではなく、ホームラン競争同様に「スピードガンコンテスト」として試合前のアトラクションとして行われるべきだ。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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