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日本ハム大谷翔平が「6番投手」で大活躍、どうして「二刀流はここまでイデオロギーになったか」

豊浦彰太郎Baseball Writer
「二刀流」を活かすためにも大谷は早くメジャーに渡った方が良い。(写真:アフロスポーツ)

大谷翔平が「リアル二刀流」で大活躍した。5月29日の楽天戦に6番投手でスタメン出場すると、投げては7回4安打6奪三振で1失点、打っては5打数3安打と「猛打賞」で1打点と圧巻の活躍を見せた。

今季はここまで、本業?の投球はもうひとつの感もあるが、昨季は壁に当たった打撃が大ブレイク。5試合連続(打者として)を含む8本塁打を放ち、打率.359、OPS1.177は文句なしだ。昨季は散々やり玉に挙がった四球の少なさも今季は解消されている。毎年、確実に進歩している。恐るべしだ。

もともと、ぼくは二刀流には反対だった。しかし、ここまで来ると自らの想像力の無さを反省せざるを得ない。

29日の活躍にはメディアも「リアル二刀流」とベタ褒めなのだけれど、この日のパフォーマンスは、「二刀流」というイデオロギーについて考えさせられた。

なぜ、われわれファンは「二刀流」にここまで熱狂するのだろうか。それは、プロ野球という究極の舞台に於いては、投げることと打つことは両立しないという前提に立っているからだ。

確かに、パ・リーグはもともとDH制だし、セ・リーグに至っては、投手は「打たない」「打てない」「打つべきではない」が前提になっている。だからこそ、160キロを超す剛速球を投げながら、時には本塁打もカっ飛ばす大谷翔平は極めて特別な存在と見なされる。何せ「二刀流なのだから」。その結果、二刀流の継続に関する議論が起こる。「ここまで来たのなら、いけるとこまで行かせるべきだ」「両方やらせていては、故障の可能性が高まってしまう」。

しかし、投手は「打たない」「打てない」「打つべきではない」との考え方は必ずしも普遍的ではない。29日の楽天戦のように(打順6番はともかく)、メジャーには快投乱麻の投球を見せながら打撃でも中心打者顔負けのパフォーマンスを見せる投手はいくらでもいる。1999年に22勝を挙げたアストロズのマイク・ハンプトンは打っても打率3割を記録している。ジャイアンツのマディソン・バンガーナーは2014年にワールドシリーズでMVPを獲得する活躍を見せたが、レギュラーシーズンでは2本の満塁本塁打を含む4本塁打を放っている。00年代を中心に132勝を挙げたカルロス・ザンブラーノは通算24本塁打を放っている。そして、メジャーでは別に投手が展開によっては代打で登場することは珍しくもない。投手は野手に比べ打力が劣るのは事実だが、一生懸命それに取り組むのも、打ったら全力で走るのも本来当然のことなのだ。

大谷翔平が「二刀流」と言っても、やはり打撃にも取り組む投手であることは間違いない。仮に、パ・リーグが非DH制リーグで、セ・リーグのような投手やる気なしリーグではなく、メジャーのナ・リーグのように投手も打撃にアグレッシブだったとすると、ここまで二刀流がいわば特別なイデオロギーであるかのように扱われただろうか?という思いは拭えない。登板した日は、バンガーナーのようにガンガン打ちまくり、時には代打でホームランをカっ飛ばせば良いのだから。

ところが、NPBではそうはいかない。たとえセ・リーグに在籍していたとしても投手の打撃を許容する風土がないのだから、大谷のような才能に恵まれた選手が「打撃にも取り組みたいなあ」と思ったら、大上段に構えて「二刀流」を打ちだすしかない。それはやはり窮屈だと思う。

自身のためには、彼は早くメジャーに行った方が良い。そして、ナ・リーグの球団を選ぶべきだ。多くのファンは彼がメジャーに渡るときは、二刀流を諦め投手に専念する時だと思っていると思う。しかし、別に打撃を捨て去ることはない。ナ・リーグに所属し、登板する日にガンガン打ちまくれば良いのだ。それは決して特別なことではない。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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