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コリジョンの適用基準変更は、マートンが去ったNPBの実情に即したものだが、そもそもニーズがなかった?

豊浦彰太郎Baseball Writer
メジャーではコリジョンルールはポージールールとも呼ばれる(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

本塁での危険な接触の回避を目的に今季から導入されたコリジョンルールの基準が、早ければ球宴明けから変更されると言う。現在の方向性で変更されるなら、その適用有無は捕手が走路を塞いだかどうかではなく、衝突があったかどうかになるらしい。

開幕後わずか3ケ月で見直し議論が噴出していることで、NPBの仕切りの悪さが叩かれているが、ぼくは結構現実的な修正ではないかと思う。

メジャーでは一足早く採用されていたこのルールは、2011年に前年の新人王捕手バスター・ポージー(ジャイアンツ)が、本塁上の衝突で選手生命にも関わりかねない重傷を負ったことがきっかけになっている。「選手を守れ」ということだ。これには、メジャーでは選手組合がとてつもない力を持っていることや、選手の年俸が高くなり球団側でも貴重な「財産」を守りたいというニーズが高まったことが背景にある。

そして、何よりもメジャーでは、走者は本塁への生還時に限らず相当アグレッシブな走塁をするものだ。その前提で、選手(特にタックルを受ける捕手)を保護するには、捕手の位置を制限するしかない。もともとルール上では、走路を塞ぐことは認められていないのだから。

その点、日本では選手会は「御用組合」だし、選手の年俸もメジャーに比べると格段に低いし、何よりも走塁がおとなしい。マット・マートンが去った今季、そもそもこのルールの必要性はほとんどなかったとも言える。したがって、「マートンみたいなタックルぶちかますヤツが出た時だけ咎めたらよろし」というのはある意味正しい。

今回の適用基準変更は、ストライクゾーンをもっと高くとか外へとかいう議論とは全く違う。適用判断のキーが捕手から走者に移ったのだから(現行ルールでも危険タックルは禁止されているが)。

決して揶揄するのではなく、この改定案はコリジョンルールの解釈におけるコペルニクス的発想の転換ではないだろうか。

ただし、これだけは言っておきたい。ぼくにとって一連のコリジョン騒動で最も不快だったのは、審判の技量不足でも基準の分かり難さでもない。ビデオでのレビューを経て最終判定が下されても、それに対し感情的に異を唱える監督が居たことだ。ビデオ判定の結果に対しては両軍とも無条件で従わねばならない。ところが現実にはそうではなかったのは、ビデオを見て最終判断を下すのが、中立な第三者ではなく、直前の判定を下した当事者である審判クルーであるからだろう。コリジョン騒動は、そのルール自体に問題があるように論じられてきたが、実はビデオ判定の問題点が顕在化したものだと言えるのではないか。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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