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「喫煙でぼやの強豪校が出場辞退」この判断への問題点を整理する

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:アフロ)

野球部員の喫煙がぼやに至った強豪校が地区予選を辞退した件に関するコラムに、たくさんコメントをいただいた。連帯責任を肯定する意見が多かったのには驚いた。また、こちらの文章力が至らぬゆえだとは思うが、意図が正しく伝わっていないと思われるものも少なくなかった。したがって、以下の通り論点をもう一度整理しておきたい。

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1)問題を起こした部員とそうでない部員を同様に処するのはおかしい'''

「部内に喫煙者がいることを知っている者もいたはずであり、彼らも同罪」という意見も少なからず寄せられたことには驚かされた。これらは到底同レベルで語られるべきものではない。

また、一般論として仲間内の非行を学校側に報告した場合、個人的な報復の懸念もあると思われるし、学校側が通報者の利益や安全を担保し適切に対応してくれる保証はないかもしれない(今回の高校がそうだと決めつけているわけではない)。

問題に直接関与しなかった者まで同じ不利益を蒙るとは、犯罪者が出た家族全員を罪人とみなす行為であり、民主主義国家でこんなことが許されるのかと言いたい。

今回の問題は喫煙だったが、部内での暴力行為の場合などは、被害者すら加害者と同じ「出場停止」という処分を加えられることが多い。この矛盾を関係者はどう考えているのだろうか。

高野連は出場停止処分を幾度となく下してきた。今回の問題校のケースでは辞退だが、これも連盟の方針を汲んだものだ。

1人でも問題を起こす者がいれば全体を処するという策は、問題の抑止にはある程度の効果はあるかもしれない。しかし、非民主的な連帯責任による抑止が、本来教育の一環であるはずの高校野球に相応しいとは思えない。未成年の非行に対し必要な更生への手助けという視点も欠落しているように思える。

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2)出場停止にするまたは辞退させることの、教育の観点からの効果が検証されていない'''

また、高校野球がこれだけ大きな国民的関心事である以上、高野連内でも処分を下した(辞退を受け入れた)個別の事例を追跡調査・研究し、部の運営や部員への対処はかくあるべきという指針を打ち出すできだと思うが、そのような事例を寡聞にして知らない。問題個所の排除のみでは教育の一環として不十分と言わざるをえないだろう。処分を下す連盟も、辞退する学校も体面ばかりを気にしているのではないか。

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3) 個別の事象に対し、過不足ない処分となっているか疑問'''

今回の事例に関して述べると、ぼやに至ったとはいえ生徒の犯した問題自体は「たかが」(あえてこの表現を用いるが)喫煙である。喫煙は違法行為だが、強盗でも傷害でもない。喫煙が行われたのは部室内内のようだが、問題の部員はその前にその高校の生徒である。学校として、喫煙という違法行為に対する過不足ない処罰と更生を促すプログラムが与えられれば、それで十分ではないかと思う。

違法行為はもちろん良くない。しかし、違反を犯した部員にも人権がある。人を罰するには慎重でなければならない。一般的には、喫煙行為への処罰は数日間の停学というケースが多いだろう。今回の問題をしっかり検証し、関与した全員に適切な処分を決定するにはそれなりの日数も要すると思う。それが決定し、夏休み明けに授業が再開される時期になったら停学処分の開始という判断すら十分あり得たと思う。それなのに真っ先に部員全員の出場機会を奪う判断を下すとは、事故を起こした列車を丸ごと穴を掘って埋めた外国の例を連想させる。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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