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ソニーの大いなる矛盾~解雇した経営者は天下り、解雇された社員は失業

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

サンケイニュースによると、美濃加茂市にあるソニーの子会社工場が今月末で閉鎖することに伴い、1000人以上の従業員や本従業員が失業状態になる恐れがあると岐阜県が発表した。工場で働く従業員は200~300名、製造請負企業7社の従業員350名、休職中の元従業員500名。合計1050~1150名が職を失う恐れがある。

昨日はソニーのニュースリリースとして、中鉢良治副会長が取締役を継続しながら4/1から産総研理事長に就任の予定と伝えられた。ソニー子会社工場の閉鎖を決めた本人は天下りというか、産業技術総合研究所の理事長に就任すると同時に取締役も続投する。

ソニーはこのような人事を決めたことに従業員はどう思うか考えたことがあるだろうか。ソニーをダメにしたストリンガー会長が8億円という報酬をもらい、中鉢副会長でさえ1~2 億円はもらっていただろう。これが会社としての体裁を保っているといえるだろうか。経営陣に甘く、従業員に厳しい会社ではいったい誰がまともに働けるだろうか。

米国を取材していると、今や日本よりも温情な企業が多い。最もハイテクで活気のある地域としてシリコンバレーがある。ここでは「出世のリスク」がある。出世するほど首になるリスクが増えてくる、という意味だ。日本の企業やソニーの逆を行く。

出世するほど首になるリスクが増えることは米国では事実だ。経営に係わるほど報酬あるいは給料は増えるが、会社の業績が落ちてくると会社は給料の高い人間を先に切っていくのである。人件費削減効果が高いからだ。給料の低いものをクビにしてもさほど影響は出ないが、給料の高い方が効果は高い。だから出世のリスクを取りたくない人間は出世しないという選択ができる。

効果が高いことを会社に進言するのは株主であり、取締役である。企業の業績が回復すれば配当が戻り株主に還元される。米国では企業経営の基本は株主のために経営者が働くことだ。その株主は一般の消費者であることが圧倒的に多い。日本では一部の投資家、銀行、企業の持ち合いなど、一般投資家のための企業になっていない。株主から見て企業の支出を減らす効果的な方法こそ、高い給料の人間をクビにすることである。

ソニーのニュースを聞くと、給料の低いもののクビを切り、高いものを生かしておく。これでは支出が全く減らない。

かつての日本企業はクビを切るとその企業のイメージが悪くなり、働き手が減ることを嫌って簡単にクビを切らなかった。しかし、今は従業員のクビを切り、給料の多い経営陣を温存しておく。これでは支出は減らない。ソニーは業績が悪くなってもストリンガーCEOの報酬は減らさなかった。経営者が経営責任を取っていないのである。常識的には経営者がある年度に赤字を出せばクビか、報酬減額であろう。

ところが、ソニーに設置されている報酬委員会が実質的に機能していなかったために、赤字を出しても8億円をもらえるという大甘えの社長(CEO)が生きていけた。しかし、まともに働く従業員はやる気を失い、企業の活気は失せて行く。これでは企業はますますダメになる。ソニーは社外取締役制度を導入したが、残念ながらこれも機能していなかった。経営者が自分に甘く、社員に厳しい会社にしてしまったのである。これで社員のモチベーションは下がり、活気はなくなり、ソニーらしさは消えてしまった。

ではソニーはどうすべきか。まず、経営者が清廉潔白であり、社員のやる気を取り戻すような「武士は食わねど高楊枝」の精神を持つことであり、それがあって初めて経営者について行く社員が現れる。例えば部下に飯をおごる、という場合でも会社の金でおごるような上司や経営者では、部下は心の底からついては行かない。自腹でおごるのであればついて行く気にもなる。要は上に立つ者の本気度を社員・部下は見ているのである。

今回も副会長がぬくぬくと職を得ているような人事を見ていると、ソニー社員のやる気を依然、奪っていると言わざるを得ない。ある元ソニーの社員によると、この副会長は技術者のやる気を削いだ人だという。こんな人事を続けているとソニーはますます活気が失われていく。

今からでも遅くない。ぜひ清廉潔白な、世のため社員のために仕事をする姿を社員に見せつけてほしい。業績を回復させるまでは、報酬や給料を大きく下げるべきだという気持ちの経営者になってほしい。その代わり、業績が回復し大きな利益を出すことができれば、たっぷり報酬を受け取ればよいのである。これなしでソニーの回復はあり得ない。

(2013/03/28)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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