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透明になってきた国支援の研究

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

東京都の築地市場移転でのさまざまな不透明な問題点や、2020年東京オリンピックでの不透明な点が明らかになる一方、科学技術への投資は極めて透明になってきた。文部科学省の傘下に科学技術振興機構(JST)がある。このミッションは、科学技術イノベーションの創出を支援することであり、JSTがさまざまなテーマに資金を提供する仕組みがある。そ一つ、CRESTというチーム型の研究プロジェクトを評価する領域アドバイザを拝命して3年になるが、このテーマの決め方や評価の仕方は実に透明である。

私は、CRESTのテーマの一つ「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」の領域アドバイザを拝命させていただいている。このテーマに沿った研究プロジェクトは公募から始まって、領域アドバイザ全員で手分けしながら公募された研究テーマを10テーマ程度に絞っていく。この最初の段階で、応募された研究と係わりのある領域アドバイザは外されるため、利害関係の全くないアドバイザが大学や研究機関からの研究テーマを評価・選択する。その後、選ばれた10程度のテーマに関してプレゼンテーションを聴く。ここでも利害関係のあるものは、席を外すほか、コメントは述べられず、オブザーバとして見ているだけになる。

この段階では、「本当にこれでトランジスタが動くのか」、「回路は動くのか」、「素材は加工できるのか」、など様々な疑問をぶつけ、そのメカニズムが納得いくものか、その証明はされているか、など喧々諤々(けんけんがくがく)いろいろ突っ込んでいく。今、人工知能(AI)で話題となっているニューラルネットワークに関する研究もあり、それを実用化するまでのストーリーも時には求める。世の中のメガトレンドとも比べていく。

いわゆる「ナノエレ」のCRESTプロジェクトでは、素材やプロセスと、デバイス、回路とシステムといったそれぞれのレイヤーの研究者を混ぜて開発していくことが求められており、一人だけで研究しているプロジェクトは対象外である。材料からシステムまでを融合して実用化までのメドを念頭に入れている点が、文科省といえども社会の役に立つことを意識した研究となっている。世の中の大きなメガトレンドや社会からの要請を無視した独りよがりの研究では決してない。

そして、選ばれた研究プロジェクトに関しては、評価も行う。初期に補助金を与えるだけではない。プロジェクトをどのように進め、どこまで進んでいるかをチェックし、不足しているテーマや問題はないか、共同チームとのディスカッションは進んでいるか、など成功するためのさまざまな進行評価を行う。これは、税金を投下したからには、何としても成功させたい、という意思がわれわれ領域アドバイザ側にもあるからだ。

かつて、文科省が大学発ベンチャーを育てるために数億円の補助金を出したものの、企業活動せず(売上ゼロのまま)、外車を乗り回しているだけの若い企業経営者を、あるメディアが紹介していたが、この時の反省があったのかもしれない。少なくともCRESTでは、資金を透明にするだけではなく、プロジェクトを成功させるための「知恵」の支援も行っているのである。このやり方は、研究に限らず、ほかのプロジェクトでも使えるはずだ。かつて、英国政府を取材した時、政府の補助金プロジェクト(ベンチャーを支援)には、必ず監査というか評価する委員(企業の取締役/監査役のような存在)が付き、適切なアドバイスをそのベンチャーに行っている(参考資料1)。

日本ではベンチャー企業が育ちにくい。資金提供のソースが少なく、エンジェルはほとんどいない。利ザヤを稼ぐファンドは大勢いても、産業創成の役には立たない。だからこそ、大きく成長する可能性を秘めたプロジェクトにCRESTのような仕組みは産業力アップに貢献するだろうと期待している。米国シリコンバレーや半導体産業の活発さと比べ、日本での停滞からの脱却には、ベンチャーを育てていくことはとても重要である。

かつての英国は、プレッシー、マルコーニ、インモスといった大手半導体企業がいたが、やがて消滅し、代わってARMやImagination Technologies、CSR、Wolfson、Iceraなどのベンチャーが育っていた。有望な企業は買収されてしまっているが、それでも活躍の場は変わらない。例えばCSRはQualcommに買収されたが、ケンブリッジの開発拠点は変わらない。ARMもソフトバンクに買収されたがケンブリッジの拠点は残すと、ソフトバンクは表明している。日本の大手半導体を官製ファンドが支援するのではなく、まったく新しいベンチャーが登場できるような仕組みを作る方が復活の早道かもしれない。

CRESTの「素材・デバイス・システム融合による革新的ナノエレクトロニクスの創成」プロジェクトから次世代半導体・ナノテクノロジーを担うベンチャーが誕生してくれることを願ってやまない。

参考資料

1. 津田建二「欧州ファブレス半導体産業の真実」、日刊工業新聞社刊

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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