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世界王者、ケーシー・ストーナーが鈴鹿8耐に参戦決定!30年ぶりの伝説が生まれるか?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ケーシー・ストーナー(2011年) 【写真:MOBILITYLAND】

今年も7月末に鈴鹿サーキット(三重県)で開催される伝統の耐久レース「“コカ・コーラゼロ”鈴鹿8時間耐久ロードレース」に、なんと2度のMotoGPワールドチャンピオンライダー、ケーシー・ストーナー(オーストラリア)の参戦が決定した。

MotoGPワールドチャンピオンの参戦は初!

MuSaShi RT HARC-PRO 【写真:MOBILITYLAND】 
MuSaShi RT HARC-PRO 【写真:MOBILITYLAND】 

まことしやかに噂されていたケーシー・ストーナーの鈴鹿8耐参戦が発表されたのは3月27日(金)に東京都内で行われた記者会見の壇上。突然の発表はまさに衝撃的だった。2年連続で鈴鹿8耐の優勝を飾っている「MuSaShi RT HARC-PRO」からワークス仕様のホンダCBR1000RRを駆っての参戦。しかも、チームメイトは高橋巧(全日本ロードレース選手権JSB1000参戦)、マイケル・ファン・デル・マーク(スーパーバイク世界選手権参戦)という2連覇の立役者となった若手ライダー2人。全く文句のつけようがないスーパートリオで鈴鹿8耐に挑むことになった。

ドゥカティ時代の走り(2007年) 【写真:MOBILITYLAND】
ドゥカティ時代の走り(2007年) 【写真:MOBILITYLAND】

ストーナーは1985年、オーストラリア生まれの29歳。2001年に125ccクラスでロードレース世界選手権にデビュー。2005年に250ccクラスでランキング2位に輝くと、2006年からは最高峰のMotoGPクラスにデビュー。ドゥカティのワークスチームに加入した2007年にMotoGP世界チャンピオンを獲得した。2011年にはホンダワークスのレプソル・ホンダチームに移籍し、圧倒的な速さを披露。見事にチャンピオンに輝き、ホンダに2006年以来の栄冠をもたらし、現在のホンダの強さの原動力を作ったライダーだ。

そんなストーナーは27歳の若さで2012年限りでグランプリロードレースから引退。翌年以降は4輪レースのレーシングドライバーに転向。その後、ホンダの開発ライダーとしてMotoGPのテスト走行を担当することになり、先日、マレーシアのセパンサーキットで鈴鹿8耐仕様のCBR1000RRをライディングしたことから、鈴鹿8耐の参戦が噂されていた。

昨年もワールドチャンピオン経験者としてはケビン・シュワンツが参戦していたし、後にMotoGPクラスでもチャンピオンになるヴァレンティーノ・ロッシも参戦したことがあるが、これは2ストロークの500cc時代のチャンピオンライダー。ロードレース世界選手権の最高峰クラスが4ストロークエンジンのMotoGP時代に移行してからの新世代ワールドチャンピオンライダーが参戦するのは初めてということになる。

ケニー・ロバーツの復帰参戦から30年

ケーシー・ストーナーの鈴鹿8耐参戦は国内のバイクレースファンのみならず、世界中のメディアが彼の現役復帰、そして8耐参戦を衝撃のニュースとして報じている。イギリスの権威あるモータースポーツ誌「AUTOSPORT」のインターネット版は基本的には4輪レース中心のメディアながら、一部MotoGPなどのメジャーな2輪レースを扱うが、ストーナーの参戦を「Casey Stoner to make racing comeback to Suzuka 8 Hours」(ケーシー・ストーナー、鈴鹿8耐でレースライダーとして復帰)と題し、ビッグニュースとして報じているほどだ。

レプソル・ホンダ時代のストーナー
レプソル・ホンダ時代のストーナー

ストーナーは2度のチャンピオンライダーではあるが、既に引退したライダー。そんな彼が今もこうして注目されるのはいくつかの理由がある。

ひとつは2007年に22歳の若さでMotoGPのワールドチャンピオンに輝き、ヴァレンティーノ・ロッシに本気で対抗できる新世代として注目され、カリスマ的な人気を得ることになったこと。そして、チャンピオンから遠ざかっていたホンダを再び勢い付け、王座を獲ったこと。さらに、27歳の若さで惜しまれながらバイクレーサーを引退したことだ。

それに加えて、ストーナーの現役引退から数年経っての耐久レース参戦は長年のロードレースファンにとって鈴鹿8耐の歴史を語る上で忘れることができない事件がある。

今からちょうど30年前のケニー・ロバーツの鈴鹿8耐への参戦である。当時(1985年)は日本でグランプリレース(ロードレース世界選手権)が開催されておらず、日本のファンにとって「キング・ケニー」と呼ばれた3度のワールドチャンピオンライダーは雑誌の中で見る、まさにカリスマだった。

ケニー・ロバーツとヤマハワークスマシン 【写真:MOBILITYLAND】
ケニー・ロバーツとヤマハワークスマシン 【写真:MOBILITYLAND】

2年前に引退したはずのケニー・ローバーツがヤマハワークスから鈴鹿8耐に復帰参戦。バイクブームに沸いた当時の日本の若者の前でケニー・ロバーツは走り、予選ではコースレコードを打ち破る圧倒的なタイムでポールポジションを獲得し、当時の日本のカリスマ的ライダーであった平忠彦と共に終盤までトップを快走したのが1985年、今から30年前の鈴鹿8耐である。

鈴鹿8耐 【写真:MOBILITYLAND】
鈴鹿8耐 【写真:MOBILITYLAND】

ストーナーはまだ29歳と若いが、当時のケニー・ロバーツも33歳。最高峰クラスでチャンピオンを獲得したライダーが再び鈴鹿8耐を走る。共にスプリントレースの世界でチャンピオンを獲得したライダーが、プロダクションバイク(市販車ベースのバイク)で真夏の過酷な8時間耐久レースに挑む。2人の歩む歴史はどこか似ている。歴史は長くなればなるほど繰り返すものだと言われるが、ストーナーはホンダのMotoGP開発ライダーとして現時点での最速マシンを走らせているライダーだけに、30年前にロバーツが見せたような衝撃的な速さをまた鈴鹿で見れるかもしれない。今年の鈴鹿8耐は全世界が注目するレースになるだろう。

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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