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レノファ山口:長野に惜敗。内容に勝るも2点目遠く。残り4戦、昇格への正念場

上田真之介ライター/エディター
悔しさを胸にピッチをあとにする山口の選手たち

明治安田生命J3リーグは10月25日、第35節の6試合が行われ、首位・レノファ山口FCは3位のAC長野パルセイロに1-2で惜敗。2位のFC町田ゼルビアがFC琉球を2-0で下したため、山口と町田の勝ち点差は3に縮まった。また長野も負ければ優勝の可能性が潰えていたが、敵地で勝利し自動昇格の望みを繋いだ。

J3第35節:山口1-2長野▽得点者=前半28分有永一生(長野)、同40分福満隆貴(山口)、後半29分菅野哲也(長野)▽5644人=維新百年記念公園陸上競技場

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10月下旬の山口盆地。昼間は小春日和の陽気でも、日が落ちると一枚、二枚と羽織りたくなるほど気温が下がってしまう。維新百年記念公園はキックオフの午後7時には約15度を記録していた。それでもスタンドにはこの日開催されたJ2リーグのいくつかの試合を上回る5644人のサポーターが訪れ、下がる気温とは対照的に応援をヒートアップさせていた。

それだけに1-2のスコアでのフィニッシュに上野展裕監督には沈痛な表情が浮かんだ。「日曜日の夜の遅い時間に、5千人を超える皆さんに集まっていただきありがとうございました。試合に負けてしまって山口の皆さんに申し訳なく思います」――。1点を追いかける終盤、長身選手を前線に送り込み、上野監督もテクニカルエリアの最前線で何度も手を叩いて鼓舞した。声援も最高潮に達し、結果的にはあと一歩が出なかったが、指揮官と選手たちの気持ちはサポーターに、サポーターの思いはピッチの戦士たちに、十分に伝わっただろう。

思わぬ失点

立ち上がりからボールを長く保持していたのは山口。小塚和季を起点に、福満隆貴が繋いで島屋八徳や岸田和人がゴールに近づくシーンが何度も見られた。しかしゴールネットを最初に揺らしたのは長野だった。

前半28分、GK一森純のロングボールを仙石廉がヘディングでカットすると、それがゴール前への好フィードとなって詰めた有永一生がシュート。これがネットを揺らして長野が先制した。「前からプレッシャーに行こうと。うまくプレッシャーを掛けて引っかけることができた」と有永。長野の攻撃陣は一森のキック前にコースを消すようにアプローチし、それがビルドアップにも長けていたはずの一森のパスや受け手のポジショニングにも影響を与えることになった。

SB小池龍太も積極的な攻撃参加。岸田和人がスペースを作りシュートへ
SB小池龍太も積極的な攻撃参加。岸田和人がスペースを作りシュートへ

ただ、アクシデントのような失点はJ3に限らず、J2でもJ1でも、世界のどのようなサッカーリーグでもあり得ること。時間がまだ早かったことも幸いして山口はすぐにリズムを取り戻す。前半35分には左からのクロスに対して岸田が体を張ってスペースを作ると小池龍太がクロスバーを叩くシュート。ゴールの匂いが漂い始めると、同40分、福満がミドルシュートを鮮やかに右隅に決めゲームを振り出しに戻した。

長野は交代カードが奏功

後半、立ち上がりは長野が山口陣内に入り込み、10分を過ぎると今度は山口にリズム。その後は前半以上にボールが縦に動く攻守めまぐるしい展開になった。交代カードもそうした流れに対応し、山口は鳥養祐矢から原口拓人にスイッチしてスピードアップ。後半24分には少ないタッチ数でボールを繋ぐと、原口が右ポストを叩くシュートを振り抜きゴールへと近づいていく。対する長野も手をこまねくわけではなく、両サイドの選手を下げて菅野哲也と西口諒を同時投入。「途中からカウンターを食らっていたので、両ワイドの選手を代えてしっかり止めながら」という衛藤元監督の意図は実際にはまり、山口の攻撃は少しずつ勢いを失っていく。

勝ち越し点を挙げ抱き合う長野の選手たち
勝ち越し点を挙げ抱き合う長野の選手たち

どちらが得点しても不思議ではないモメンタムの中、ゴールの女神が微笑んだのは長野だった。同29分、山口目線でみれば少し集中の切れかけた時間帯。交代出場の菅野がペナルティラインそばからミドルシュートを放ってゴールネットを揺らし、再び1点をリードした。「(昇格圏に行くには)勝ちしかないのでしっかり結果を出していきたい」と強い気持ちを出した菅野のシュートに対して、山口はボールウォッチャーに。「運動量も多くて前からプレスも掛けていたが、後半の1失点だけは戴けない。課題は残っている」(上野監督)。悔やまれるこの失点が決勝点となり、ゲームは1-2でフィニッシュタイムを迎えた。

この結果、長野も優勝の可能性を残した。有永一生は「どんな形でも勝つことが先に繋がる。勝てるようにやっていきたい」と話し、ホーム戦が続く次戦以降に早くも切り替えていた。

「自分たちのサッカー」の継続

今のJ3の上位争いは次のとおり。山口、町田、長野ともに来季のJ2クラブライセンスが交付されており成績要件を満たせば昇格が叶う。最終成績の1位が自動昇格、2位がJ2の21位と入れ替え戦。

●上位順位 第35節終了時点

順位/チーム/勝点/得失点差

1位 山 口 73 +58

2位 町 田 70 +31

3位 長 野 63 +15

●残りの対戦カード

山口=藤枝(H)/盛岡(A)/J22(H)/鳥取(A)

町田=福島(H)/鳥取(A)/秋田(H)/長野(A)

長野=J22(H)/YS(H)/相模原(A)/町田(H)

残り試合数が4試合と少なく、得失点差の開きもあることから、山口の有利な状況が一つの負けで大きく変わったというわけではない。ポストやゴールに嫌われたとはいえ山口の攻撃力は力強さを維持している。「チームは全体としてもチャンスは作れていた。(前線は)決めるところをしっかり決めてもらえるように、後ろの選手は守るところをしっかり守れていれば、いい結果は付いてくると思う」と庄司悦大は前を向く。

試合後、選手たちは肩を落としてピッチを去った。悔しさ胸に次戦へ
試合後、選手たちは肩を落としてピッチを去った。悔しさ胸に次戦へ

気がかりなポイントを一つだけ挙げるとすれば、前半で特に目立った自陣からのビルドアップでのミス。小池龍太はその指摘に「その時間帯でどういう動きをするか。前はもっと背後に欲しかったと思うし、後ろはもう少し動かそうと思っていた」と振り返った。時間帯ごとにどうゲームを作っていくか、攻撃と守備の間に微妙なズレが生じていた。

確かに得点を取るときの山口は、大胆さやダイナミックさがプレーのあちらこちらから発出し、最終ラインが2バックのようになってでも迷いなく前へ前へと圧力が掛かっていく。ただその超攻撃的なスイッチをどのタイミングで入れるべきか、長野戦では11人の意志が少しだけ合わなかったかもしれない。もっともそれは意識付けや誰かの声掛けで如何様にもできる。今や大きな何かを変える必要はないが、大きな何かを成し遂げるための小さなズレを、選手自らの力で擦り合わせていきたい。

試合後、報道陣の取材を受けるエリア(ミックスゾーン)で取材を受けた島屋八徳と小池龍太は去り際、同じ言葉を繰り返した。「もう一度、自分たちのサッカーをやればいい」。強き者は、己のやり方で、己の刀剣を振って道を切り開く。山口もその道を歩むのみだ。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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