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キューバン旋風、今年も巻き起こる。これまでのプイーグやアブレイユと違い、セスペデスはオフも主役に

宇根夏樹ベースボール・ライター
ヨエニス・セスペデス(右はカーティス・グランダーソン)Sep 9, 2015(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

過去2年のメジャーリーグでは、キューバン・プレーヤーが旋風を巻き起こした。2013年はヤシエル・プイーグ(ロサンゼルス・ドジャース)とホゼ・フェルナンデス(マイアミ・マーリンズ)、2014年はホゼ・アブレイユ(シカゴ・ホワイトソックス)。それらに比べると、今シーズンのキューバン・プレーヤーはおとなしく、プイーグとアブレイユも例外ではなかったが(フェルナンデスはトミー・ジョン手術明け)、夏の訪れとともに、ヨエニス・セスペデス(ニューヨーク・メッツ)のバットが火を噴いた。

メジャーリーグ1年目にブレイクした3人のキューバンと違い、セスペデスは今シーズンが4年目だ。メジャーデビューから3年続けてシーズン20本塁打をクリアし、今シーズンも7月末にメッツへ移るまでに、デトロイト・タイガースで18本塁打を放っていた。また、2013年と2014年には、オールスター・ゲームのホームラン・ダービーで優勝している。他に2年連続優勝を成し遂げたのは、1998、99年のケン・グリフィーJr.しかいない(グリフィーは2000年の決勝ラウンドでサミー・ソーサに敗れ、セスペデスは今年のダービーには出場しなかった)。

これだけの実績があるとはいえ、今夏のセスペデスの猛打には目を瞠るものがある。7月と8月に8本塁打ずつを放ったのに続き、9月は最初の半月で9本塁打を叩き込んだ。8月以降、メッツでは他の打者も調子を上げ、9年ぶりのポストシーズン(プレーオフ)に向けてひた走っているが、もし、セスペデスが加わっていなければどうなっていただろうか。

メッツは当初、ミルウォーキー・ブルワーズからカルロス・ゴメスを獲得するはずだった。だが、ゴメスの健康状態に難があるとして、メッツは合意に達していたトレードを破棄。ゴメスはヒューストン・アストロズへ移り、メッツはトレード・デッドラインまで30分を切ってから、セスペデスを手に入れた。結果論になるが、ゴメスがアストロズで放った本塁打は4本に過ぎず、出塁率も.300を割っている。そもそも、ゴメスはセスペデスほどのパワーと強肩は備えていない。また、メッツが食指を伸ばしていた他の外野手のうち、ジャスティン・アップトン(サンディエゴ・パドレス)――アップトン兄弟の弟――は8月以降に8本塁打を打っているものの、それでもセスペデスの半分に届かない。ジェイ・ブルース(シンシナティ・レッズ)の本塁打はゴメスと同数で、出塁率はゴメスよりもさらに低い。

オフに入っても、セスペデスにはスポットライトが当たり続けそうだ。なぜなら、セスペデスはオフにFAとなる。

もちろん、外野手の大物FAはセスペデスだけではない。アップトン弟とジェイソン・ヘイワード(セントルイス・カーディナルス)がいて、アレックス・ゴードン(カンザスシティ・ロイヤルズ)は来シーズンの契約が選手オプションだ。さらに、一塁手ながら外野も守るクリス・デービス(ボルティモア・オリオールズ)もFAになる。年齢にしても、セスペデスが来シーズンの開幕を30歳で迎えるのに対し、ヘイワードは26歳、アップトン弟は28歳と若い(デービスは30歳、ゴードンは32歳)。だが、彼らと異なり、セスペデスはクオリファイング・オファーの対象ではない。

所属していた球団からクオリファイング・オファーを提示された選手が、他球団と契約した場合、その選手と契約した球団は次のドラフトにおいて、全体11位以降で持っている最も高順位の指名権を失う。例えば、昨オフにネルソン・クルーズと契約したシアトル・マリナーズは、クルーズがボルティモア・オリオールズからクオリファイング・オファーを提示されていたため、今年のドラフトで持っていた全体19位の指名権を失った。

9月上旬、メッツとセスペデスのエージェント(代理人)は、現在の契約に含まれていた条項を外すことに合意した。これにより、メッツはワールドシリーズ終了から5日間が過ぎても、翌年の5月15日まで待つことなく、セスペデスと交渉できるようになった。一方、セスペデスからすれば、メッツを他球団と競わせることで、どの球団と契約するにせよ、より好条件の契約を手にする可能性を高めた。Yahooスポーツのジェフ・パッサンによれば、セスペデスは1億2500万ドル~1億6000万ドルの契約を望んでいるという。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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