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堕ちたトップピック・コンビ結成!? 出所したドラフト全体1位がレンジャーズに入団

宇根夏樹ベースボール・ライター
ジョシュ・ハミルトン(テキサス・レンジャーズ)May 29, 2015(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

12月18日、テキサス・レンジャーズがマット・ブッシュとマイナーリーグ契約を交わした。ブッシュは2004年のドラフト全体1位だ。ただし、まだメジャーリーグの試合に出場したことはない。

サンディエゴ・パドレスから指名されたブッシュは、マイナーリーグで遊撃手としてプレーしていたが、バットから快音は響かず、2007年のシーズン序盤に投手へ転向した。当時、パドレスでクローザーを務めていたトレバー・ホフマンも、プロ入り当初は遊撃手だった。ブッシュは高校時代、エースとしても投げていた。

トップピックながら、野手として成功できなかったことは、そう不思議ではない。ブッシュの指名には、当初から疑問の声が挙がっていた。この年、ドラフト対象の大学生には、投手のジャスティン・バーランダー(全体2位)やジェレッド・ウィーバー(全体12位)だけでなく、遊撃手のスティーブン・ドルー(全体15位)もいた。地元サンディエゴの出身とはいえ、パドレスが高校生を指名したのは、契約金を低く抑えようとしたからだろう。高校生の遊撃手が全体1位指名を受けるのは1993年のアレックス・ロドリゲス以来だったが、ブッシュの評価はそれほど高くなかった。

ただ、ブッシュのこれまでの躓きは、フィールドでのプレーよりも、むしろ、フィールドの外にあった。投手としても台頭できていないのは、転向1年目に受けたトミー・ジョン手術が理由ではない。手術の前後とも、ブッシュは100マイルに達しようかという速球を投げていた。

パドレスと契約を交わし、アリゾナのルーキーリーグに送り込まれたブッシュは、バーの店先で用心棒と乱闘を演じた。入店を断られたのが、きっかけだったらしい。ドラフト指名から2週間足らずのことで、ブッシュはまだ1試合もプレーしていなかった。トミー・ジョン手術後のリハビリ中には、同じアリゾナ州ピオリアにあるパブで喧嘩。翌年2月には酔っぱらって車でサンディエゴの高校に行き、「俺はマット・ファッキング・ブッシュだ!」などと叫びながら、そこにいたラクロス部員に襲いかかった。

直後にトロント・ブルージェイズへトレードされてからも、ブッシュは問題を起こした。2ヵ月経たないうちに、パーティで女性の頭にボールを投げつけ、彼女の車のウィンドウを叩きながら脅した。入団時にゼロ・トレランスの適用を決めていたブルージェイズは、翌日にブッシュを解雇した。ブッシュは2008年に続き、2009年もまったくプレーしなかった上、飲酒運転で捕まった。その時の様子は、テレビのニュースで放映された。数名の警察官に取り押さえられたブッシュは、奇声を発しながら連行されていった。

それでも、アルコールを絶ったブッシュは、2010年にタンパベイ・レイズとマイナー契約を交わし、フィールドへ戻った。ところが、2012年のスプリング・トレーニング中に轢き逃げ事故を起こしてしまう。やはり、飲酒運転だった。バイクに乗っていて事故に遭った72歳の男性は、意識不明の重態に陥った。幸いにも、男性は一命を取りとめたが、ブッシュの選手生命はこれで終わり、メジャーリーガーになれなかった3人目のドラフト・トップピックとして、スティーブ・チルコット(1966年)とブライアン・テイラー(1991年)とともに、球史に名前を刻むと思われた。今年10月まで、ブッシュは収監されていた。

ブッシュが入団したレンジャーズには、ジョシュ・ハミルトンがいる。ハミルトンはドラフト全体1位でプロ入りした後、アルコールだけでなくドラッグにも溺れ、3年にわたって球界を離れていたが、復帰してメジャーデビューを果たし、MVPにも輝いた。

MLB.comのトーマス・ハーディングによれば、ブッシュがレンジャーズと契約する前に投げた速球は、95マイルを計時したという。ただ、父とともに過ごすことでアルコールを遠ざけておくことはできても、メジャーデビューまでの道のりはそう容易くないだろう。ブッシュは来年2月に30歳を迎える。ハミルトンのMVP受賞は29歳の時だった。ハミルトンが打ってブッシュが投げ、レンジャーズが勝利を収める日は来るのだろうか。少なくとも、ブッシュにとって、ベースボール・プレーヤーとしてのラスト・チャンスになることは間違いなさそうだ。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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