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「集団的自衛権行使の閣議決定」当日、 テレビは何を、どう伝えたのか?

碓井広義メディア文化評論家

7月1日、安倍政権は集団的自衛権の行使を認める閣議決定を行いました。憲法の主軸となってきた平和主義を根底から覆す解釈改憲です。これは単なる日本の安全保障政策の転換ではなく、この国の基本的な形を変えてしまう重大な出来事でした。

多くの国民の反対をしりぞけて、政府が日本を「戦争ができる国」としたこの日。テレビは何を、どう伝えたのか。民放各局とNHK、それぞれを代表する夜の報道番組に焦点を絞って検証しました。

「集団的自衛権行使の閣議決定」当日、テレビは何を、どう伝えたのか?

●テレビ朝日「報道ステーション」

あるニュースに対するテレビ局のスタンスは、放送する順番、時間の長さ、そして論調に現れる。この日、ほとんどの局がトップに置いていたが、最も長い時間をかけたのはテレビ朝「報道ステーション」で、38分だった。

番組では、集団的自衛権の行使に関する安倍首相の説明を受ける形で、「政府の判断次第で、どこでも攻撃できる」と問題点を指摘していた。

また恵村順一郎・朝日新聞論説委員の「3つの悪しき前例を作った」という解説も明快だった。その3つとは、「一内閣の閣議決定で憲法の基本原理である平和主義をねじ曲げたこと」「数の論理で押し通したこと」「国民に説明しないこと」である。

●TBS「NEWS23」

次に長かったのは、23分のTBS「NEWS23」だ。冒頭、アンカーの岸井成格氏は「戦後日本の大転換点。私たちだけでなく子や孫の世代までが極めて重い荷を持つ、そういう日になりました」と語った。

また会見で安倍首相が強調していた「歯止め」についても、「閣議決定の文章には、どこにも歯止めはない」と反論。「超えてはならない一線を超えた」と視聴者の危機意識を喚起した。

さらに憲法学者の小林節・慶大名誉教授へのインタビューも。「法が禁じていても、最高権力者がそれを無視するなら、それは人の支配であり、王様による王政だ」という真っ当な意見を紹介していた。

●日本テレビ「NEWS ZERO」

日本テレビの「NEWS ZERO」がこの件に割いた時間は15分。その中心は村尾信尚キャスターによる安倍首相へのインタビューだった。しかし、終始安倍首相の勢いに押されて、問題点に斬り込むまでには至らない。結局は政府見解のPRになってしまった。

●テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」

そしてテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」は、首相の会見、野党側の意見、中国や韓国の反応などを並べ、ビジネスへの影響を考えて、「近隣諸国へのフォローが必要」と8分でこの話題を締めくくった。

●フジテレビ「LIVE2014 ニュースJAPAN&すぽると!」

驚かされたのは、フジテレビ「LIVE2014 ニュースJAPAN&すぽると!」だ。何とトップニュースは「富士山の山開き」だった。

集団的自衛権については、これを行使することで「どのような行動が可能になるか」を説明。同盟国に向けたミサイルは迎撃可能で、機雷除去も出来る。あたかも“いいことずくめ”のような印象を与えていた。しかも伝えた時間はわずか6分間である。ジャーナリズムとしての役割を果たしていない。

●NHK「ニュースウオッチ9」

最後にNHK「ニュースウオッチ9」だが、23分を費やした割に肩透かしをくったような内容だった。

目玉は大越健介キャスターによる”自衛隊派遣の歴史”解説である。「貢献の模索→貢献から協力へ→戦時の強力へ→協力から抑止へ」が流れだと言う。その上で、「集団的自衛権というカードを持つことで、協力だけではなくて、日本への脅威を抑止するという性格が強まります」と結論づけた。

これではまるで政府見解の代弁、いや政府広報ではないか。今年1月の就任以来、問題発言を繰り返してきた籾井勝人会長の「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」をまさに具現化したような報道だ。

多くの国民の反対や懸念を無視して、政府が日本を「戦争ができる国」としたこの日。報道機関としてのテレビの見識と力量が問われ、その脆弱さが露わになった。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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