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Eテレ『バリバラ』が問いかけた、障害者とテレビの「危うい関係」とは?

碓井広義メディア文化評論家

8月27日の夜から翌28日にかけて、『24時間テレビ39 愛は地球を救う』(日本テレビ系)が放送された。約40年も続いており、テレビ界の夏の風物詩としてすっかり定着した大型チャリティー番組だ。

毎回、番組の軸となっているのは、障害を持つ人たちの様々な“挑戦”である。今年も、「富士登山をする両足マヒの少年」、「佐渡海峡40kmを遠泳リレーする片腕の少女」、「本田圭佑選手と交流する義足のサッカー少年」、「がんで顔の半分を失った少年」などが登場した。それぞれの取り組みを紹介するVTRを見て、つい涙を流した人もたくさんいたのではないか。

また100kmマラソンの林家たい平も、こん平師匠の待つ日本武道館に、番組終了直前に堂々のゴールイン。その時点で、約2億3400万円の寄付も集まり、恒例の「サライ」大合唱と共に“感動のフィナーレ”を迎えていた。

●Eテレ『バリバラ』の挑戦

『24時間テレビ』が続いていた28日の夜、NHK・Eテレはレギュラー番組の『バリバラ』を放送した。障害者をめぐる情報バラエティーであり、タイトルは「バリアフリー・バラエティー」の略だ。制作はNHK大阪。

司会はラジオDJの山本シュウさん。義足のスプリンター・大西瞳さん、脳性まひの障害者相談支援専門員・玉木幸則さん、そして多発性硬化症など3つの難病を抱える大橋グレースさんなどが出演している。

2012年から続いているこの番組は、「障害者と性」「障害者虐待」など、これまでタブー視されてきたテーマにも果敢に取り組んできた。何より、笑いとユーモアを散りばめたその作りは、福祉番組の既成概念を完全に打ち破っている。

28日は異例の生放送だった。テーマは「検証!『障害者×感動』の方程式」。しかも出演者たちは、胸に「笑いは地球を救う」の筆文字が躍る黄色いTシャツを着ていた。

この回で秀逸だったのが、重い障害者にしてコメディアン&ジャーナリストだったステラ・ヤングさん(1982-2014)が、生前に行った講演の模様を紹介したことだ。

彼女は、安易に障害者を扱った映像を健常者が見れば、「自分の人生は最悪だが、下には下がいる。彼らよりはマシだと思うでしょう」と指摘。障害者が「健常者に勇気や感動を与えるための道具」となっている状態を「感動ポルノ」と呼んで、その弊害を訴えていた。

●感動の方程式

毎年、『24時間テレビ』に接するたび、まるで免罪符のように「チャリティー」という言葉ですべてを押し通す姿勢が気になっていた。特に障害者の見せ方や表現に、どこか居心地の悪さや違和感を覚える人も多かったはずだが、ステラさんはその理由を明快に教えてくれたのだ。

『バリバラ』では、さらに一歩踏み込んで、テレビが「障害者の感動ドキュメント」を仕立て上げるプロセスを、ユーモアまじりに解説していた。

まず、障害者の「大変な日常」を見せる。次に「過去の栄光」と、「障害という悲劇」を描く。その上で、「仲間の支え」によって「ポジティブに生きる」現在の姿を見せて、一丁上がりというわけだ。感動を削(そ)ぐような描写を排除し、物語性を優先する作り手の姿勢まで、一種のパロディとして伝えていた。そして、この仕掛けを、「不幸で可哀相な障害者×頑張る=感動」という方程式で示したのだ。

番組が行ったアンケートでは、「障害者の感動的な番組」について、障害者の90%が「嫌い」と答えている。これって、かなり衝撃的なデータではないか。

テレビの作り手だけでなく、たぶん私たち視聴者のこころの中にも、この”感動の方程式”を受け入れる素地や基盤が存在する。いわば、作り手との”共犯関係”だ。

今回、「バリバラが24時間テレビを批判」といった形で話題になったが、これは批判ではない。テレビというメディアが生み出す、障害や障害者に対する固定化したイメージを、作り手も受け手も、そろそろ自己検証してみませんかという提案である。

ステラさんは、「障害は悪ではないし、私たち障害者は悪に打ち勝ったヒーローではない」と語っていた。それは、日ごろ『バリバラ』が標榜(ひょうぼう)する、「障害は個性だ」とも重なっている。感動のためでなく、ごく普通に生きている障害者と、ごく当たり前に、また日常的に向き合う『バリバラ』のようなテレビ番組が、ぜひ民放にも登場してほしい。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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