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私たちは無力か。はい、そう思っている限りは。:参議院選挙は低投票率?(特に若者たちへ)

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真素材 足成)

■低投票率

選挙戦たけなわですが、盛り上がっていない、低投票率になるだろうという報道も出ています(参院選:低投票率、懸念の声も:毎日新聞)。参議院選の過去最低投票率記録(44.52%、1995年)を更新してしまうのではないかとの恐れもあるほどです(参院選は低投票率?:読売新聞)。

前回の3年前の参議院選挙の投票率は、57.92%でしたが、53〜54%かとの予測もあります(参議院選挙、投票率の予想~53~54%前後か:Yahoo個人「児玉克哉の希望ストラテジー」)

特に若者の投票率は低い状態が続いています。前回の参議院選挙での若者の投票率は、20〜24歳が33.68%。25~29歳が38.49%でした(総務省選挙部・第22回参議院議員通常選挙における年齢別投票状況)。

昨年の衆議院選挙でも、20代の投票率は最低でした(「第46回衆議院総選挙:若者の投票率」・明るい選挙推進協会)。中高年が70~80パーセントの投票率なのに、20代は40〜50パーセントでした。20代は人数が少ないのに加えて投票率が低いですから、投票者総数に占める20代の割合はわずかに9%、60代の半分以下でした。

■なぜ投票しないのか

人は自分の努力が報われると感じるとき、意欲がわきます。自分が投票してもしなくても何も変わらないだろうと感じてしまえば、投票率も下がるでしょう。

日本はとても安定したすばらしい社会です。政権が変わったからと言って、すぐに戦争の危機が高まったり、すぐに自由が制限されたりといったことは、ないでしょう。若者にとっては、選挙の結果がどうであれ、自由で楽しい生活が続くと感じられるでしょう(たとえば『絶望の国の幸福な若者たち』古市憲寿 著)。若者たちに危機感はありません。

安定は、時に閉塞感をもたらしますね。チャレンジ精神を奪います。

それでも、若者の中にも、現状に不満を持つ人はもちろんいるでしょう。しかし日本はとても複雑で巨大な社会です。自分が何かしても、日本を良い方向に進めることなどできない、自分の生活は良くならないと、みんなが、特に若者が感じても無理はありません。

そんな中で、選挙の結果は見えている、対立軸が見えにくいとなれば、なおさら投票率は下がるでしょう。

■私たちは無力か

私は、今はマスメディアの方とお話をすることもありますが、以前そんなことをしていない時に、朝日新聞のある記事を読み、疑問を感じました。そこで、メールで意見を送りました。

もちろん、所属と実名を書き、「いつも拝読しております〜」といった書き出してきちんと意見を述べました。メールへの反応など何も期待しないまま。

ところが、後日記事を書いた記者さん個人から、長文のお返事をもらい、びっくりしました。そこには、記事を熱心に読んでくれたことへの感謝と、記事の意図が丁寧に書いてありました。

後に、マスメディアの方と個人的に話すようになって、この時の出来事を話題に出しました。巨大新聞などは、一個人からのメールなんて無視すると思っていたと。

けれども私の話を聞いて、メディアの人が驚いていました。読者、視聴者からのご意見は、もちろん読んでいますよと当然のように話してくれました。

私も、もちろん今は理解しています。

マスコミも、大企業も、政治も、それはそれは庶民の想像を絶する巨大な力によって動いています。たしかに、一個人がすぐに動かせるわけがありません。

しかし、1つの記事、番組、政策を中心になって作っている人は、意外と少人数です。手紙を出せばいつも返事をもらえるわけではありませんが、個人の意見でも、影響を与えることはできます。

誰が知事や市長になるか、議会でどんな質問がなされるか、それによって何かの制度や施設ができたり、できなかったりします。国も同様です。どの政党が政権を取り、誰が大臣になり、国会で誰がどんな質問をするか、どんな法律ができるかで、確かに私たちの生活は変わります。

普段の報道を見ていると、なかなか現実味がわかりませんね。若者たちに、それを実感しろと言ってもなかなか難しいでしょう。メディアも政治家も、もう少し伝える工夫をしていただければと願っています。

政治や行政の現場の方から直接お話を聞くと、たしかに感じます。

政治は動く。社会は変わる。私たちは影響を与えられる。

■私たちの影響力

国政選挙で、一票差で当落が変わることはそうそうないかもしれません。でも、まだ社会的力の足りない若者でさえ、一人が選挙に関心を持ち、誰かと何かを話し、投票に行けば、家族友人など数十人に影響を与えることができるでしょう。

その数十人が、それぞれさらに数十人に影響を及ぼします。特別な選挙運動や市民運動をしなくても、私たちは、意外に多くの人々に影響を与えているのです。影響が広がり、雰囲気が醸し出され、ムーブメントにまでなることもできるでしょう。

今回からは、ネット選挙解禁です。口コミ以上のスピードと広がりを持って、影響力が高まっていくことが可能でしょう。

■無力感を打ち破るために

人は、いったん無力感に陥れば、積極的に行動できなくなります。そうすると、もちろん影響力を行使できませんから、ますます無力感を感じることになります。

さらに、1つの分野で無力感を感じると、その無力感は広がります。英語ができないと思ってしまうと、劣等感を感じて勉強全てができないと思い込んだり、選挙で無力感を感じると、社会活動全般への無力感を感じます。そして、一人の無気力は周囲にも広がり、無気力が蔓延した社会になっていきます。

では、無力感を打ち破るためには、どうしたら良いでしょう。努力して大きな変革を成し遂げれば、無力感は克服できるでしょうが、簡単なことではありません。それではどうしたら良いでしょう。

心理学の研究によれば、無力感を打ち破るきっかけとなるのは、行動です。小さくても良いから、行動することです。

たとえば、環境問題を考えているとします。真面目な若者なら考えます。インターネットでいろいろ情報を得れば、それなりの理屈も言えるようになるでしょう。

しかし、世の中は巨大で複雑で、どこから手をつけてよいのか分かりません。そうすると、何もしないか、ただウダウダと偉そうに話すだけになり、プライドは高いが自信はない、無気力な若者になりかねません。

けれども、小さいけれども実際に行動を始めるとします。海岸清掃のゴミ拾いでも、市長宛のメールでも、募金活動でも、実際に行動します。それは、日本や地球の環境問題に何の影響も与えないかもしれません。それでも、実際に行動をすると、無力感が少しずつ揺らいでいきます。

自己満足だけでは困りますが、行動し、小さな自信や感動を持ち、あるいは実際に動いてみたからこそ、矛盾や怒りを感じるかもしれません。その思いが、さらに次なる小さな行動を生み、無力感は崩れていきます。いつか仲間が集まり、さらに活動しながら学び、大きなムーブメントになるかもしれません。

■選挙と無力感

生まれて初めて投票所に行ったとき、私は感動しました。今回の参議院選挙でも、初めて投票所に行く人たちがいるでしょう。あなたの一票だけで、選挙を直接左右することはないでしょう。けれど、あなたの一票は確実にカウントされます。

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どうせ何にもならないと思って投票しなければ、はい、そのとおり、あなたの世代の存在はますます無視されて、政治的に無力になっていくでしょう。無力感はますます深くなっていくでしょう。

あなたの投票行動は、あなたの無力感を崩すきっかけとなり、周囲を変えていく一歩になります。

私達は、私達は無力ではないと感じるとき、無力ではなくなるのです。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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