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私たちはなぜツイートや無断撮影で芸能人を怒らせてしまうのか:インターネットとツイッターの心理学

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

■無断撮影、中傷ツイートに怒る芸能人たち

お笑いトリオ、ロバートの山本博(35)が8日、自身のツイッターを更新、芸人仲間と温泉旅行に行ったことについて「しょーもない芸人崩れの分際で」と中傷され、ひどく落胆したことをつぶやいた。〜「ゴールデンボンバー」の樽美酒研二(33)が飲食店の食事の様子をツイートされたことにブログで怒りを表したほか、モデルのダレノガレ明美(23)が無断で撮影され「電車で盗撮されてTwitterに載せられた」と被害を報告、さらにお笑いコンビ「東京ダイナマイト」のハチミツ二郎(39)、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅ(21)らがツイッターで無断撮影に苦言を呈するなど“トラブル”が頻発している。

出典:ロバート山本も“被害”訴え 続発する無断撮影、ツイート実況… スポニチアネックス 7/8

これは有名税で、芸能人の側がガマンすべきことなのでしょうか。それとも、私たちの側の心の問題、ツイッターが抱える問題なのでしょうか。

■人に話したい欲求

芸能人を見たら、人に話したくなるのは当然でしょう。駅で、お店で、芸能人を見たら、誰だってちょっと興奮して、家族や友人に話したいと思うでしょう。

有名人や事故の目撃など、非日常の出来事によって、私たちは軽い興奮状態になります。この心の高ぶりを誰かと共有したくなります。

そこで、家族友人に「ねえねえ、聞いて」と話したくなります。

さらに、その目撃情報は情報的価値、ニュースバリューのあるものです。これを多くの人に話したら、自分への注目や評価が高まります。だから、みんなに話したくなります。証拠としての写真があればなおさらです。

以前なら、普通の人が不特定多数に情報を拡散する方法がありませんでしたが、今ならネットがあります。そこで問題が起きます。

(街頭パレードのように、見られることがわかっていて、写真に撮られることも暗黙の了解であれば、撮影した写真を個人のツイッターやブログに掲載する程度であれば、問題は少ないでしょう。)

■なぜ芸能人の悪口を言うのか

一人残らず全員に好かれる人はいません。その人の情報がたくさん出れば出るほど、嫌う人も出てくるでしょう。成功している人、有名な人が気にくわない人もいます。

テレビで見る様子と、プライベートの様子が違って、イメージが壊れたと不快に人もいるでしょう。

誰かを嫌うことはかまいません。しかし、普通はやたらと人には言いません。特に本人には言いません。

■なぜネットで芸能人を中傷してしまうのか

「芸能人」「有名人」は、私たちの話のタネになることがあります。私たちに話題を提供してくれます。芸能人、有名人を、ほめたりけなしたりということで、話題が盛り上がったりします。

テレビの番組や、週刊誌も、そういうふうに芸能人、有名人ネタを消費します。

それは、悪いことではないでしょう。それで、芸能人が売れたりするのですから。

ただし、私たちが個人的に言う悪口は、あくまでも仲間内の話です。誰それの演技は下手だ、歌詞が浅いといったことを、駅前でマイクで気軽に語る人はいません。新聞に投書するなど簡単にどこかに公表する人は、普通いません。

もし悪口(否定的な批評など)を公に語るとしたら、かなり準備して、覚悟して語るでしょう。マスコミが芸能人や有名人について否定的な情報を流すときには、実はいろいろ配慮の上でしていることでしょう。

そんな配慮なしに意見を公開すれば、トラブルにもなるでしょう。インターネットは、本当は世界に公開されていて芸能人や有名人本人でさえ読む可能性があることを、人は忘れます。ネットは非常に公の場なのに、とても個人的な場のような気がするメディアなのです。

芸能人のことを語りたい、ほめたりけなしたりしたい、その思いで、不用意にネット上で情報発信をしてしまうことがあります。

自分のホームページ、ブログなどは、まだ時間をかけて準備をしますが、ツイッターは気軽に投稿できるので、後々問題になるような発言もしやすくなってしまうのです。

■芸能人は傷つかない?

芸能人は、テレビでずいぶんひどいことを言われたり、されたりすることがあります。ただし、それは見た目とは異なり、十分な配慮のもとで行われています。でも、私たちはつい忘れます。芸能人は傷つきにくい、ましてや自分のような一般人が何か言っても傷ついたりしないだろうと感じてしまいます。

たしかに、日本中の家庭内や居酒屋でのおしゃべりでは、いろいろなことを言われているだろうと、芸能人も思っているでしょう。たとえ悪口でもそれは、仕方がないことです。

しかし、芸能人であっても、ツイッターなどネット上で個人が書いたものを個人で見てしまえば、あたかも目の前で個人的に言われているような気がしてしまいます。

芸能人も、傷つくのです。

インターネット、ツイッター以前なら、一般の人が簡単に芸能人や有名人に意見を届ける方法はありませんでした(ファンレターのような手紙は、時間をかけるので、通常配慮も生まれます)。でも今なら、一瞬の「つぶやき」が、本人に届いてしまうことがあります。

こうして、芸能人と一般の人々との不幸な出会いが生まれてしまうことがあるのでしょう。

だから、決して自分の名前で検索などかけないという芸能人、有名人もいます。賢い方法かも知れません。しかし、たまたま見てしまう、教えられてしまうことはあるでしょう。

芸能人の話題で盛り上がるのは、悪いことではありません。しかしそれでも、インターネットは公の場であり、本人を含めだれもが見る可能性があることは、忘れないようにしたいものです。

誹謗中傷とは言葉のテロリスト--日の丸マスク、室井佑月さん、木村花さん、山里亮太さん-->2020.05.30

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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