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夫や妻に先立たれた自死遺族のために:「SPEED」上原多香子さんの夫TENNさん自殺報道から

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
2014自殺予防デーのテーマは「窓辺にキャンドルを灯そう」。みんなでつながろう。

■家族の自死:「SPEED」上原多香子さん

自殺は、その周囲にとてつもない衝撃を与えます。ましてや、自分が第一発見者であった場合は、なおさらです。

歌手で女優の「SPEED」のメーンバーである上原多香子さんも、その衝撃を受けた1人となりました。

夫であるヒップホップグループ「ET-KING」のTENNさん(本名・森脇隆宏さん)が、自宅マンション駐車場の車内で首をつって自殺しました。35歳でした。第1発見者は妻の上原多香子さんでした。

■自殺の衝撃・葬儀の準備:TENNさん、上原多香子さんの場合

第1発見者となったのが上原だった。〜

上原の心の傷は癒えない。「依然としてショック状態が続いている。泣きじゃくったせいで、目は充血していて食事もままならない。多少の会話はできるが、話の途中で急に『何でこんなことに!』と泣き叫ぶこともある。~

「やはり変わり果てた夫を最初に発見した時の“映像”が鮮明に残っているようだ。少しずつ当時の様子を話し始めてはいるが、感情的になることもある」~

「喪主として最後まで葬儀をこなせるのか…」と心配する声も上がっている。

出典:夫の自殺受け入れられない上原 喪主務められるか周囲は心配 2014年09月27日東スポ

突然、目の前に愛する人の変わり果てた姿を見る。それは、どれほどショックなことでしょう。でも、自宅でなくなった場合などは、多くの場合、家族が第一発見者です。

私の知人も、親の自殺の第一発見者となったことがあります。また別の人は、家族ではありませんが、知り合いの首吊り自殺の第一発見者となりましたが、「二度と見たくない」と語っていました。ご遺体の様子は、テレビドラマとは違います。

それにも関わらず、すぐに葬儀の準備をしなくてはなりません。芸能人や社会的地位の高い方の葬儀であれば、なおさら大変です。関係者が大勢やってきます。

病死なら、病気や治療の様子を話しながら、さめざめと悲しむことができます。しかし、自殺の場合は、家族でも理由がよくわかりません。詳細など話せるわけもありません。

上原は喪主あいさつで「TENNくんは私の心の中で生き続けます」と亡き夫への思いを語り、最後の別れを告げた。~

上原は関係者を通じ「このたび主人の死はあまりにも突然でした。ファンの皆様や関係者の皆様にご心配をおかけしたことを心よりおわび申し上げます。これからも皆さんの心の中にいつまでもTENNくんがいてくれることを願います」とコメントを発表した。

出典:上原多香子 夫TENNさんの遺影抱え涙「心の中で生き続ける」 2014年09月28日東スポ

無事、夫であるTENNさんの葬儀は終わりました。喪主の上原多香子さんの態度も、ご挨拶も、とても立派なものです。しかし、立派に振舞わざるを得ないところが、辛いところです。

特別な亡くなり方ですから、「おわび」もしています。辛いですよね。

■責められる自死遺族、残された妻、夫

Yahoo!ニュースにには、「自殺TENNさん 上原とは別居同然、離婚話も:東スポWeb 9月27日」の記事も掲載されています。

SPEEDのメンバー、芸能人ですから、ある程度のプライバシーが報道されるのも、仕方がないかもしれません。

コメント欄には、上原さんを擁護する意見が出ています。(事実関係は不明の部分も多いですし、この記事が上原多香子さんを特別非難する記事ではないとも言えますけれども)。

「上原多香子さんにも責任があるというような記事を書く必要はないと思う。」

「上原さんが悪く言われてる感じは、あまりに酷すぎる…」

「精神的にショックを受けている上原さんを追い込むような報道はどうなんだろうか?」

妻夫の自殺後に、家庭の問題がいろいろ言われるのは、芸能人だけではありません。ひどい言われ方をされてしまう人は、大勢います。コメント欄にあるようにかばってくれる人もいますけれども、特に若い夫婦の場合は、近親者からひどく言われることも多いように感じます。

まだ若い息子や娘を亡くした親も激しく傷ついています。どこかに感情をぶつけたくなります。それが、亡くなった子の妻夫へと向かいます。自分の子どもを、結婚相手に殺されたように感じてしまう親、言ってはいけないことまで言ってしまう親もいます。

葬儀が修羅場となった、遺骨を渡してもらえなかった。そんな話は、めずらしくありません。

子どもに先立たれた親。この親も激しく傷ついている自死遺族です。自死遺族同士がさらに傷つけあいます。しばしば、亡くなった方の一番そばにいて、最も慰めを必要とする人が、最も強く責められます。

■物語をつむぎなおす

自死遺族である妻や夫。周囲から責められることもありますが、自分でも自分を責めます。何十年と連れ添ってきた妻や夫を自殺で亡くせば、様々なことを考えてしまいます。

「私が夫(妻)を殺した」と思ってしまう人もいます。

しかし、そんなことはありません。自殺は、予防段階では「止められる死」ですが、起きてしまった後は、どうしようもなかった死としか、言いようがありません。

自分を責めて激しく傷ついている妻や夫を、さらに誰が追い詰めることができるでしょうか。

ほとんどの場合、納得できる自殺の理由などわかりません。「私のせいだ」と思っている自殺の経緯、その物語を作り直す必要があります。長い時間はかかります。それは単純に忘れることでもなく、責任のがれでもありません。

長い悲しみと苦しみの果てに、二人が出会い、共に生活し、そして亡くなっていった、その物語を、悲しみと自責の物語ではなく、おだやかな物語として、心に受け入れる作業が必要なのです。

今は、心の整理をしながらゆっくり日常を取り戻せる努力をしたいと思います。

早く元気な姿を見てもらえるように頑張ります。

もう少し待っていてください。

出典:上原多香子オフィシャルブログ2014.9.30「皆様へ」

ああせらず、ゆっくりでしょう。

■自殺は不名誉ではない

自殺は恥ずかしいことだと、多くの自死遺族は感じます。だから、普通の死別のように、多くの人々と悲しみを共有して沢山のことを話しながら癒されていくことが、難しいのです。

自殺予防活動は大切です。しかし、自殺は不名誉ではないとWHOは言います。

毎年9月10日は、WHO世界保健機関が定めた「世界自殺予防デー」です。今年2013年のテーマ、国際標語は″Stigma:A major Barrier to Suicide Prevention″「スティグマ:不名誉のそしりこそが自殺予防の大きな妨げ」です。「スティグマ」とは、恥辱。汚名。悪い意味での烙印です。~

自殺は、残念なこと、悲しいこと、避けたいことです。けれども、恥辱ではなく、断罪されるべきものでもありません。~

避けたいからこそ、きちんと向き合わなくてはなりません。

自殺をスティグマと感じてしまうと、死にたい悩みを人に話せません。死にたい人の話を聞けません。

出典:自殺は不名誉ではない:世界自殺予防デー・自殺予防週間に考える私たちにとっての自殺問題:Yahoo!ニュース個人「心理学でお散歩」

自死ご遺族が安心して悲しめる社会が、自殺予防にとっても必要な社会のあり方ではないでしょうか。

■2014年自殺予防デーのテーマ

今年2014年のテーマは、

Light a Candle near a Window.

「窓辺にキャンドルを灯そう」。みんなで思いを表明し、みんなで、つながろう、という意味で作られたテーマです。

自殺予防の思いを持っている人たち、愛する人を失った人たち、そして自殺の思いを克服してきて人たち。

みんなで、つながろう。

自殺予防デー(9月10日)は過ぎてしまいましたが、私たちも互いに心に火を灯し、互いにつながりましょう。

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自殺予防総合対策センター

全国自死遺族総合支援センター

「自死遺族のつどい」全国マップ:ライフリンク

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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