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高齢者の自殺を予防するために:敬老の日に自殺する高齢者の心

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真:アフロ)

■敬老の日に自殺する高齢者

「敬老の日」。あちこちで、敬老のイベントが開かれます。元気で明るい高齢者たちが、ニュースに登場します。しかし例年のように、次の日の新聞には、敬老の日に自殺した高齢者のニュースが載ります。

高齢者の自殺は、「覚悟の自殺」であることが多いと言われています。この苦しみがあと数年続くのであれば、今終わりにしようと思い、確実な自殺方法を選んだりします。

それでも、人々の記憶に残りたいと願い、誕生日や敬老の日に自殺する「記念日自殺」が行われることがあります。敬老の日の自殺は、報道されやすいでしょう。また、思い出の場所で自殺するといった例もあります。

■高齢者自殺の特徴

自殺者の4割が高齢者です。若者の自殺は、大きく報道され強いインパクトを与えますが、数が多いのは中高年の自殺です。中年の自殺は、景気によって上下しますが、高齢者の自殺は高止まりです。

高齢者自殺の動機の6割は、病苦です。特に痛みを感じる病気や、日常生活に支障が出る病気が自殺につながりやすいと言われています。「楽になりたい」「治らないなら死にたい」などと思ってしまいます。そのあとに、経済苦や生活、家族問題が続きます。親しい人との死別など、喪失体験も自殺の危険性を高めます。

■高齢者自殺とうつ病

自殺の背景にうつ病があることも、よくあります。高齢自殺者の約 65% がうつ病であり、軽いうつ状態まで含めると約 75% にうつ病性障害の診断がつくと言われています。

特に高齢者のうつは、自殺への思いにつながりやすいとも言われています。体も病気のことも、実際以上に悪く感じてしまいます。

■家族と同居の高齢者の方が自殺する

高齢者自殺の9割以上が家族と同居している高齢者です。様々な人間関係の悩み、「長く生き過ぎた」「家族に迷惑をかけたくない」という思いから自殺を考える高齢者も多くいます。人間関係の悪化や、うつ病の発症によって、家族の中で強い孤独感を持つ人もいます。

■農村部での自殺

高齢者の自殺は、都市部よりも農村部で多くなっています。大家族の中で、60を過ぎてもずっと元気に農業をやって聞きた高齢者が、体が悪くなって農業もできなくなり、介護が必要になったときなどに、自殺の思いがわいてきます。

■高齢者の自殺に思う

私は、現在新潟県に住んでいます。新潟県は、かつて自殺率日本一の県でした。そのあとも、残念ながらそれほど下がってはいません。現在の自殺率のワーストは、秋田県です。新潟も秋田も、まじめな県民性が災いしているのかもしれません。ただ、両県とも高齢者率が高いことが、県全体tの自殺率を高めているとも言えるでしょう。高齢者の自殺は、深刻です。

私は普段子ども若者の接することが多いのですが、悩みを抱えている子ども若者の家で、高齢者が自殺するケースに出会うこともあります。どれほど高齢であっても、自殺は周囲の人間に強烈なダメージを与えます。

■高齢者の自殺予防

高齢者がもう一度若い頃のように元気になって、青年時代と同じことをすることはありません。けれども、「もう死んでも良い」と思っていた高齢者がもう一度生きる希望を持つことは、たくさんあります。

見事に人生を生き抜き、大往生を迎えた高齢者は、孫たちを始め周囲の人々に命の素晴らしさを教えてくれます。何歳であれ、自殺は止められる死ですし、止めるべき死です。

高齢者の自殺予防のためには、まずうつ病の早期発見早期治療があります。うつは、心の弱さではなく、治療ができる脳の病気だと、高齢者の皆さんにも知ってもらいたいと思います。

今感じている深刻に思える人生の悩みも、実は抗うつ剤を飲むことで、すっと消えることもあるのです。

かつて、新潟県の松之山町で、高齢者の自殺予防のためのうつ病の早期発見早期治療に取り組み、世界から注目されるほどの大きな成果をあげたことがあります。うつ病の予防と治療は、自殺予防に効果的です。

さらに、この活動の中では、町の保健師さんなどが高齢者をよく訪問するといったことがありました。おそらく、精神医学的な治療だけではなく、誰かが来てくれて、心配してくれて、話をしてくれることが、自殺予防に効果があったのではないかと思われます。

まじめな高齢者は、家族に迷惑をかけてはいけない、しっかりしなくてはいけないと思っていますが、そうでなくてもいいと思います。生きることは、誰かに迷惑をかけることですし、年をとったら多少だらしなくなっても良いでしょう。

そうして、みんなで生きていきたいと思います。敬老の日が、元気な高齢者にとっても、今元気を失っている高齢者にとっても、良い日になりますように。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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