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リュウグウノツカイと子どもの夢:大人は子どもに何を伝えるべきか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
新潟市水族館「マリンピア日本海」でリュウグウノツカイを触る子供達:筆者撮影

■幻の深海魚リュウグウノツカイ 展示始まる

「リュウグウノツカイ」。夢のある名前ですね。

8日に新潟県の佐渡沖で生きたまま捕獲された珍しい深海魚「リュウグウノツカイ」の展示が、9日から新潟市の水族館で始まった。〜訪れた人「めったに見られない。生きている間に見られないんじゃないか」「深海魚というから怖いかと思ったけれど、きれいで大きい」

出典:幻の深海魚リュウグウノツカイ 展示始まる 日本テレビ系(NNN) 2月9日

リュウグウノツカイが展示されている新潟市の水族館「マリンピア日本海」に行ってきました。シーズンオフのしかも平日でしたが、ニュースを聞いた大勢の市民が来ており、職員の方にもお話が聞けました。

(本物と共に掲示されていた説明文)
(本物と共に掲示されていた説明文)

■リュウグウノツカイ

深い深海に住む魚です。今回のは、長さ3.3メートル。今まで発見された最大のものは、11メートルもあります。

ほとんどの場合、リュウグウノツカイが見つかる時には、すでに死んでいます。痛みもあり、お客さんに見てもらえるような状態ではありません。ところが、今回は生きている状態で見つかりました。

上のニュースでは、美しい赤い背びれを動かしている映像が見られます。

それだったら、生きているまま水族館に連れて来れば良いのにと思います。佐渡の漁師さんたちもそう思ったようなのですが、水族館のスタッフによると、今のところリュウグウノツカイを水槽で飼うことは、ほぼ不可能だそうです。

そこで、佐渡から氷漬けで新潟市に送られ、そのまま展示されることになりました。とても良い状態での展示です。屋外に展示されていますが、この時期(二月)の新潟ですから、冷蔵庫に入れていあるようなものです。

■触ってもいいよ。

博物館や美術館にはよく書いてあります。「触らないでください」「作品には手を触れないでください」。当然のマナーです。でも、今回の展示には、そのような注意書きはありませんでした。

貴重な標本だと思うのですが、展示している水族館マリンピア日本海では、子どもに自由に触らせていました。子どもも大人も興味津々で触っていました。大人の方が、その貴重さを理解していますし、わざわざ子どもを連れてくるような熱心な親ですから、子どもよりも興奮している人もいました。

(新潟市水族館マリンピア日本海でリュウグウノツカイを触る子どもたち:筆者撮影)
(新潟市水族館マリンピア日本海でリュウグウノツカイを触る子どもたち:筆者撮影)

子どもは、リュウグウノツカイのその大きさにまずびっくりです。魚に詳しい子どもも来ていて、私や水族館スタッフに深海魚のうんちくを語ってくれる子もいました。

触れば標本の損傷は進みますが、常識の範囲内なら触ってもらっても結構ですと、スタッフの方はおっしゃっていました。職員がずっと見張っているわけでもありませんでしたが、子どもがいきすぎた触り方をしようとすれば、きちんと親が注意していました。

この状態で展示できるのは、どちらにせよ2〜3日ということでした。それならば、触ってもらおうということなのでしょうか。

展示後は、解剖して胃の内容物などを調べるそうです。何しろほとんど生態がわかっていない謎の深海魚ですから。

■子どもの夢と憧れリュウグウノツカイ

子どもころ持っていた図鑑、たしか世界の七不思議といった本だったと思いますが、大好きでいつも見ていました。その本で、ピラミッドの内部構造を知り、真ん中に穴を開けて自動車が通れるほどの大木があることも知りました。

深海潜水艦「バチスカーフ」の名前も、その本で知りました。そして、海の中にはどんな生物がいるかも。一番インパクトがあったのは、リュウグウノツカイ。この名前は、子どもでも覚えられます。その大きさ、奇妙な形は、子どもにとってとても魅力的でした。

深海生物大百科(学研)
深海生物大百科(学研)

こんな話を水族館の学芸員の方に話したところ、「私も同じです!」とおしゃっていました。

リュウグウノツカイは、ずいぶん前から名前が知られ、大体の形もわかっていたのに、詳しいことは今もわからず、私たちの知的好奇心を刺激し続けてくれている素晴らしい深海魚です。

多勢の子どもたちが、本の中で深海の神秘に触れ、リュウグウノツカイに憧れて、専門家にまでなる人もいるわけです。今回、本物のリュウグウノツカイを見て自分の手で触った子どもたちは、この体験をどのように広げてくれるのでしょうか。

■科学と世界と夢とセンス・オブ・ワンダー

かつて、子どもたちは科学に憧れを持っていました。アポロ月着陸に胸を躍らせていました。世界の不思議に眼を輝かせ、身近な自然に感動もしました。

現代では、以前ほど手放しで科学が賞賛されません。テレビやネットを通して、以前よりもはるかに膨大な情報、バーチャル世界に囲まれて、新鮮な驚きと感動を、「センス・オブ・ワンダー」を、失っている子どもたちもいます。

でも、科学も捨てたものではありません。科学者の不正が報道されても、経済的理由で宇宙開発が以前ほど爆発的に進まなくても、それでも科学者は子どもたちの憧れの存在であって欲しいと思います。

宇宙も深海も、子どもたちに素晴らしい夢を与えてくれます。今の子どもたちも、宇宙好き、恐竜好きは、たくさんいます。ただ、情報は多くても実体験はますます不足しているかもしれません。

子どもが地球を愛するために―「センス・オブ・ワンダー」ワークブック(人文書院)
子どもが地球を愛するために―「センス・オブ・ワンダー」ワークブック(人文書院)

子どもたちに、驚きとワクワク感を与えたいと思います。そして、子どもたちに伝えたいと思います。この世界にはたくさんの不思議があり、君たちがいつか成長して、その謎を解いてくれることを待っているのだと。

*センス・オブ・ワンダー(sense of wonder)「一定の対象(SF作品、自然等)に触れることで受ける、ある種の不思議な感動、または不思議な心理的感覚を表現する概念であり、それを言い表すための言葉」(ウィキペディア)。

新潟市水族館マリンピア日本海

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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