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安倍政権は委員会審議の最後に国民に語る言葉を持たなかった

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)

昨日の参議院の特別委員会の審議については、すでに色々な映像が流れ、色々な報道や評論がなされているところです。

(朝日)虚を突く可決、周到に準備 自民、前夜からシナリオ

(NHK)安保法案 参院特別委で可決 本会議に緊急上程

(読売)安保法案、参院特別委で可決…攻防は本会議へ

(毎日)安保法案:参院特別委で可決 与党、採決を強行

これについて、筆者が思うところをいくつ書きたいと思います。

一番重要な点は締めくくり総括質疑の省略

上記の記事では、いずれもほとんど強調されていませんが、昨日は、もともとの与党の審議計画では、安保法案を委員会で採決する前に、安倍首相が出席した締めくくり総括質疑を行うはずでした。日頃、出席権(義務の問題ではなく憲法で出席権があります)があるのに出ず、あろう事か委員会の開催時間帯にテレビ局で好き勝手を言った安倍首相がやっと国会の場で、政府の責任者として、最後の説明を行うはずだったのです。

しかし、特別委員会の鴻池委員長は、結局、総括質疑を省略して法案の採決に入りました。野党が鴻池委員長の不信任動議を提出したのは、このためです。

中立的に見ても、我が国の安全保障の在り方を根本から変更する可能性のある法案であり、大方の法律家・法学者が憲法違反だと考えている法案について、政府の責任者が議事録の残る正式な場で最後の説明を行うことは、極めて重要なことです。マスコミは、与野党で混乱状態が起こると筋のない政局報道に陥りがちですが、昨日の一連の流れの中で、一番重要だったのは、「国民に丁寧に説明する」としていた安倍政権の採ったこの選択だったと思います。安倍政権は、この重要な局面で、国民に語るべき言葉を持たなかったのです。

暴走する佐藤正久議員

もう一つ、昨日の審議で目についたのは、与党筆頭理事の佐藤正久議員(ヒゲの佐藤氏)の暴走です。鴻池委員長に対する不信任動議が出された後、審議がストップしている(しなければならない)状況で権限なく委員長席に居座り、動議の処理を進めようとするそぶりすら見せました。

振り返れば、この人は、イラクに派遣されていたときも、禁止されている「駆けつけ警護」の状態を無理矢理作り出し、交戦しようとしていたことを公言しました。

採決の際も、委員長にのし掛かった議員の責任はあるにせよ、佐藤議員はこれを排除するために鉄拳を見舞っているように見えます。軍隊で格闘技術を習得しているはずの人物が国会内で鉄拳を繰り出すのは論外でしょう。

筆者は、総じて、この人物に、旧陸軍以来の我が国の軍人の統制が効かない有り様を見いださざるを得ません。

英国BBCはこの画像を全世界に発信した
英国BBCはこの画像を全世界に発信した

特別委員会で果たして採決はあったのか

そしてそもそも、昨日、委員会の採決はあったのでしょうか。上記の朝日の記事で明らかなのですが、採決がされたとされる時、鴻池委員長を取り囲んでいたのは基本的に与党の議員です。「スクラムを組んで委員長を防衛した」というと聞こえがいいですが、要するに、与党自らが、混乱して議事録を作成できない状態を作り出したのです。

法律的には、決議すべき議員との意思の連絡のないところで、提案者である委員長が決議を採るべき文言を口の中で述べても、決議が成立しないことは明らかです。慣例により、委員長が職権で議事録に付記して可決されたことにするようですが、とても事後的な検証に耐えるものではないように思います。

この報いを受けるのは、当面は国会議員を選んだ国民ですが、国民がいつまでもこういう国会運営(舵取りをするのは与党です)を良しとするかは、別問題でしょう。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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