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森友学園が1億3200万円の税金を取得するまでの道のり

渡辺輝人弁護士(京都弁護士会所属)
安倍晋三首相(写真:つのだよしお/アフロ)

今日の国会での政府答弁は、安倍昭恵氏の「秘書」の政府職員(谷査恵子氏とされます)が森友学園の籠池氏に送ったFAXが「ゼロ回答」だということだったようですね。しかし、それは、大分、事実と異なるように思います。

2015年9月3日~5日は特異点

この間、方々で報道されていますが、2015年9月3日、安倍首相は当時の迫田理財局長と打ち合わせをしており、9月4日は大阪滞在。この日は森友学園の業者と近畿財務局が打ち合わせを持っていますが、政府は面会記録がないなどとして、その内容を調べようともしません。そして、9月5日には、安倍昭恵氏が森友学園の塚本幼稚園で講演し、名誉校長に就任しています。後述の2015年11月17日の政府職員から籠池氏へのFAXは、この9月5日の昭恵氏の講演・名誉校長就任とは関係があるとみる方が自然ではないでしょうか。

そして、もう一つ。2015年9月4日は、平成28年度(2016年度)の政府予算の「概算要求」の日でもあったのです(政府HP)。予算案における各府省の大枠の金額が決まった日なのです。このような日に、森友学園側と近畿財務局が打ち合わせをし、安倍首相が「安保国会」を抜け出して大阪にいたのは偶然なのでしょうか。

FAX送信は2015年11月17日

政府職員が籠池氏にFAXを送ったのは2015年11月17日のことです。話題の「2枚目」には、「時間がかかってしまい申し訳ございませんが、財務省本省に問い合わせ、国有財産審理室長から回答を得ました。」と籠池氏に詫びを入れた上で、以下の記載があります。

3) 土壌汚染や埋設物の撤去期間に関する賃料の扱い

平成27年5月29日付 EW第38号「国有財産有償貸付合意書」第5条に基づき、土壌汚染の存在期間中も賃料が発生することは契約書上で了承済みとなっている。撤去に要した費用は、第6条に基づいて買受の際に考慮される。

4) 工事費の立て替え払いの予算化について

一般には工事終了時に清算払いが基本であるが、学校法人森友学園と国土交通省航空局との調整にあたり、「予算措置がつき次第返金する」旨の了解であったと承知している。平成27年度の予算での措置ができなかったため、平成28年度での予算措置を行う方向で調整中。

このFAXの現物が以下です。工事費用の立て替えを政府が税金で「立て替え払い」し、「予算措置がつき次第返金する」とあります。

政府職員が籠池氏に送ったFAX(バズフィード提供)
政府職員が籠池氏に送ったFAX(バズフィード提供)

2016年3月15日の籠池氏・財務省面談

籠池氏はこの日、国有財産審理室長(昨日の証人喚問を前提にすると上記FAXの回答者と同一人物である田村嘉啓氏とされます。)と面談しています。その後、籠池氏は、3月24日に、土地の買い受け申出をします。そうすると、この面談の内容は極めて重要だった可能性があります。

2016年3月29日に平成28年度予算成立

この日に日本国の平成28年度(つまり今年度)の予算が成立します。

2016年3月30日の「合意書」

予算成立の翌日、(財務省)近畿財務局長武内良樹氏、森友学園籠池氏、(国交省)大阪航空局長加藤隆司氏が三者で合意して、大阪航空局の予算措置が完了すること等を条件として、国から森友学園に対する1億3176万円の「有益費」の「返還」が決まりました。つまり、国民の税金から、森友学園に対して、約1億3200万円の支給が決まったのです。今まで余り注目されてこなかった「有益費」の「返還」に関する合意書ですが、以下のようなものです。印鑑の部分だけ念のため黒塗りしました。

合意書1枚目
合意書1枚目
合意書2枚目
合意書2枚目

2016年4月6日の「返還」実施

そして、国の会計年度上、平成28年度になったその日の4月1日に大阪航空局は森友学園に返還通知をし、4月6日に送金されたようです。

有益費返還通知書1枚目
有益費返還通知書1枚目
有益費返還通知書2枚目
有益費返還通知書2枚目

どうして森友学園に税金が流れるようになったのか

筆者が森友学園の件を最初に取り上げた記事から指摘していますが、このように多額の税金を国から森友学園に支給することが可能になったのは、原則を曲げ、森友学園が国有地を買わずに、賃貸借契約(定期借地)を結んでいたからです。その間に森友学園がごみを撤去して土地の値段が上がった場合にはそれを「有益費」として「返還」する仕組みになっていたのです。

しかし、今日に至るまで、森友学園がどれだけのごみ撤去を行ったのか明らかではないし、そもそも、そのような大量のごみはなかったのではないかと推測されています。

そして、森友学園が購入した1億3400万円と、「返還」された約1億3200万円の差はわずか約200万円となります。ごみ撤去費用の根拠が不明のため、8億2200万円の土地代金の値引きは、9億5600万円の鑑定額からこの1億3400万円を導くために逆算された値である疑いもあります。

このような税金支給のスキームを考えついたのは誰なのか、いまだに謎に包まれており、本件の実務の側面では一番重要だと思います。

安倍首相の「ゼロ回答」は虚偽答弁ではないのか

それにしても、一連の流れを見ていると、2015年11月17日の政府職員から籠池氏宛のFAXが「ゼロ回答」だという、安倍首相の今日の国会答弁は、ほとんど虚偽に近いのではないでしょうか。この日のFAXが、いまだに根拠すらほとんど明らかになっていない約1億3200万円の税金支給に繋がっていることは、文脈の上では、なかなか否定しがたいのではないでしょうか。しかもそれを「工事費の立て替え払いの予算化」などとすら言っているようにも見えます。なぜ、森友学園の工事費用を国が税金で立て替えなければならないのでしょうか。こういうのを、安倍昭恵氏が口利きをして森友学園に便宜供与した、とは言わないのでしょうか。読者にご判断いただきたいと思います。

弁護士(京都弁護士会所属)

1978年生。日本労働弁護団常任幹事、自由法曹団常任幹事、京都脱原発弁護団事務局長。労働者側の労働事件・労災・過労死事件、行政相手の行政事件を手がけています。残業代計算用エクセル「給与第一」開発者。基本はマチ弁なので何でもこなせるゼネラリストを目指しています。著作に『新版 残業代請求の理論と実務』(2021年 旬報社)。

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