Yahoo!ニュース

少年達はなぜ悪事を投稿するのか? ―「モテたい」「分からせたい」その心理と対応について考える

矢萩邦彦アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

少年少女を中心にTwitterやYouTubeなどのインターネットメディアに、自分達のした悪事や悪ふざけを投稿して炎上するケースが後を絶ちません。

今年5月には、小学生を執拗に恫喝する中学生の動画が投稿されて炎上しました。また、従業員が冷蔵庫内や食材の上に横たわったり、ピザの生地を顔に貼り付けるなど“悪ふざけ”をしている画像がTwitterやFacebookから次々に流出して非難が集中するなど、この種の事件は後を絶ちません。Twitterなどは手軽さゆえに、判断のハードルが低くなっていることが考えられますが、YouTubeなどはそれなりに手間のかかる準備や作業を必要とします。いったいなぜ、そうまでして自分たちが犯人だと特定されるようなリスクを負うのでしょうか。

◆「見通す能力」と「自己破壊行動」

少年鑑別所勤務歴のある医師にお話しを伺ったところ「非行少年には軽度知的障害とされる知的にボーダーラインの少年が一般より多いです。また、自分のやろうとしている行為の結果が自分の首をしめることになることを見通す能力が弱いということもあるかもしれません。それから、無意識での事故傾性(※)や自己破壊行動の1つ、広義の自傷という考え方もできます。非行少年は自殺のハイリスクグループで、事故傾性や自己破壊行動は自殺関連行動の1つとされています。」というコメントを戴きました。

「ボーダーライン」とは、一部能力において一般より劣っていることを指し、外見では見分けがつきにくいという問題があります。そういった可能性も含め、行為をさらすことで、炎上したり、犯行を特定される危険について全く気付いていない可能性と、気付いていていながら、あえて実行しているケースがあるということです。どちらにしても一般的な尺度で判断することは難しそうです。

また司法精神医学の分野では「人を傷つけること(他害)と自分を傷つけること(自傷)の違いは、エネルギーが外に向くか内に向くかの違いだけ」、「殺人を犯すと、社会的には抹殺されることになるので広義の自殺である」という考え方もあるようです。

◆悪事を投稿すると異性にモテる?

この7月、神奈川県の小学4~6年生100人に「ネットに悪事を投稿する人がいるがなぜだと思うか?」というアンケートを実施したところ、最も多かった回答は「目立ちたいから」、続いて「強さをアピールしたいから」「モテたいから」「ばらして楽になりたいから」といった意見が目立ちました。

「悪事を投稿する」ことと「異性にモテる」ことの相関性について、「とても真面目・ちょっと真面目・普通・ちょっと悪い・とても悪い」の5段階からモテそうなのはどれか選んで貰ったところ、「ちょっと悪い」が最も多く、僅差で「普通」、残りの三項目はほとんど選ばれませんでした。またその傾向は高学年になるほど著しくなる傾向もあり、4年生では「普通」が最も多い結果になりました。「ちょっと悪い」の「ちょっと」がどの程度のことを指すのか。その共通認識がないため、それぞれの主観によって「ちょっと」悪い行為をしてしまい、結果として暴走となっているケースも考えられます。

また、6年生からは“いじめ”に関連する場合、「いじめられている姿をネット上にアップされると、いじめられてる人がもっと嫌がるから」という意見も挙がりました。自分では消せずに噂が広がっていくことへの嫌悪感は、机などに悪口を彫りつける行為とも似ているかも知れません。

◆SOSの可能性も。

問題行動を起こすことは、少年によるSOSと見ることもできるといいます。前述の医師は「秋葉原の事件でも事前に掲示板の投稿を無視され続けたとのことですが、この事件に限らずSOSを早くキャッチして適切に介入・援助することが大人に求められているのかもしれません。」と訴えます。実際教育現場でも、SOS型の悪戯や悪事は目立ちます。一度隣や前の席の生徒にちょっかいを出して注目されると何度も何度も繰り返して、問題になるケースもあります。また、いきなりガラスを割ってしまったり、非常ベルを押してしまうなどのすぐにバレるような行動も、よくよく話を聞いてみるとSOSだったのでは、と感じるケースも少なくありません。

「自殺をほのめかす人は、自殺などしない。かまって欲しいだけ。」と突き放す人がいますが、実際自殺した人の8割~9割は自殺するという意志を他者に伝えているといいます。僕自身が目の当たりにしたガラスを割った生徒も、いきなり割ったのではなく「割るよ」「割れるもんなら割ってみろ」という会話の後に割っていました。またその時の心境について「悔しかった。割れることを分からせたかった」と後で話してくれました。

自ら悪事をアップすることで、炎上し罪を問われる。そのことに対して疑問の声は多いですが、そもそも不条理な行動を一般的な尺度で考えてしまうことに、無理がある気がします。もし周囲の誰かがその兆候に気付いていれば、ネット投稿に至る前に、悪事を行う前に防げたケースもあるのではないかと思います。誰かの行動を見てズレを感じたときに、その奥の方で何が動いているのか、自分には理解できないことがある、という前提で想像力を働かせることで、これらの事件を未然に防ぎ、あるい再犯を防ぐ手がかりになるのではないでしょうか。(矢萩邦彦/studio AFTERMODE)

※事故を装った自殺や、自分自身の安全・健康管理を意図的に、あるいは無意識に疎かにする行為のこと。交通事故や転落事故のように、一見、自損事故に見えるようなものにも自殺が混在しているといわれています。

アルスコンビネーター/知窓学舎塾長/多摩大学大学院客員教授

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営。主宰する『教養の未来研究所』では企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに、住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近著『正解のない教室』(朝日新聞出版)◆ご依頼はこちらまで:yahagi@aftermode.com

矢萩邦彦の最近の記事