Yahoo!ニュース

「戦後70周年談話」の文言をチェックするメディアの愚。チェックはアメリカに頼めばいい。

山田順作家、ジャーナリスト

■あらためて「文言は使わない」と首相

安倍首相が発表するとされている「戦後70周年談話」をめぐって、侃々諤々の議論が続いている。とくに、メディアは、やかましいくらいこの問題を取り上げている。そんなに議論しなければならない大問題なら、首相は談話など発表する必要はないと思うが、そう主張するメディアは1社もない。

メディアはこぞって、談話の内容がどうなるのかを追及し、文言にこだわっている。

そのせいか、安倍首相も仕方なく、4月20日のBSフジの番組で、「戦後50年の村山首相談話と同60年の小泉首相談話と同じことを言うなら談話を出す必要はない。歴史認識については引き継ぐと言っている以上、もう一度書く必要はない」と述べた。

つまり、村山談話と小泉談話にあった「文言」を使う気がないことを、首相はあらためて示唆したのだ。

■「侵略」「損害と苦痛」「反省」「お詫び」

そこで、メディアがこだわっている文言を整理してみると、以下の4つになるだろう(村山談話と小泉談話より抜粋)。

1、「植民地支配と侵略」colonial rule and aggression

2、「多大の損害と苦痛」tremendous damage and suffering

3、「痛切な反省」deep remorse

4、「心からのお詫び」in a spirit of humility, heartfelt apology

安倍首相は真面目な方だから、この文言を使いたくないらしい。その点、小泉元首相は、戦闘地域を「そんなこと聞かれたって、私にわかるわけがない」と言ったように、文言など気にも止めなかった。単なる言葉遊びだと知っていた。

外交はある程度は謀略なのだから、本音など隠してしゃーしゃーとやればいいと思うが、安倍首相はどこまでも真面目だ。

■いまさら詫びることなんかできるか

なぜ、安倍首相はここまで真面目なのだろうか?

それは彼が、いまの日本人の本音を知っているからだろう。その本音とは、おそらくこうだ。

《昔だったら、日本はアジアでたった一国の先進国で経済的にも繁栄していた。余裕十分だった。だからいくらでも詫びることができた。

しかし、時代は変わった。中・韓は経済的に日本に追いつき、追い越そうとしている。もう日本には余裕はない。それに、これまでいくら詫びても黙らなかった。しかも最近は、反日を強めて外交的に脅しまでかけてくる。いまさら詫びることなんかできるか。》

■談話で必要な2つのポイント

というわけで、いつもいい子ぶって、正義は自分にあると思い込んでいるメディアを別にして、「戦後70周年談話」の本当のポイントを述べてみると、次のようになると思う。

その第一は、談話のメッセージで、中・韓に配慮する必要はまったくないこと。歴史認識はどうであれ、彼らの「半日」「怨日」という外交姿勢は、日本がなにをやっても変わらないのだから、文言がどうかなど気にする必要はない。

もしメディアが問題視する文言をすべて網羅したとしても、中国と韓国の姿勢は変わらない。とくに中国はそうだろう。なにを言おうと、中国がツッコミをいれてくるのは間違いない。「反日」の看板を下ろしたら、いまの中国は成り立たなくなってしまうからだ。

中国は、去年から南京事件の日を「国家哀悼日」にしてしまった。一度決めた国家行事を取りやめるなんてことはありえない。すでに、対日戦勝記念日を盛大に祝うことを決め、オバマ大統領まで呼ぼうと画策している。

ただし、中・韓に配慮する必要はなくとも、アメリカに配慮する必要はある。これが第二のポイントで、ここを失敗してはならない。

日本はアメリカに戦争を挑んで負けたのだから、彼らの歴史認識をひっくり返すことだけはタブーだからだ。

しかも、戦後の日本は安全保障をアメリカに委ねてきた。このことは厳然たる事実で、ここから逸脱してしまうと日本のスタンドポイントがなくなってしまう。

■なぜ日本はドイツのようにできないのか?

では、アメリカの歴史認識とはなにか? それは、(1)日本は私たちに戦争をしかけた「戦争犯罪国」である。その戦争犯罪を謝罪すべきだ。(2)日本は戦争により、人類に対して道徳的、人道的な罪を犯した。それを反省しなければならない。

この2点だ。つまり、東京裁判の結果をひっくり返してもらっては困るということだ。

このようななかで、一般のアメリカ人がいま思っているのは、「なぜ、戦後のドイツが近隣諸国と和解してうまくやってきたのに、日本はそれができないのか?」ということだ。だから、こうしたことにも配慮すべきだろう。アメリカのリベラルメディア(「NYタイムズ」など)も、このような見地から、日本の修正主義を批判する。したがって、こうしたメディアの餌食になることは日本にとって得策ではない。

アメリカ人はお人好しすぎて、日本が中華文明とは異質の文明国である点がわかっていない。ドイツが他の欧州諸国と同じ文明圏に属しているように、日本も韓国や中国と同じ東アジアにあるから同じ文明圏に属していると思っている。  

これは、とんでもない誤解だが、この誤解を解く方法はいまはない。

■「世界を救いすぎて失敗した」結果がいま

第二次世界大戦の戦勝国はアメリカだけである。中国(いまの北京政権)も韓国も日本に勝ってはいない。まして韓国は日本だったのだから当たり前だ。欧州でもソ連はドイツに勝っていない。アメリカのスターリンへの援助がなければドイツに勝てなかった。これは、英国も同じだ。

つまり、あの戦争で「勝った」ことを祝うことができるのは、アメリカ1国だけである。

そしていま、戦後70年を経た時点で、一般のアメリカ人が思っているのは、「あの戦争でアメリカは世界を救った」ということだ。ただし、一般以上のアメリカ人は「世界を救いすぎて、毛沢東やスターリンまで救ってしまったのは間違いだった」と思っている。

安倍首相は、この4月26日からアメリカを訪問する。議会でも演説するという。ならば、「戦後70年談話」をアメリカに添削してもらえばいいだろう。

日本のメディアに文言を添削してもらうより、私たち日本人にとって、よほどいい結果が出る。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

山田順の最近の記事