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どこが強行採決? 結局「戦争などできない安保法案」審議の壮大な無駄。1日3億円が消えていく。

山田順作家、ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

安全保障関連法案が7月15日、衆院特別委員会の採決で可決された。その前夜、日比谷野外音楽堂では、主催者発表約2万人が「絶対に戦争をさせない」と集まり、デモ行進をしたというが、この程度の法案(不備だらけ)で、どうやって戦争ができるのだろうか?

できるというなら、誰かそれを解説してほしい。なにしろ、後方支援は戦争参加ではないというのだから、わけがわからない。

いずれにせよ、この程度の安全保障法案では、日本の平和と安全保障は保てない。それなのに、そんな現実は無視して、これまでどうでもいい不毛な論争が続いてきた。

「強行採決反対」「国民の理解は進んでいない」などと言って反対してきたメディアや野党、反対派は、正直言ってなにに反対しているのか、さっぱりわからない。ともかく反対すれば、日本の平和と安全は保たれるという“化石思考”だから、100万年たっても“日本は戦争ができる国”にはならないだろう。

そもそも、今回の採決は「強行採決」ではない。議会多数派の単独採決であって、これができないなら、民主主義の下での選挙の意味がなくなる。また、国民の理解というが、学者が言うように「憲法違反」なのだから理解できる国民がいるとしたら奇跡だ。それなのに、与党議員まで「国民の理解が進んでいない」などと言ってポーズをとってきた。

学者に言われなくても、野党や反対派が言うように、安保法制が憲法違反なのは誰でもわかる。そうでないというなら、国語のテストをやったら全員0点だ。

つまり、問題は国語のテストにあるのではなく、憲法違反でも解釈論で乗り切らなければならいほど、現在の国際情勢が切迫していることにある。

そんなことはどうでもいいと、前夜にプラカードをつくり、採決となるとそれを掲げた野党議員は、国会を幼稚園とでも思っているのだろうか?(それにしても、あのプラカードは自分でつくったのだろうか?)

今回の安保法制審議で仰天することが2つあった。

一つは、13日行われた安保法案の衆院特別委員会の公聴会で、岸田外相が、「後方支援は武力行使には当たらないので、ジュネーブ条約の適用がない。捕虜として扱われることはない」と何度も答弁したことだ。つまり、自衛隊員は後方支援地帯で敵国軍に捕まると捕虜にもなれない。

そんなおバカな国と戦争できるのだから、敵国にとって、こんなありがたい法律はない。

もう一つは、先月の24日、民主党の岡田代表がテレビで「グアムなど米国へ飛んでいくミサイルまでやる(自衛隊が迎撃する)べきだというなら、裸の(全面的な)集団的自衛権を憲法改正して認めるしかない」と述べたことだ。

民主党が安保法制、憲法改正に反対している以上、この発言は、海上自衛隊のイージス艦がグアムに向かうミサイルを探知しても見過ごすことを意味する。そんなことをしたら、日米同盟は終焉し、日本の平和・安全保障はその瞬間に崩壊する。

北朝鮮は弾道ミサイルを持ち、いずれその射程は日本を飛び越える。核の小型化が進めば、いつでも東京を核攻撃できるだろう。中国の弾道ミサイルも日本を射程に収め、巡航ミサイルの脅威も高まっている。それなのに、それを度外視して、国会で的外れの論戦をしてくれるのだから、北朝鮮も中国も、日本のおバカぶりに目を丸くしているだろう。

目を丸くしているといえば、アメリカのほうが100万倍丸くしているかもしれない。核の傘を提供し、属国の安全保障と自国防衛のために、極東に軍を展開しているというのに、その属国は自国軍(自衛隊)をいっしょに行動させない。行動させるとしても後方支援だけと言っているのだ。

しかも、それですら反対している野党や反対派は、茶番と知りつつそれをやっているのではなく、“本気”のようだから、こんな恐ろしいことはない。日本はいつアメリカを裏切るかもしれないと思うだろう。

本当に、安保法制の審議は時間の無駄だ。憲法改正に踏み込んで、はっきりと決着をつけないかぎり、このままでは日本の不安定な状況は永遠に続く。それなのに、まだまだこの問題で国会審議は続き、国会会期は延長されるという。

国会を1日開けるだけで、約3億円の税金が使われるという。この中には、人件費や経費、秘書給与などを合わせて議員1人当たり1日約20万円、衆参750人分で1日約1億5000万円に上る費用も含まれる。さらに、政党助成金は1日1億円かかるとされる。

こんなおバカな審議は、即刻打ち切って、日本経済を再生させる政策の審議に切り替えてほしい。

作家、ジャーナリスト

1952年横浜生まれ。1976年光文社入社。2002年『光文社 ペーパーバックス』を創刊し編集長。2010年からフリーランス。作家、ジャーナリストとして、主に国際政治・経済で、取材・執筆活動をしながら、出版プロデュースも手掛ける。主な著書は『出版大崩壊』『資産フライト』(ともに文春新書)『中国の夢は100年たっても実現しない』(PHP)『日本が2度勝っていた大東亜・太平洋戦争』(ヒカルランド)『日本人はなぜ世界での存在感を失っているのか』(ソフトバンク新書)『地方創生の罠』(青春新書)『永久属国論』(さくら舎)『コロナ敗戦後の世界』(MdN新書)。最新刊は『地球温暖化敗戦』(ベストブック )。

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