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これは断じてゴスでもロリでもない

山口浩駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

巷で話題になっているこの記事。

私はアリス? 稲田朋美大臣、自称ゴスロリのドレス披露」(朝日新聞2013年6月1日)

「メード・イン・ジャパンのドレス、似合っていますか」。稲田朋美クールジャパン戦略担当相(54)が31日、横浜市で開かれたアフリカ開発会議の行事に自称ゴスロリ(ゴシックロリータ)のドレス姿で現れ、日本のファッションを売り込んだ。

「自称」とわざわざ書いてあるのは当然意味がある。こんな感じ

これはひどい。

これは断じてゴスでもロリでもない。

巷では、ドレスが似合ってるとかいないとか、あるいは稲田大臣ご自身の容姿についてあれこれいう向きもあるようだが、もちろんそういう話ではない。このくらいの年齢の女性が改まった場でドレスを着るのは別に何もおかしくないし(この場がそういう場かどうかよく知らないが)、このドレスが変だとか似合ってないとかも思わない。このドレスは大臣の地元・福井県のデザイナーと婦人服メーカーの作品だそうで、「不思議の国のアリスをイメージした」というあたりは正直よくわからないが、ドレスとしてはいいものなのだろうし、政治家が地元産品を宣伝しようというのはよくある話だ。

私がひどいと思ったのは、クールジャパン戦略担当相である稲田大臣が、これを「ゴスロリ」と称した、という点だ。繰り返すが、これはゴシックでもロリータでもないだろう。もちろんいわゆるゴスロリと呼ばれるファッションには一定の幅があるはずで、どこまでがその範疇になるのか、あまり詳しいとはいえない私にはなんともいえないが、これはさすがにちがうと思う(レース?が「それ」にあたるのだろうか?本気でわからない)。

ゴシックもロリータも西洋由来だが、それらを組み合わせたゴスロリは日本でできたものであり、その意味で日本はゴスロリファッションの中心地といえる。海外でも人気は高く、外国人オタク向けの日本ツアーでは、男子は秋葉原だが、女子はゴスロリブランドの「聖地」ともいえるラフォーレ原宿がある原宿が定番のコースとなっている(参考)。当然、昨今のクールジャパン戦略の中にも入っていて、だからこそ稲田大臣も言及したのだろう。

だったら。

ゴスロリだというなら、きちんとゴスロリの服を着るべきだ。ゴスロリはクールジャパン戦略の一翼を担う存在であり、日本が海外に売り込みたいものだろう。ならば大臣自らゴスロリに関する誤った、あるいは不適切なイメージを発信するのはいかがなものか。これはいってみれば、「これが日本が誇る西陣織です」と言いながら黄八丈を紹介する、みたいなもので、どちらにも失礼なふるまいだ。もしゴスロリが何なのか知らないで言っているのだとしたら、自ら担当する政策の内容を知らないという意味で、それこそ大臣としての適性を問うべきだ。

ATELIER-PIERROTでもh.NAOTOでもかまわないが(年齢的にはJuliette et JustineとかLumiebreあたりの方がいいかも?)、クールジャパン戦略担当大臣が自ら、クールジャパンの一翼を担うゴスロリブランドのファッションに身を包んでゴスロリを宣伝するというなら、たとえ世間が「イタい」と笑おうが「年齢を考えろ」と批判しようが、私は全力で支援申し上げたい。それは心意気の問題だろうし、そもそも年齢や容姿の問題で人を嘲るのは少なくとも私の趣味ではない。

そうでなく、地元のメーカーを引き立てたいというなら、ただ「これは地元のメーカーとデザイナーが」といえばいい。クールジャパンはゴスロリ以外にもあるわけで、このドレスもクールジャパンと胸を張ってお勧めすればよかろう。しかしゴスロリでないものをゴスロリと称して、クールジャパンを海外発信しようという大臣が自らその足を引っ張るようなことをするのは、やはりいただけない。

というわけで、ぜひ次の機会には、本格的なゴスロリファッションで周囲をあっといわせてもらいたい。きっと「ゴスロリ大臣」として「歴史に名を残すことができると思う。閣内には「ローゼン閣下」もいらっしゃることだし、いっそ「ゴスロリ内閣」と打ち出してみてはどうか、などと思考が暴走し始めたので、このへんで撤収。

駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授

専門は経営学。研究テーマは「お金・法・情報の技術の新たな融合」。趣味は「おもしろがる」。

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